「花・やまなか」で、店主のイノイチから予め予約しておいたセンニチコウの花束を受け取り、
はたけサクモが眠っている墓場に赴く。
「・・・はたけ上忍師、また、一年経ってしまいましたね。」
朝日が墓石を黒く光らせる。
どのくらいそうしていたのか、もう木の葉の里の生物たちの活動を始める時間らしい、鳥のさえずり、朝ご飯の匂い、人の動く気配を感じる。
毎年、墓石の前に居座る時間が徐々に増えてきている。
もう少し時間配分を考えた方が良いなと思ったのは、知らぬ間に背後を取られた人物のためだ。
毎年、父の命日、墓場にセンニチコウが飾られる。
詮索はしたくはないが、気になりはする。
最初は、父の崇拝者やミーハーな人間が置いていったのだと思った。
父が死んでから、相当の月日が過ぎた。
人々の記憶から日々失われていく、父の存在。センニチコウは去年も飾られていた。
きっと今年も飾られているのだろう。
花も持たずに墓場に行くと、栗色のショートカットヘアの女の子が佇んでいた。
俺のよく知る人物では会ったが、よく分からない人物でもある彼女は、俺の気配に気づいたのか振り返った。
「ちゃん、なんで・・・」
そんな、言葉しか出なかった。
彼女が添えたのか、それとも彼女の前に、既に誰かが添えたのか、墓石の前にはセンニチコウの花束が置かれている。
「いーやーだー、お馬鹿さんっ、彼女として当然じゃないっ。恋人のお父様の命日だもん。テヘ」
バシバシと俺の背中を叩きながら、場所を譲ってくれた。
「父を知っていたのか。まぁ、いろんな意味で名を馳せた人だったからね。」
「・・・そして、・・・いろんなものを残して逝った。」
「え」
風が吹いた。センニチコウの赤い花びらが舞った。
朝日を浴びて透明度が増した髪と瞳。目を細めて墓石を見つめている。
今にも消え行きそうなこの女を、俺は初めて美しいと思った。そして、抱きしめようと手を伸ばす。
「あー、もう受付任務の時間っ。ったらウッカリさん」
ドロンと煙を立てて消えていった。
行き場のない俺の手と感情。
彼女が立っていた場所に残った、涙の雫の跡の意味。
そして、墓石の前にセンニチコウを置いた人物。
真相は謎のまま。
センニチコウ。
花言葉は不変・不朽。