「んー、何のこと?」
「とぼけないで下さい。ですよ。いつまで付きまとうつもりですか?遊びなら手を出さないで下さい」
「なーに、ゲンマ、お前の趣味じゃないでしょーよ。あの子は」
「それは、カカシさんにも言えるんじゃないっすか?」
表情を表に出さないのがミステリアスで素敵と異性限定で持てはやされるカカシに対して、喜怒哀楽を前面に出すゲンマは親しみやすいと男女問わず人気があった。
そのゲンマが千本を上下に動かしながら、上司を不機嫌そうに見上げる。
待機所には、中忍試験出場者選抜の会議があったため、主要な面々が揃っている。
不穏な空気を察して、ゲンマを諌めたのは同じ特別上忍のアンコだった。
「ちょっと、ゲンマ。こんなとこで、殺気出すんじゃないわよ。」
「ゴホ、でもゲンマさんが言うことにも一理ありますね。カカシさん、あの下忍は貴方の弱みにしかならない。本命を作るなとは言いませんが、人は選ぶべきです。」
「何、お前のように、暗部面被った彼女を持てってゆーわけ?」
「!!ゴッゴホ、ゴホ、ゴホ」
「あんた達、イー加減にしなさいよっ。火影様の前で!」
アンコの怒鳴り声が部屋に大きく響いた。
会議室の廊下をドタドタドタと忍者のらしからぬ足音が近づいてくる。
「あー、いたいたっ!火影様!」
「なんじゃ、」
「この書類にトンと判を押してくださいっ。の、お・ね・が・いっ!テヘ」
「これは・・・ふむ、砂からの中忍選抜試験受講者の急遽変更の報告か・・・」
の火影様に対する不遜な態度を見て、今まで男どもを諌めていたアンコが「このアマ。ぶっとばーす!」と今にも飛び掛からんばかりだった。
が、今までアンコに諌められていた三人が「お前がぶっとばしたら、普通に死ぬから」とアンコを抑えた。
は火影から印をもらうと書類を素早くファイルホルダーにしまい後ろに振り返った。
そして、周囲にいた上忍や特別上忍に、今始めて気づいたように肩をビクッと震わせた。
「あれれれ、皆さん仲良くプロレスごっこですかぁ?きゃっ、ハレンチ」
「んだと、このアマ。いっぺん締めてやるから、こっちに来な!!」
上忍と特上二人に抑えられて、身動きもとれずに、ただもがくアンコ。
「、お前カカシさんとは別れろ。この人と付き合ってても碌なことねーぞ」
ゲンマがの瞳を真っ直ぐ射抜く。そして、も怯むことなく、無表情に真っ直ぐゲンマを見た。
それに対して、カカシが声をあげた。
「ゲンマ、お前にどんな権限があって、それを言うわけ?お前何なのよ。」
カカシに、そう言われてゲンマは切り返す言葉を持ち合わせていなかった。親友だと誓ったのは、もはや昔の話。
ゲンマが付けている額宛は年季が入り、ずいぶんと傷ついていた。当たり前だ。あの額宛の交換から20年もの時が経っている。
しかし、に自分の独りよがりだと想われても、あの日誓った言葉を紡ごうと努力した。
「俺はの・・・。いや、は・・・」
「知りたい?とゲンマ特別上忍の、か・ん・け・い」
つむがれる言葉を遮り、ゲンマとカカシの間に入って、カカシに向かって妖艶に微笑む。
向かい合うカカシは柄にもなく不安と焦燥を感じた。
「?」
「いやん、アカデミー生でも分かるって言うのに、おニブさんっ」
子供を叱るように「めっ」と言い、クルリとカカシに背を向けた。
がゲンマに近寄って、彼の綺麗な金髪をなでて指に絡める。そして、そのまま頭に手を伸ばした。
映画のワンシーンのように情熱的に見つめあう二人は、誰がどう見てもただならぬ関係。
その場にいた火影以外の全員が、その状況に息を飲んだ。
ことさら、カカシ絶望的な顔をして、金縛りにでもあったか様に固まり、あろうことか、忍者にあるまじき行為と知りながらも、眼を瞑ろうとした、
次の瞬間、
ガッツ−ン!!!!
金具の音が鳴り響き、沈黙がその場を支配する。
閉じられそうになっていたカカシの左目が大きく開かれた。
が、ゲンマに頭突きを食らわしたのだ。
全員が下忍の暴挙に思わず目を剥いた。
ゲンマも想定外だったのか、かわすことが出来ずの足元でのびている。
色男のゲンマ、今までの人生で、想いをぶつけられたことはあっても、頭をぶつけられることは無かっただろう。
「こーゆー関係っ?みたいな?」
どーゆー関係!!!?? と、その場にいた全員が思ったのは言うまでも無い。
かくして、忍たちは「キャー、恥ずかしいー」と一人わめいているをその場に置き捨て、そろりそろりと各人自分の任務に戻るのであった。
表情を表に出さないのがミステリアスで素敵と異性限定で持てはやされるカカシに対して、喜怒哀楽を前面に出すゲンマは親しみやすいと男女問わず人気があった。
その両方の長所を兼ねそろえたは表情豊か且つミステリアスであった。
が、残念ながら周囲からは、かなり距離を置かれている。
「私の額宛は綺麗に使え、阿呆」
意識を失う1秒前、かすかに呟いた言葉
「お前の所為で、傷が増えただろーが、馬鹿。」
その間、再びに交わされた誓い
「永遠の友情を君と」
これは、カカシが暗部入隊後にパックンを始めて紹介しようとした時の話。
暗部入隊を果たして間もないカカシは、当初世話人であった兎の面を被った小柄な女にまずパックンを見せたのだった。
「おい、チンチクリン、暗部の任務にペットは持ち込み禁止だ。捨ててきなさい。」
「こいつは忍犬だ。」
「屁理屈をこねるな。その犬、どうみても喫茶店のテラスでゴロゴロしていそうな犬じゃないか。」
「何。その偏見。あのね、この犬はパックンっていって」
「まあ、お母様に口答えする気?!」
「誰が、お母様だ!誰が!」
「カカシ、お主のお袋さんにしては、ちと若すぎるような気がするんだが」
「うわっ、犬がしゃべった!!」
「だから、忍犬だっていったでしょ。パックン、この女の言うことは全て真っ赤な嘘だから信用しないように」
「へー。本当に、忍犬なんだ。分かりにくいから服でも着させたら?・・・あ、なんなら、私が直々つくってやるよ。・・・ぶっ」
「今なんで、噴出した。おい、何作る気だ。」
数日後、兎の暗部面を被った女がつくった「へのへのもへじ」入り忍犬用Tシャツを着たパックンは、大いに周りから注目を浴びた。
カカシもパックンも羞恥と屈辱を感じたが、注目を浴びたおかげで仲間うちへの、面倒くさい挨拶回りをせずに済んだことには感謝した。
後に、主であるカカシが「コピー忍者」の異名を誇る木ノ葉一の技師として世にはばかると、カカシの忍犬であることを示すそのトレードマークは、 他の忍犬たちの憧れの的になるのだが、これは、また別の話。