脱線

My Girl Friend



「麻雀部屋のソファで事に至るとはどういうことですか?神聖なる麻雀部屋で、不純異性交遊、性的逸脱行為を働くなんて最低です。」


「そのお楽しみの最中に部屋に入ってきて、そのまま宿題始めたのはどこのどいつだ?ああ?最低なのはどっちか言ってみろ」


「動揺したんですよ」


「クソが。『動揺』って言うのは、見た瞬間に悲鳴を上げて部屋から出て行くことを言うんだよ」


「それじゃ、麻雀ができません」

「てめぇ、邪魔しにきただけじゃねーか!」






テニス部をやめて晴れて自由人になった亜久津だったが、それも付かぬ間、が入院している間に女遊びに拍車がかかり、しかも複数彼女ができてしまったため彼はをないがしろにするようになったのだ。これに黙っているでは勿論ない。始めのうちは、金、力、人脈などを使って彼女たちを片っ端から掃除していったのだが、亜久津は有能なゴキブリホイホイであった。彼に寄っていく女は後を絶たず、は日に日に疲弊していった。一度、亜久津に「なら、お前が相手してくれんのかよ?」と聞かれたこともあるが、少し考えてからは首を横に振った。初めては出血し、その上痛みも伴うと雑誌に書いてあったからだ。








同じ頃、景吾といえば、都大会で青学に敗退し、決勝まで進めなかった彼は憂鬱とした毎日を送っていた。親や使用人には腫れ物のように扱われ、学校に行けば慰められ、励まされ、同情される日々が続き、嫌気が差していた。

そんな暇をもてあましていた二人が平日、ヒルトンホテルの喫茶店でお茶を飲むことになったのは、ある意味必然であった。二人は気分が落ち込むと必ずそこを利用するのであった。



「なあ、どこか遠くに行きたくないか?」



にミルクと砂糖を入れさせたコーヒーを手に取ると、景吾はぽつりとそう零した。はその言葉を聞いてハンカチをぎゅっと掴んだ。



「傷心旅行ですね」

「・・・俺は別に傷ついてない」

「・・・YES WE CAN。アメリカとか良いですよね。元気が出そうです」

「アーン?行くならヨーロッパに決まっているだろ」

「私、一度ラスベガスに行ってみたかったんですよね」

「ダメだ。ギリシャに行くぞ」

「自家用ジェット機はやめてくださいね。雰囲気もへったくれもありませんから」

「民間機使うのも、たまには良いだろう。・・・言っておくけどな。俺は、試合について慰められたくなくて使用人や家族と会いたくないとか、そんなこと思ってないからな」

「出発は明日にしますか?」

「いや、今から成田に向かう」


「良いですね。一分一秒でも早くこの国から離れたいと思っていたところです。真紅のルージュが似合う女のいないところなら、もうどこでも良いです」

「なんだ、そのルージュの似合う女って」

「亜久津(のタイプ)ですよ」

「喧嘩したのか」

「・・・別に」

「くだらねえ。お前の悩みは本当いつもくだらないな」

「そういう貴方は、どんな理由があってここにいるんですか」

「・・・別に」





二人分のため息がコーヒーから出る白い湯気とともに宙に浮かんだ。
タクシーで成田空港に向かいながら、二人は両親に旅行に行く旨を伝え、家政婦に荷物を至急成田に送るよう頼んだ。そして明日から一週間は胃潰瘍で休学することを担当教員に伝えた。常軌を逸した彼らの行動を止める者は残念ながら存在しなかった。








**********









かくして、俺たちは上海行きの船便「タイタニック号」に搭乗したのだった。「縁起の悪い名前ですね」と愚痴るを横目に俺は二人分の荷物を持ち上げた。



タクシー内でアメリカかギリシャで言い争っていた二人だったが、渋滞に巻き込まれたタクシーが成田についたのは、最終便が発った後だった。翌日早朝の便に乗ろうと提案した景吾に対し、一分一秒も日本にいたくないと言い出したが勝手に東京湾から出る船を手配し、成田に送られてきた荷物を受け取ってさっさと別のタクシーに乗り込んでしまい、その後を景吾も追う羽目になったのだ。


