闇側のアジトで、とレギュラスは長くて暗い廊下を軽い足取りで歩いていた。
「でね、グリフィンドールをぶっ潰そうっていうルシウスの子供染みた計画なんだけど、私も加担しようと思うわけ」
「お姉さまの目的はグリフィンドールじゃなくて、ミス・エヴァンスでしょう?」
「あら、ジェームズ=ポッターもよ」
「ああ、彼」
「そう、彼。すっごい目立ちたがり屋な彼。出しゃばりで目障りな彼。トムの次くらいにダサい名前の彼」
「ちょ、お姉さま。言葉は選んで下さいよ」
「何よ。アンタ、ジェームズ=ボンドのファンなの?」
「違くて、トムの方」
「あー、トム=ハンクスの」
「ヴォルデモート様の本名です!トム=マールヴォロ=リドル!」
「ちょ、敬称忘れてる。忘れてるから!『様』付けなさい。『様』を!純血と言えども、アンタ殺されるわよ。雑魚キャラだから」
「うわ、ひど。」
「彼、自分以外は皆虫けらだとか、素で思っちゃってるタイプだからね。あれ、天然だから。人口比考えずに、マグル支配なんか掲げちゃってるし」
「マグルかー。でも、実は僕、憎しみを抱くほど、マグルとのつきあいありませんから、こう実感がないんですよね。お姉さまはマグルを憎んだこととか、あるんですか?」
「勿論あるわ。ってゆーか、マグルでなくともあるし。例えば、アンタとか」
「げ。この間の事、まだ根に持っているんですか?あー、質問を変えます。お姉さまは、マグルを殺したくなったこととかありますか?」
「以前、ロンドン観光をしている時、隣を通り過ぎる車が水たまりを跳ねて、私のお気に入りのスカートが台なしになったことがあったの。さすがにあの時は、普段温厚な私もマグルを一掃したいと思ったわ」
「器ちっさ!!」
ヴォルデモートの部屋の前に着いて、さあ扉を開こうという所で、レギュラスはルシウスに貸していた本を返してもらっていなかったという、どうでも良い用事を思い出し、踵を返した。彼の後姿を見ながら、はノックし扉を開いた。
四方を本棚で囲まれたその部屋は廊下と同じくらい薄暗く、目を擦りたくなるほどだった。は部屋の中央奥にある大きな机に座って本を読んでいる男を視界にとらえ、頭を軽く下げた。
「夜分遅くに失礼致します。ヴォルデモート卿」
「か。2年目ともなると、ローブが様になってくるな」
「全て卿のおかげでございます。心より感謝申し上げます」
「我々にとっても、お前がこちらについてくれるのは悪くない話だ。アジア勢力が我々につけば、俺様が書いた筋書き通りことが運ぶ。魔法省内部の様子もお前の報告書によって、ずいぶん透明性が増している。さすが、アジアが誇る優れた人材だな。使える人間は嫌いじゃない」
「そのようなお言葉を頂けるとは、この身に余る光栄。非常にうれしく思います。時に、卿は本の読みすぎで目がお疲れのようですね。目が充血して真っ赤です」
「これは生まれつきだ」
「・・・。さようでございますか。」
「婚約の話だが、お前にはマルフォイ家に嫁いでもらうことになった。ルシウスからの強い要望だ。えらく気に入られたもんだな」
「東洋人が物珍しいのでしょう。彼が私を見る目には侮蔑と嘲笑がはっきりと伺えます。」
「ほう、分かるか」
「人はそういう類の視線に敏感ですからね。卿にもその経験があると存じ上げていますが」
「・・・、寿命を縮めたくなければ、言葉に気を付けろ」
「ご気分害されたのであれば、お詫び申し上げます。が、しかし、我々は闇側と手を組むに当たって、貴方がたの内乱を危惧しております。つまり、純血一族が貴方に反旗を翻す可能性があるのではないかと」
「俺様が、混血だという話はどこから聞いた」
「上からの報告ですので、詳細は存じ上げません。ただ、我々は純血一族よりも混血でありながら彼らを支配する立場におられる卿に敬意を払っております。そして、同じ迫害された経験を共有できる卿を我々は同胞として歓迎しております」
「共有された経験と価値観か」
「手を組むのには十分な理由かと」
二人が視線を交わし、辺りが静まったその時、ろうそくが揺らぎノックが鳴った。
「失礼致します」
「レギュラスか、なんだ?」
「父からの報告書をお持ちしました」
「ああ」
レギュラスが分厚い報告書をヴォルデモート卿に渡そうとしたとき、彼が持っていた本が鈍い音を立てて落ち、とヴォルデモートはそれに目を向けた。本のタイトルは『不老不死になる為に』という、なんともファンシーなもので、レギュラスは顔を真っ赤にして屈み本を拾おうとするが、部屋に響いた二つの声に手を止める。
「「アクシオ 来い!」」
「、手を離すんだ」
「卿はお強いので、このような本は必要ないかと」
「離せ」
「いや、こういうのは、やはり・・・」
「あのー、それの中身『闇の力-護身術入門』ですよ。表紙だけ変えたんです」
「「バカ!中身はどうした!!」」
「ひっ!!す、捨てりゃいました。申し訳ありません!」
明日を生きるのに必死な二人
共有された価値観