兎シリーズ

兎葵燕麦ときえんばく: 名ばかりで実のないもののたとえ





下忍であんな状態でいて、気を失わない方がおかしい。


はその上、はっきりものをいい、泣く元気さえ見せた。


それらは、の存在を怪しむには十分な素材だった。





とはいっても、あの後長期任務が重なり、休暇は全て返上、彼女と会うことすらできない。


意図的に彼女が長期任務を手配しているとは、思わないが、上忍師の俺がこう、里を2ヶ月も空けるのは不自然だった。


しかも、暗部と一緒のSランク任務。


「カカシ先輩、これが城の間取図です。」


「ああ。もう、頭の中に叩き込んである。」


「さすがコピー忍者の先輩です。」


「いや、そのくらいコピーしなくとも覚えられるから、テンゾウ」


現役を退けた俺を心配してか、執拗に任務の確認を取る。

いや、この後輩のこと、ただ単に構って欲しいからなのかもしれないが。





こんなにも里に帰りたいと熱望したことが果たして今まであっただろうか?







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高くそびえる木の葉の門を潜れば、イズモとコテツと目が合う。


今は昼時で、暗部衣装を携えたテンゾウの姿が目立つ。

それを察してか、「報告書は僕が持っていきますよ。」と一言つぶやいて瞬身で消えた。


「カカシ上忍、お疲れ様です」


「あれ、予定より一週間ほど早くないですか?」


「んー、愛しい彼女が待ってるからね。」



「うわー、うらやましい。中忍のかわいい子ですよね。魚屋で会うんですよ。」



「おい、イズモ、それは前の彼女だろ。今は特上のナイスバディで超美人な子と付き合ってるんだよ。」



「え?ちゃんでしょ?」



二人の表情が強張る。


なんか、おかしくないか。二ヶ月前の、あのパフォーマンスは木の葉の里全土に広まったといっても過言ではない筈なのに、なんでの存在は無視されるんだ?



「冗談きついですよ!!って、あの下忍の受付嬢のことですよね。」


「コテツ、人をそう先入観を持って識別するのはいただけないな。アイツ結構良い奴だよ。実際、問題なのは口調と態度くらいでさ。 あー、でも俺、がガイ上忍師と噂で付き合い始めたって聞いたよ。」



「ガイの?!」



嫌な予感を感じた。


彼らとの別れの挨拶も半ばに、俺は受付所まで駆けて行った。







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晴天の霹靂とはこのようなことを言うのだろうか。


ガイ先生に恋人と言う存在ができたらしい。


それは素晴らしいことなのかもしれないが、手放しで喜べないのは、きっと交際相手に癖があることと自分たちの修行に差しさわりが生じているからかもしれない。





「ガイ様、あーんして。あーん。」


あのガイ先生が冷や汗をかいている、いつもは他者をひかせる側なのに、この頃は、ひく側に回っている。


一体どんな忍術なんだ。


恐るべし、受付嬢


コレは部下として、何とか対処せねばいけない由々しき事態なであり、俺はたしなめる様に言葉をつむいだ。


さん、ガイ先生は困っているようだが?それは食べづらいのではないか?」


「何言ってるんだ。ネジこれは修行ですよ。ね、さん」


リーは何故か彼女に懐いている。


テンテンは日ごろから先生の奇行に苛立ちを感じていたので、いい気味だとばかり、無視を決め込んでいる。


この場合、被害を被るのは常識人の俺で、先に見える苦労に溜息をこぼすのであった。


リーは、よほどが気に入ったのか、先程から彼女と頻繁に会話をしている。


彼女に関しては良い噂を聞いたことがない。


できれば、恋愛経験の乏しそうなガイ先生に近づいては欲しくなかった。


まあ、先生の場合、恋愛に興味があるのかすら怪しいが。





大して綺麗でもないの顔を観察しながら一人思いに耽っていた時、の目に僅かだが右に動いた。


ほんの少しで、こうじっくり観察していなければ見れなかったが、確かに話し手であるリーののいない方角に目を向けたのであった。


俺は彼女が一瞥したその方角を見た。すると、その方角からカカシ上忍師が現れた。俺は気配なんか全く感じなかった。





ゾクリと背筋が凍った。





「どういうこと?」


俺以外のその場にいた全員が驚いた顔をする。


「なんだ!!カカシ、気配を消して。さては、俺と勝負しに来たんだな!!かかって来い!俺はいつでも準備OK だ!!」


「  ちゃん?説明してもらおうか?何で、君とガイが付き合っているのかを。俺たち恋人だったよね?もう浮気?」


知らされた事実に、衝撃を受ける。


リーは丸い眼をさらに丸くし、先程まで関心を示さなかったテンテンも「恋のライバル!?」と今は興味津々、俺は俺で唖然としている。


取り合うほどの女か、それ。

というか、そもそもとガイ先生は付き合っていたのだろうか?


ある日突然、弁当を持参して現れて、勝手にガイ班の輪に入り昼飯を食べていただけ、そう、言うなれば、ただの弁当仲間ではないか。


あれ、そういえば、なんで、この二人が恋人だと思っていたんだろう。


ガイ班全員の視線がに集中した。


はガイ先生の腕を取り、腰をくねらせながら、人差し指を頬に当て、首を傾け上目遣いでカカシ上忍師を見上げる。


「ウッソー!!ビックリー!、恋人になった覚えなーい」


ピキと、カカシ上忍師のこめかみに血管が浮いた音が聞こえる。空耳だと思いたい。


は今ガイ様にメロメロキュンでぇ、他の事なんてドォデモイーってゆうかぁ」


短い髪の毛を器用にくるくる回しながら答える。


「・・・俺のどこがガイに劣ってるっていうわけ?」


しゅ、修羅場!? このメンバーで!?


濃い、濃すぎる!!!


と、思ったのは、この場で俺だけだったようで、アイコンタクトを取ろうとしても、共感できる人間がおらず一抹の寂しさを感じた。 ふと、と目が合った。 は「大丈夫だよ。安心して」とでもいうように優しく微笑んだ。 木漏れ日が彼女の顔を照らし、なんというか、とても綺麗だと思った。








そして、彼女はカカシ上忍師に顔を向けるとハッキリ言った。








「身長と体重」








ズーンと重い空気が、その場を支配した。


どこが大丈夫だったんだ。



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