手荷物検査で景吾が持ってきたアタッシュケースを台に置くと、は「あ」と声を上げた。


「そのアタッシュケースは私が欲しかったエルメスの新作じゃないですか。何で貴方が持っているんです」



の口ぶりは、まるで景吾がそれを所有する人物に相応しくないと批判しているようであった。


「外はワニの皮で作られ、内側は羊皮で柔らかく仕上げた世界に6つしかない高級品です。鍵穴の脇に本物のダイヤモンドが散りばめられていて・・・」


エルメスの販売担当者かと間違いそうになるくらい勢い良く話し出したに、呆気に取られていた景吾だったが、やがて後がつかえていると気付くと、しゃべり続けるの腕とアタッシュケースを取ってさっさと船の中に入った。




「欲しいなら旅行が済んだ後やるから、落ち着け」

「私、景吾さんが婚約者でよかったです」

「・・・。やっぱ、やんねー」

「貴方、たまにガキくさいことを平気で言いますよね」





飛び入りで船に乗ったと景吾がスイートの部屋を取れるはずもなく、彼らは一般個室を宛がわれた。二人用のベッドにしては狭く、そして枕とマットが自分の家のものと比べてずいぶん硬かったため、は景吾に文句を垂れ、景吾は「だから、言っただろ。今日は大人しくホテルに泊まって、明日飛行機で出発すれば良かったんだよ」との判断を非難した。

一頻り相手を罵った後、空腹感を覚えた二人はそのまま夕飯を取るために中央にあるレストランに向かった。

しかし、一旦止んだように思えた口喧嘩も前菜を食べ終わり空腹が満たされると再開した。




「どうしてお前はそう自分勝手で我侭なんだ」

「その言葉、そのまま貴方に返します」

「自分の主張しか通さない。人の言うことは聞かない。周りの迷惑は考えない。こういう人間をなんていうか知ってるか」



「跡部景吾」



「お前、船から突き落とされたいのか?」




議論は白熱し、メインディッシュにカモとのオレンジソース和えが出てくるとは、その脇にあるグリーンピースを景吾の皿に入れながら、「私は身長180cm以下の人間を男とは認めませんよ」と鼻で笑い「俺も体重45キロ以上の人間を女と認めないぜ」と彼女を睨みつけ、景吾はスープの中に入っているセロリを彼女のスープの中に入れた。


そして、デザートが出てくる頃には、段々その熱も冷め始め、二人は上海の観光ブックを片手に行き先について話し合っていたのだが、トイレに行くといってが席を立つと景吾はマナー違反だと顔を顰めた。





「コーヒーはいかがですか?」



一人で窓の外に広がる黒い海と紺の空を見ていると、ウェイターが、景吾に声をかけてきた。訛りのある日本語だったので、中国人かもしれない。



「ああ、お願いします」

「可愛らしい恋人ですね」



黒い液体から白い湯気が出るのを見ながら、景吾は何と答えれば良いのか考えあぐねていた。は恋人ではなく、婚約者である。しかし、彼にそんなことを言えば「おめでとうございます」と間違いなく言われるだろう。それは景吾の意に反することだったので、彼は事実だけをはっきり述べた。



「いや、全く可愛くない」


















男女共用トイレの前にある鏡でが前髪を整えていると、「私は不審者です」と主張しているような、黒いスーツを着たサングラスの男が彼女の後ろを通って、トイレの中に入った。世の中に、怪しそうな人物なんて星の数ほどいるし、いちいち気に留めていても仕方が無いのだが、は彼が手に持っていた物を見て悲鳴をあげそうになったのだ。

見間違うはずもない。男が持っていたのは、景吾のアタッシュケースだった。











***************







なかなか帰ってこないに痺れを切らした景吾は会計を済まし、先に部屋に戻ってシャワーを浴びていた。狭いシャワールームには、シャンプーとボディソープしか備え付けられておらず、上海に着いたらまずリンスを買おうと心に決める。


