畑シリーズ

お茶を濁す:その場しのぎでいい加減なことをして取り繕うこと


暁にが家政婦として働き出してから一週間が過ぎた。  

彼女の不遜な態度から、2,3日で暁の誰かが彼女を殺すのは
目に見えていたが、ペインがを殺したものに新しい家政婦を見繕わせると決めたため、彼女は未だ生かされていた。に部屋は与えられていない。寝床は洞窟中央のソファーで、常に監視されている状態だった。


一般人なら、確実にノイローゼで死んでいただろう。そういう意味では、鬼鮫の選択はあながち間違いでもなかったのだ。彼らが望むのは、愚鈍で弱く詮索をしない、けれども、仕事の出来る家政婦であった。は、それを忠実こなしていたし、それ以上に彼らの行動に無干渉で、それは鬼鮫をはじめ多くのメンバーを安心させた。





洞窟にはトイレも風呂もないため、彼女には自由時間が朝昼夕に10分づつ与えられた。基本的には外出禁止とされ、もしもメンバーの許可なく外に出た場合、彼女の命の保障はされないことになっている。最も洞窟には何十もの結界が張られているため、それ相応の能力がない限り、出ることも入ることも叶わないのだが。









「不死身!?うっそー!!」


暁の基地の中央で、梨の皮を剥きながら悲鳴を上げている女が一人いた。普段、部屋に篭りっきりの暁のメンバーも尾獣の情報が入ると、基地にいる者は中央に集まりだす。今日も収拾がかかったのだが、肝心のペインが来ないため、暇をもてあましていた。



ことの発端は、飛段の自慢話だった。
勿論、耳を傾けたのは新参者ののみで、他のメンバーは、人形作りだとか、爆弾作りだとか、とにかく自分の趣味の時間として使っていた。



「人を疑うのは人間の悪しき習慣だ。俺は嘘をついたことがない!」


もっともらしい顔で飛段が断言するが、このときその場にいた誰もが、それは嘘だ、と思ったのはいうまでもない。梨の皮を剥き終わったが、ナイフに梨を突き刺して口に入れる。シャリシャリと気味のいい音が洞窟に響き、少しの沈黙の後、租借し終わったが口を開く。



、信じらんなーい」


「だったら、試しに俺を殺してみろよ。」




飛段が自信ありげにニッと笑い、親指を首に当てた。は、一瞬目を周りに走らせると、果物ナイフ舐めて口を弧に描いた。角都が怪訝に思って眉を潜めた直後、はチャクラを練ってナイフを投げつけたのだ。





「!?」


ザシュッと、肉の千切れる音がし、鉄の匂いが当たりに充満する。チャクラを織り交ぜたナイフの殺傷力は十二分で、飛段の親指と共に首を引き裂いた。一瞬のことで、その場の誰もが現状を理解できなかった。

まあ、誰もが耳こそは傾けていたものの自分の作業に集中していて、血の匂いを嗅いで初めて飛段に目を向けたためでもあるが。しかし、当事者の飛段も、離れた自分の首と胴体を呆然と見るだけで、悲鳴すら上げることができなかった。

しばらくして、周囲の視線を集めていると知ると角都はを睨み付けた



「信じらんねー。この女、本当にやりやがった。」



「きゃー」



飛段が胴と首の離れた状態でしゃべりだすと、それを遮るように、が悲鳴ををあげ、椅子ごとひっくり返って気絶した。その様子を見ていた角都がため息をついて、床に転がった飛段の首を見下ろす。




「おい、飛段、家政婦で遊ぶな」


「これが遊んでるように見えるか。俺は被害者だろ。見ろよ!首と胴が離れちまった!」


「避けろよ」


「ああ?避けるだと?お前、あの速さを見なかったのか?」


「見てねーよ。誰も」




角都後ろを振り返ると、遠目から様子を伺っていたデイダラと鬼鮫が、肩を諌めて首を横に振る。飛段が舌打ちをして、忌々しそうに床に横たわっているを見やると、それに反応するように目をパチリと開いた。

