150000打企画

有為転変 / ヒソカ

世話係の女の人がまた死んだ。

人の死は驚くほどあっけなく簡単に訪れて、最初はただただ驚いた。今まで、呼吸を繰り返し、熱を発していた体がピクリとも反応しなくなる。

世話係になる女の人は皆ニコラの恋人だった。さらさらとした綺麗な髪の毛を持っていて、整っている顔は非の打ち所が無く、彼女たちはいつも甘い香水の匂いを放っていた。ボクに当てられた「仕送り」は、いつも彼女たちの美容代に変わるのだが、お金の管理は彼女たちがしているのだから、仕方が無いとボクは思っていた。


ボクの家の近くは治安が悪かったから、よく知らない人が勝手に入ってきて物を盗んだり、世話係の女の人を襲ったりしたが、ボクは助けることもせず、見ていた。恐怖心よりも好奇心のほうが勝って、初めのうちは飽きずにその綺麗な女の人の死体を見ていたけれど、何回も死体を見ていくうちに新鮮味がなくなり、興味が失せていった。


女の人たちを助けたほうが良いのかなと、思ったこともあったけれど、誰かにそれを非難されることは無かったし、恋人であるはずのニコラでさえ、その現状を受け入れていて、それが普通なことなんだとボクは思うようになった。小さいボクに助けを求める女の人はいなかったし、ボクに関心を持つ人もいなかった。



町に出れば、人がいる。人がいれば、お金がある。


念能力者であるボクは、彼女たちからお金をもらわなくても十分生きていけたし、飢えることなんて無かった。ボクはボクの人生に満足していたし、これから起こるであろう出来事も受け入れていた。何か目的があって生きているわけではない。生きるほど、価値のある世の中でもない。別に死んでやっても良かった。そんなことをニコラに言うと、「かわいそうな子ね」と眉を垂らしてボクを憐れむように見た。



ボクからしてみれば、彼の方がもっとかわいそうだった。臓器移植のために生まれたのに、その役割を果たすことができないとして簡単に捨てられた彼の方がずっと哀れに思えた。自分の恋人が死んでも心を痛めることもできない彼の方がよっぽど悲しい人間だ。



ニコラは女の人が死んじゃうと、早くて1週間後、遅いと1ヶ月後に新しい世話係を、つまり恋人を連れてきた。





だから、女の人が死んだ翌日の夕方に研究所のトラックが、玄関先に止まっていたのを窓から確認した時、ボクは本当に驚いた。しかも、トラックから出てきたのは、あまり綺麗じゃない人だった。黒目黒髪の扁平な顔をしたパッとしない女の人で、服も地味で冴えない。

ボクは今までと毛色が違う彼女に興味を覚えて、玄関まで走った。丁度、彼女がドアを開けて、ボクらは目が合った。




「こんにちわ。私、今日から世話係をやることになった―――」





女の人はボクを見て一瞬驚いたような顔をしたけれど、挨拶して自分の名前を名乗ると、ボクに笑いかけてくれた。










この日が、一生忘れられない特別な日になるなんて、その時、ボクは思ってもみなかった。それは、世の中に価値ができ、ボクの人生が色づき始めた日だった。


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