部屋着のズボンを履き、タオルで髪を拭きながらシャワールームを出ると、丁度が部屋に戻ってきたばかりで、彼女は景吾を見ると満面の笑みを浮かべた。嫌な予感がしたのだ。




「景吾さん。盗まれた荷物、取り返してきましたよ」




自慢げに「どうです。すごいでしょう」という風にアタッシュケースを見せてくるに景吾は怪訝そうな目を向け、自分の足元に置いてあるものと彼女のそれを見比べた。はそんな景吾の様子も気にせず、アタッシュケースを開けて中を確認し、景吾をもう一度見た。

そして、彼女は景吾の足元にある同じ型のアタッシュケースに気付き、驚いた表情をし、「で、お前は、それをどこから盗んできたんだ?」と質問されると、「嘘」と一言呟いた。



「本当だ。戻してこい」


「そんな。花瓶で相手の頭殴ったんですよ?叱られるに決まっています」


「おい、それは叱られるどころの話じゃ済まないだろ」


景吾はシャツを羽織ってから、を睨んだ。



「行くぞ」

「どこに?」

「ちゃんと謝って持ち主に返すんだ」



は少し考えてから、首を振った。



「警察に渡したほうが良いと思います」



が景吾の方に向けたアタッシュケースの中には、透明のビニールに入れられた白い粉がギッシリ詰まっていた。









***************












窓の外は文字通り真っ暗だった。星一つない空に、底なしの海。それはまるで、二人の心情を映し出しているかのようだった。
船の上に交番があるわけも無いので、船長か責任者に預ければ良いと思っていた俺たちだったが、部屋のドアを開けて考えを改めた。サングラスをかけたスーツ姿の男がいたからだ。それも一人ではなく複数。彼らは明らかに何かを探しているようだった。

このケースに詰められているものが全て麻薬なら大金を彼らは失ったことになる。あの慌てようも頷けるわけだ。



「荷物を持って部屋から出る」という選択肢はここで消去された。アタッシュケースから他のカバンに入れ替えるにしても呼び止められそうだ。そして、か自分のどちらかが責任者に知らせに行き、部屋まで取りに来てもらうという選択肢もあまりにも危険に思えた。だれが?がだ。彼女は顔がわれているから、部屋から出ればすぐに捕まるだろうし、彼女をこの部屋に荷物と一緒に置いておくことも危険なように思えた。携帯は圏外で連絡の取りようも無い。



は親指を噛みながらアタッシュケースの周りを歩き回っていた。まるでそうしていれば良いアイディアが浮かんでくると信じているように。





「景吾さん、これ本当に麻薬ですかね」

「小麦粉に見えるか?」

「てんぷら粉とか」

「横48cm×縦35cmの、世界で六つしかない高級アタッシュケースに入れられた?」


「私は決め付けるのは良くないと言っているんです」


「ああ、そうだな。間違っても、人を泥棒だと決め付けて花瓶で殴り相手の荷物を奪うという行為なんかしちゃいけねーな。アーン?そうだろ?」



は唇を噛み締め、悔しそうに俺を見た。一方、普段余裕綽綽の彼女が憔悴しているを様子に、俺は少し快感を抱いた。ざまあみやがれ、良い気味だ。

お前は余計なことをせず俺の言うことを聞いてれば良いんだ。

そんなことを思っていたときだった。悲鳴が聞こえ、ベッドの上に座っていた俺たちは同時に立ち上がり顔を見合わせた。







そして、すぐにアナウンスが入ってきた。




『せ、船長でこの船の責任者でもあるコ・ヨウジンです。乗客の皆様、だ、大至急ラウンジにお集まりください』




中国で話された後、日本語でもう一度同じ内容を話したが、酷く怯えているようであった。それが伝染したかのように、の顔色も悪くなった。




「様子を見てくるから、お前はここにいろ。分かったな?」


は、不安げな表情で俺を見たが、最終的にこくりと頷いた。いつもこのくらい素直だと良いと俺は思った。









***************









ラウンジに行くと、黒スーツの男たちが当たり一帯を監視しているように立っており、若い女は中央に集められていた。瞬時にヤバイなと危機感を抱いた景吾が踵を返したが、すぐに声をかけられた。