そのままガバリと起き上がると、角都に向かって質問を投げかけた。





「今日って何日?!」



「お前は死ぬまでここにいるんだ。日付なんか知ったって意味ないだろ。」


「きゃー!飛段ちゃん、その状態でしゃべらないでー!マジキモーイ」



「んだと、このアマ!ーーって、角都、俺の頭はもっと丁寧に扱え!」



角都が転がっていた飛段の頭をぞんざいに持ち上げ、体から出した糸で胴体とくっつける。は目を細めてその様子を見ていたのだが、それを邪魔するように横からデイダラが口を挟んだ。



「で、何か用でもあんのか?うん?」



「デイダラちゃん、聞いてっ!ってば、超スゴイことに気づいたの!」



が大きな声を上げたため、中央に集まっていた人間が一斉にのほうを向いた。





「生理用品がないの!!」




「「「「「・・・」」」」」


一瞬、妙な沈黙がその場を支配し、誰もがピタリと動きを止めた。が腕を組み、首を傾げて唸りだすと、デイダラが頬をかいて口を開く。



「あー、誰か買いに行けよ。うん。飛段、お前行けよ。」


「いや、俺、首と胴体が不安定だし、角都、お前どうだ?」


「金貰っても御免だ」



三人が面倒ごとを擦り付け合っていると、それを見かねたサソリが三人を一喝した。



「お前らは、もの一つ買うことも碌にできないのか」


「そういうサソリの旦那が行けばいいだろ。うん。オイラは嫌だ」






その後に、サソリも加わって壮絶な仲間割れがなされたのだった。












*********













「で、なんで、こーなんだ。うん」


「すみませーん。チョコレートバナナデラックス・パフェお願いしマース!」

「かしこまりました。そちらのお客様は?」

「オイラはいらないぞ。うん」


「あ、店員さんっ、この子にはー、ストロベリーミラクルキュートサンデーで!トッピングのナッツは超多めでよろしくネっ」


「おい、ちょっと待て。それ、誰が食うんだ!」





あの後、ペインの計らいによって結局ジャンケンで決着をつけることになり、運の悪いデイダラが食料や日用品の買出しも兼ねて町に行くことになったのだ。面倒だからを連れてきたのだが、更に面倒なことになったのは言うまでもない。

両手いっぱいに荷物を持たされたと思ったら、甘いものが食べたいと騒ぎ出し、気疲れしていたこともあり、従順に従うと女性だらけの店に連れてこられた。甘ったるい匂いと女性陣の香水の匂いが混ざって、鼻がひん曲がりそうだ。

目の前の女は、自分のことなど気にもせず、パクパクと注文したものを消化している。言いたいことは腐るほどあるのだが、一度栗色の目に捉えられると何も言えなくなるから不思議だ。







一つ確かなことは、昔彼女に合ったことがあるということだ。いつどこでは、定かではないが、この瞳に見覚えがあった。

自分は一度見た顔を忘れるような忍びではないはずだが、現に忘れてしまっているのだから人間の記憶とは存外頼りにならないものだと思う。の顔を見ながらボーと思いを巡らしていると、店先からドタンと物音がし、次いで子供の泣き声が聞こえた。

転んだのだろう。耳を劈くような声にデイダラは、舌打ちをこぼした。他の客も顔を顰め、鬱陶しそうにその親子を見やる。



「うん!満腹!」




そんな周りの様子などお構いなしに、ジュースをズーと吸いきっては立ち上がり、伝票を持っていく。思い出せない女のことも、泣いている子供も気に食わない、口をへの字にしたデイダラは両手で持つべき買い物袋を全て左手に持ち、右手で粘土をこね出した。


「爆発は芸術だ。うん」


基本的に彼は、爆発にしか解決策を見出せない男なのだ。
















泣いて蹲っている子供は5歳ほどの男子で、膝を擦りむいていた。が会計を済ませている間に、子供一人を殺めるなど雑作もないことで、少々馬鹿げているとも思ったが、たまった鬱憤を晴らすにはちょうど良いと納得する。子供の元まで、5歩というところでの背中に遮られた。


「おい、どけ「何この子、超ウザイ!バリ耳障り!もー、我慢できなーい!キー」



今更泣いている子供に気づいたのだろうか、急にが真っ赤になってヒステリックに叫びだした。客の刺々しい視線の対象が子どもからに移り、相方であるデイダラにも非難の目が向けられた。

人々の怯えた目には慣れているが、白い目で見られる経験のないデイダラは、この状況に戸惑いを感じ、最終的に居た堪れなくなって、を諌める立場に回った。騒ぐを黙らせると、さっさと会計を済ませ店を出た。


