「貴方の隣にいるメス豚はなんですか」
新型インフルエンザの流行のおかげで休校になった私は、その日午前中をゲーセンで過ごし、午後は亜久津に会いに山吹中に行き、校門の前で白い制服を着た亜久津と彼と話している若い女性に声をかけたのだった。「母親だ」と面白くもない冗談を言ってくる亜久津を私は鼻で笑ってやった。
「へえ。貴方がそういうマニアックなプレイが好むとは知りませんでした。これからは、私のことを『ママ』と呼んでくれても良いですよ」
「てめえ、ぶっ殺すぞ」
「で、貴方、一体彼の何なのです?」
「貴方があゆちゃん?いつも息子がお世話になってます。一度会ってみたいと思っていたのよね。こんなに早く会えるとは思わなかったけど」
「・・・えっと、本当に・・・、亜久津の、お、お母様、でいらっしゃるんですか?」
「ふふ、嫌だ。あゆちゃんったら、もう、気が早いのね」
「(うわ、ド天然) お、お若いですね。凡人からこんな怪物が生まれるとは梅雨にも思わず、失礼なことを、あ、いや、お母様が、あまりにお綺麗なので、その、動揺してしまって。ハハハ」
「動揺のあまり『メス豚』呼ばわりしたって訳だ」
「・・・。あ、実は、この近くにおいしいモンブランのお店があるんですが、お時間ありましたら一緒にいかがですか?これから亜久津君と行こうと思っていたところなんです。」
「おい、聞いてねーぞ」
「嫌ですねぇ。今、言ったじゃありませんか」
「ああ、そうだったな。てめぇに常識を求めた俺が悪かったよ」
「本当に仲良いのね。仁君に、こんな可愛いガールフレンドができるなんて、私うれしいわ。でも、これから用があるから、また今度誘ってね」
「(仁君!?)あ、いや、そうですか。それは非常に残念です。はい。それでは、また次の機会に」
「うん、また今度ね。」
亜久津の母親の遠ざかる背中を見ながら、私はため息を零し亜久津を睨んだ。
「あのですね。ああいうことは先に言っておいてもらわないと困ります」
「ああ?」
「『自分の母親は若作りが上手く、同年代に見られることもあるため、自分の隣に女性が歩いていたとしても無闇やたらと喧嘩をふっかけてはいけない』とか、事前に言ってもらわないとですね。こちらにも都合というものがあるんですよ。」
「知るか。初対面の相手をメス豚呼ばわりする奴の都合を考えている暇はねーよ」
「人間は第一印象で7割が決まると言います。これは最悪ですよ。男女の間の第一印象最悪イコール恋愛フラグ、ですが、同姓の場合ライバルフラグです。どうするんですか。亜久津」
「仲良くなる必要なんてねーだろ」
「あの女、『仁君、付き合う友達は選びなさい。あんなガラの悪い子ダメよ!』なんて言って、私たちの仲を引き裂くつもりですよ」
「おい、口には気を付けろよ。てめぇに『あの女』呼ばわりされる覚えは無い」
「・・・亜久津、貴方、マザコンだったんですか」
これは私が親友にドン引きした日の話