「お前、女連れだったよな?女はどこにいる?」


レストランで騒いでいた俺らは目立っていたようで、そのスーツの男は俺たちのことを記憶していたらしい。すっとぼけるほうが危険なように思えた景吾は、彼に話を合わせた。


「・・・何かあったのか?」

「大事なものが盗まれたんだ」

「それは大変だな。で、何が盗まれたんだ?」


勿論、まっとうな答えが返ってくると持っていなかった景吾は軽い気持ちで質問した。




「麻薬だよ」

男は後ろめたさを微塵も見せず、ニィと笑った。


「・・・薬物取締法って知っているか?意外と刑罰が重いんだぞ」



もし、がいたらこういう言葉を返すだろうなと、思いつつ話を続ける。



「だが、俺たちゃ罰せられない。上海の警察もグルだからな。因みに今さっきこの船の責任者も俺たちの仲間になった」

「んな、馬鹿な」


「なあ?薬持ってんの、お前の女だろ?それ以外の女はもう全員このラウンジに集まっているんだ」


「そんなの分からないじゃねーか」


「俺の趣味は若い女専門の人間観察なんだ。間違いねーよ」


なんて下品な趣味なんだ、と真面目な景吾は思わずにはいられなかった。


「本当なら共犯者も一緒に始末するべきなんだろうが、俺に女を引き渡したらお前の命は助けてやるよ」


男は目だけで周囲を見回すと、景吾に耳打ちした。



「俺は手柄を立て、お前は九死に一生を得る。悪い話じゃないだろ?」
景吾はサングラス越しに微かに見える彼の目を見て頷いた。


「確かに、悪い話じゃないな」










同じ頃、はレストランの奥にある厨房でアタッシュケースを抱きかかえて蹲っていた。別に小腹が空いたと言う理由からではない。スーツ姿の男たちが部屋を見て回っていたからだった。見つかるのも時間の問題だと思ったは、景吾の言葉を無視して部屋を出たのであった。

しかし、何と言っても海の上、どんなに逃げ回っても体力を消耗するだけで逃げ切れる可能性は低い。逃亡中、幾度も男たちと鉢合わせそうになり、その度、掃除道具置き場やゴミ箱などに隠れたは彼らの話を僅かながら聞くことに成功し、麻雀が趣味で中国語にも興味を持っていたは読み聞きだけは多少できたため、男たちが上海マフィアと日本のヤクザから成っている組織だということを知った。

知識が実用できた喜びを味わう暇も無く、与えられた情報に落胆した。いくら喧嘩が強いといってもヤクザやマフィアに通用するものでないことは自分がよく知っていた。



「・・・景吾さん、大丈夫ですかね」

「人よりてめぇは自分の心配をした方が良いぜ」



頭上から声がしては驚いて立ち上がった。頭に包帯を巻いたその男は、確かにが花瓶で殴った男だった。


「さっきぶりだなぁ。あ?」


「先ほどは失礼いたしました。友人の荷物と勘違いしまして、何せ世界に六つしかないものですからね。まさか、同じ船に同じ物を持っている方がいられるなんて露にも思わず」


「中に白い粉が入ってるとは露にも思わず?」



じりじりと歩み寄ってくる男に対応するように、も後ずさる。男は厨房の台の上に置いてあった包丁を手に取り刃をに向け、もう一方の手を包帯を巻いた頭に添えた。


「ひでぇよな。まだズキズキするんだぜぇ?」


「まさか、小麦粉を買い占めてる方がいらっしゃるとは思わず、驚きましたよ。オイルショックの予兆かと思いましたよ」


「安心しろ。それは超純正の麻薬だ。俺たちに不況という時代は訪れない。何故なら」


「あ」




驚いた顔をしたが男の後方に指を向けると、彼は一瞬意識をそちらに持っていかれた。その隙にはアタッシュケースで男を殴ってその場から逃げ出した。が、男はすぐに立ち上がり、を追いかけてきた。






騒ぎを聞きつけた仲間たちも、を追いかけ始め、普段かかない汗ををかきながらもは懸命に走り、貨物室まで逃げていった。ここで見つかったら最後だが、ここ以外に逃げ場が無かったのだ。









