人間

お題:踊る(提出済み)

道化師は常に脇役だ。
道化師は自ら動いてはいけない。
道化師は人を欺かなければならない。
道化師が舞台に立つためには喜劇が必要だ。



**************


「1時間以内に好きな人と踊ってください。そうしないと貴方は死にます」




細木○子ばりのユニークかつアグレッシブな予言をされて私は息を飲んだ。
夜中に急に友人が新しい念能力を開発したと電話をしてきたのが、ことの始まりだった。
数十分後、彼女は勝手に家に上がって来て興奮気味に新しい念能力について話し始めたのだ。寝ぼけ眼で聞いていたから、ほとんどの内容は右から左に流してい た。 彼女のオーラはかなり強い部類に入るもので、特殊系だからか、いつも変った念能力を開発しては見せに来るのだ。迷惑極まりない。



被験者になることは今までに一度もなかった。しかし、今回は勝手が違った。
パジャマ姿の私は急に抱き締められ、そして冒頭の言葉が放たれたのだ

これでも念能力者の端くれ、念が発動されたのが分かった。

が、彼女の放った言葉に耳を疑う。




好きな人と踊ってきなよ。じゃないと死んじゃうよ?ギャハハハ!」





うん、前から思っていたけれど、念能力者にはモラルが著しく欠けている人間が多いよね。






好きな人と言ったら、普通恋人になるんだろうが、私は違った。
乙女心と秋の空っていうやつ?

そう、恋人がいながらも、ヒソカに恋をしてしまっていたのだ。




「盗賊の頭の次は変態ピエロねー、もヤバイ趣味してるよねー。ギャハハハ」
なんて、友人からは言われた。




とにかく、タイムリミットまで1時間、着替えを済ませると私は携帯と財布をつかんで焦って家を出た。ヒソカの携帯番号はすぐに恋人によって消されるので、自分から連絡は取れない。大きく溜息をつくと、携帯のメモリーからミルキ=ゾルディックを表示し、電話をかける。三回目の呼び出しで、相手が出た。腕時計の針はちょ うど午前0時を指していた。



「さすが夜型人間。あー、ミルキ、私よ。私。あのさー、ヒソカの居場所知ってる?え、今忙しい?アンタ、ギャルゲーと私どっちが大事なのよ!え、ギャルゲー?ちょ、待てデブ、今の台詞は聞き捨てなら」




ブツッという音が聞こえて、じわりと額に汗が滲む。ウソ、切られた?ツーツーという音を発している携帯電話を持ったまま、は固まったのだった。彼が自分の体型をコンプレックスに思っていたことを思い出し、額に手をやる。近くのタクシー乗り場に足を向けながら、今度はヒソカが懇意にしている女性に電話をかけてみる。


「あ、マチ、ヒソカの居場所知ってる?そんな事言わないで、お願い。緊急事態なの!理由は・・・ ちょっとバカらしすぎて言えないけど、一刻を争う自体なのよ。・・・今風呂に入る所?グッドタイミング!周りの気配を探ってみて、彼がいるかもしれな」




ツーツーツーツー。携帯から機械音が虚しく漏れる。冗談が過ぎたのかもしれない。後悔した。タクシー乗り場に着いたが、深夜が稼ぎ時だからだろうか、タクシーが一台も止まっていなかった。背中に嫌な汗をかく。1時間とはこんなに短いものだっただろうか。それよりもヒソカが1時間で行ける範囲にいなかったら、どう なるんだ!



あ、死ぬのか。・・・。




三度目の正直と、神に祈るような気持ちでかけた先はベビーフェイスが売りの友人。呼び出し音が何回かして、留守電に繋がる一歩てまえくらいに彼は電話に出た。





「あ、シャル?久しぶり、今良いかな?因みに近くにクロロはいないよね? そう。・・・あのさ、その、えーと、ヒソカの居場所って分かる? あー、この話クロロに内緒にしといてね。実はかくかくしかじかで・・・。 え?・・・ヒソカのどこがそんなに好きかって、決まってるじゃない。性格よ。って、 シャルにコレ昨日言ったよね。 ん?なになに、あんな変態ショタコンピエロには絶対に近づいちゃいけない? ヤダ、シャルってば、クロロみたいなこと言わないでよ・・・え、・・・クロロだ? ・・・え、だって、シャルの声だよね。盗んだ能力だ?・・・・・・・・・。」






今回は自主的に切りました。いや、切るよね。今のは切るよね。うん、私は悪くない。悪くない。携帯を切りバッグにしまった直後、また着信音が鳴り響いた。クロロだと思って電話に出ずに歩き始めるが、5分たっても鳴り止まないので、携帯を取った。



「只今、留守にしております。ピーという音の後に御用件とお名前をどうぞ。ピー ・・・・・・・・・・・・その声は、ヒソカ?」




クロロがヒソカの声を出して電話をかけてくる可能性は万が一にも無い。彼のヒソカ嫌いは筋金入りだ。それは、私がよく知っていた。私はすぐさま彼の居所を教えてもらい、ネオンの光にを目印に、ヒソカがいるバーまで走った。




タイムリミットまで、あと10分。


小洒落た地下バーのカウンター席に座るヒソカを発見して息をつく。薄暗い店内にはポツポツと客がいて、品の良い音楽がかかっている。席に着くとマスターに適当なカクテルを頼み、ヒソカに向き合った。今日は仕事が無かったのか、化粧をしておらず服装も普通の黒スーツ姿だった。



「今日は化粧していないんだ?」



も、スッピンだね」


クスクス笑うヒソカを見て、死にたいと思ったが、ここで話を進めないと真面目にお陀仏だ。私は、「好きな人」のところを適当に誤魔化しながら彼女の友人の能力について話した。



「というわけで、一緒に踊ってヒソカ。」




ヒソカはクスクスと笑うと、の腰に手を回した。
はヒソカの手に自分の手を置き、安堵の溜息を吐く。




「あの子、本当何考えてるんだろ。ヒソカが1時間で行けない距離にいたら死んでたし!」



の友達も粋な能力を開発するよね★」



耳元で呟かれた言葉に息を飲んだ。






「君が僕を選んでくれて、うれしいよ」







踊るヒソカ、踊らされる私










Home