なぜ自分がこんな目に合うのだ、なんて思う暇も与えてくれないらしい、店を出た瞬間にが思い出したように手を打った。




「あっ、デイダラちゃん!、トイレ!」


ピシと右手を上に上げて主張する。


「お前には、羞恥心がないのか?うん?」


「トイレに忘れてきましたっ!」



こんなことを大真面目に言うから、会話相手はたまったものじゃない。再び店の中に入っていくの後姿を見ながら、デイダラは盛大なため息をついた。ガラス越しに先ほどの親子の存在を見つけ、楽しそうにはしゃいでる子供の姿を忌々しく思う。



「なんか、オイラだけが苦労してるようなきがするぞ。うん」



もう一度、ため息を付こうとして視線を下げたとき、子供の怪我がすっかり治っていることに気づく。






「アイツ・・・まさか」



ため息が舌打ちに変わった瞬間だった。










*********










トイレに入り鍵を閉めると、は胸元から巻物を取り出し上に掲げる。


「・・・夕顔」


が暗部の名前を口にすると、天井から黒髪を携えた女が現れた。報告書を開き、一通り目を走らせると顔をしかめた。


「先輩、もっとまともな自己紹介はできなかったんですか?」



「まともな?・・・例えば、忍びになった理由を『福利厚生がしっかりしていて、女性でも差別を受けずに働ける環境が整っていたからです。』って、言ってみたり?」



がトイレについている洗面器で手を洗い始めると、夕顔は軽いため息をついて報告書をたたみポーチにしまう。夕顔が天井に戻る際、ハンカチで手を拭きながらが独り言のように呟いた。


「適当で良いの、適当で。自己紹介を鵜呑みにするような奴らじゃない」



夕顔は、いつも潜入操作を慎重に行うが、今回かなり冒険しているのを見て、怪訝に思うが、口を出せる立場でもないため、それ以上何も言わなかった。彼女の任務はの報告書を里に持っていくだけなのだ。

余計な詮索も口出しも無用だし、必要以上の助言は失礼に当たる。
夕顔は口を噤むとそのまま煙と共に消えた。
















**********









から報告書を受け取り、木の葉までの距離を瞬身でやってくると、さすがに暗部の夕顔でも息が上がった。[あん]の門を通ると、術を解いて、歩き出す。早朝の木の葉は活気もなく薄暗いが、暁の住まう森とは違い、温かみがあり人を安心させる。

夕顔は額に光る汗を拭い、よく知った人物の気配を感じて足を止める。




「・・・カカシさん」


振り返ると、木に寄りかかって本を読むカカシの姿があった。


「よ、朝っぱらからご苦労さん」


「任務内容も報告書の内容も秘密厳守なのは、あなたがよくご存知のはずです。私は何もお見せできません」


「でも、お前が偶々報告書を朗読しているところに、俺が偶然通りかかって内容を聞いてしまうことはあるかもしれないよね」


カカシが本から目を離さずに、何でもないように言うと、夕顔が血管が浮き出ているであろうこめかみを手で押さえた。


「カカシさん、あのですね・・・」


「夕顔、本当だったら誰が行く予定だったと思う?」


低い声と共に言い知れぬプレッシャーが夕顔の体を襲う。蛇ににらまれた蛙の状態よろしく、体が動かなくなる。ゴクリと息を呑見込んで、私です、と蚊が鳴くような声を出した。


の様子だけなら良いでしょーよ?」



震えそうになる足に力を入れるが、耐え難い圧力によって、足がすくむ。汗が背中を伝い、唇が震えて、自分の恋人に助けを求めたくなる。勿論、特上である自分の恋人は、目の前にいる上忍に勝てるわけもないのだが。


本をパタンと閉じたカカシが、夕顔の近くに寄ると、命を鷲掴みにされたような気分になる。



「任務は順調で、先輩は元気です。・・・むしろ、木の葉より潜入先のほうが居心地が良い。―――っておっしゃってました。」





「・・・って、ある意味やばくなーい?その内容」



頭を掻き毟って苦虫をつぶしたような顔をするカカシと、その横で顔を青くしている夕顔。







二人分のため息が、木の葉の朝日とともに昇った。

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