しかし、神は時に無情だ。





彼らの姿が見えなくなって、は息を整えていた。油断したわけではないが、緊張の糸が途切れ気を抜いたのが不味かった。何よりも、貨物室の中に彼らの仲間がいるかどうかの確認を怠っていたのがいけなかった。確認は大切だという教訓をまなんだばかりだというのに。






「探したぜ?」




突然口を手で塞がれ、後ろから拘束されたは悲鳴を上げることもできず、足をばたつかせた。耳元で囁かれた声に背筋が凍り、男の冷たいサングラスがの米神に当たると彼女は体を震わせた。勝算がないということがこれほど恐ろしいものなのかと言う感情と共に、死を身近に感じて血の気が一気に引いていった。が、しかし、気配を辿るに、敵は一人。



日本海に沈む予定も十代で故人になる予定も、の人生にはなかった。





歯を食いしばって、思いっきり肘を後ろに打ち、男がよろめいた所で顔面向けて足を蹴り上げた。しかし、の足は相手の顔に一歩届かず、サングラスだけが床に落ちた。



「何しやがる」



ゆらりと起き上がったスーツの男を見て、は息を呑んだ。














「・・・け、景吾さん」

、お前、本当いい加減にしろよ!」

「いや、不可抗力ですよ。だいたい、何ですか、その紛らわしい格好」


「あいつ等の仲間の一人を気絶させて、スーツとサングラスを借りたんだよ。この姿だから自由が利いて、お前を探し出すこともできたんじゃねーか」


「え、探してたんですか」


「戻ってみれば部屋が荒れてて、お前はいないし、心なしかスーツ姿の怪しい男たちは数を増しているようで・・・、お前が見つかったって聞いた時は血の気が引いたんだぞ」


「心配おかけしたようで申し訳ありません」


「いや、心配はしてない。全く、全然心配はしていない」


「はあ」


「・・・。あー、もう良い。分かった。とにかく、説教は後だ」


「説教するんですか」


「と・に・か・く、逃げるぞ」


「どこに、どうやって」



景吾がの腕を取り貨物室の奥に歩を進めると、荷物を包んでる青いシートを引っ張った。


「水上オートバイだ」

「運転の仕方分かるんですか?」

「常識だろ」

「資格は持ってるんですか?」

「当然だ」


「景吾さん。貴方の『常識』と『当然』が世間一般から、ずいぶんかけ離れてしまっていることを、自覚した方が良いですよ」
















この事件は、翌日の新聞の一面を飾った。

は匿名を希望したが、目立ちたがり屋の彼は勿論実名掲載で写真付き、大手新聞社は『お手柄!!麻薬ルートを暴いた中学生たち!!』という見出しを付けた。それを見た二人の反応は、悪かった。「他に良いネタが無かったんでしょうね」と、は新聞を見てため息をつき、景吾は「これ、写真映り悪くないか?」と各紙紙面見比べて文句を垂れた。


しかし、このお手柄によって、跡部はいつも以上に学校でもてはやされ、誰しもが彼を褒め称えた。それは失われた王者の権威の再興を象徴する事件だったと、後に忍足は感慨深く言った。















明かり一つ無い海の上、水上オートバイを利用して近くを漁船か救助船が通ることを期待して、ただ走った。夜風が体を冷やし、景吾は自分の腰に捕まっているの体温だけを感じていた。ふいに彼女が「探してくれて、ありがとうございました。うれしかったです」と言い、景吾はそれに対して「当然だ」と得意げに鼻を鳴らした。彼女は「当然じゃ、ありませんよ」と微かに笑った。














最初に新聞について景吾に話しかけたのは、事件の翌日、朝練で一番最初に部室に来ていた忍足で、彼は机の上に新聞をバサリと置くと「なんや、跡部。お前、学校と部活サボって可愛い恋人とデートしてたんかいな」と、ニヤニヤ笑った。即座に否定の言葉を投げようとした景吾だったが、少し考えてから口を開いた。










「まあな」








恋人ではないが、かわいくなくもない。









微妙な線

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