兎シリーズ

飛兎竜文 ひとりゅうぶん:ひときわ優れた子ども

ゲンマとはお互いに気が合い、アカデミーでは特に仲が良かった。

当時、私は5歳、ゲンマは10歳だった。


年齢差なんて友情の前では微々たる問題で、カカシに次ぐ最年少アカデミー卒業を果たすであろうに対して、実力重視のゲンマは対等な目をもって接していた。



同じ年に卒業を迎えた二人は、もらったばかりの額宛を交換して永遠の友情を誓い合った。







が、上忍師であるはたけサクモに首っ丈になったと聞いて、一番驚いたのは親友のゲンマだった。



年齢差に頓着しないのは彼女の美徳だが、それにも限度がある。 しかも、妻子もちではないか。親友の初恋を応援してやろうにも、これではどうしようもない。

できることといっても、幻滅させ諦めさせてやるのが関の山。





ことに、寄ってくる女子が星の数ほどいても、恋をした事もないゲンマは、親友の不可思議な感情の突起にただ慌てふためくばかりだった。



異なる上忍師のもとで任務をこなす日々ではあったが、夜になるととゲンマは死の森に入り共に修行をしていた。

強くなることに精魂を傾けていた。

果たして、カカシに次ぐ神童と謳われたは強かった。ゲンマと同じ練習量を積んでも、資質に恵まれているの方が比べようもなく力を付けていった。



しかしながらはまだ庇護の必要な幼子で、支えを失えば容易に折れる脆い若木だった。







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英雄はたけサクモの任務失敗は里に衝撃を与え、その誹謗中傷は里中を駆け巡り、周囲の彼に対する態度は一転した。



これに対して、も落ち込むだろうとゲンマは踏み、いつでも慰められるよう気を張っていた。

そんな彼をよそに、意外にも、は周囲の反応など気にも留めず上忍師の家に足繁く通い続けた。

そんなを見て、酷く安心したのを今でもゲンマは覚えている。








はたけサクモが死ぬ前日、いや、夜中であったのだから当日であったかもしれない。

が、サクモの任務失敗後初めて修行場に現れた。


俺は怪訝に思いながらも、純粋に修行仲間の復帰を喜んだ。「よう、やっとサクモ上忍師の夜這いは諦めたのか?」軽く冗談を交わして、共に修行を再開する予定だった。



しかし、木の陰から出てきたを見てゲンマは愕然したのだった。

彼女が自慢とする長い栗色の髪はぐしゃぐしゃになっていて、愛嬌たっぷりの大きく丸い瞳は、腫れた目元によってつぶれており、そして、爪を噛んでいるため指からは血が出ていた。



ゲンマは小さく息を飲み、それからのもとへ駆け寄った。の口から指を出し「何してんだ」と叱り飛ばし、抱きしめ、宥めるように頭をなでた。



「何があった?」


「どうしよう、ゲンマ、わ、私、頷いちゃった。暗部なんか、行くつもりなかったのに、どうしよう!!
ねえ、ゲンマ、はたけ上忍師は・・・」



ゲンマの胸に縋り付いて、しゃくりあげながらも必死に先の言葉をつむいだ。「・・・死んでしまうかもしれない」ゲンマは自分の息が止まったように感じた。



優秀な忍であり洞察力の優れたが放つ予言は必ず真実になる。木の葉の白い牙が死ぬ。やりきれない思いを胸に、眼を瞑り奥歯をかみ締めた。







そして、その日は一晩中、泣き叫ぶを慰撫したのだった。



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俺が考えた千の慰めの言葉も、お前には通用しなかった。



なぁ、、俺はお前の親友失格か?



あの後、お前は暗部に行った。それから音沙汰がなくなって、ある日長期任務から帰ってきたら、受付嬢として何食わぬ顔して俺の前に現れた。

木の葉一馬鹿で、どんくさくて、阿婆擦れで、万年下忍の受付嬢、として。







気づけよ。周りの大人たちがお前を心配していることを。

いつまでも、サクモさんの影を追っているお前を案じている人間が少なくないことを。



お前は誰よりも強く、そして、誰よりも弱い。一人の死をいつまでも引きずっていては駄目なんだ。



、お前と交換した額宛はずいぶん傷ついた。時間は確実に流れている。







俺は、今一度、誓いたい、あの日の友情を。
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