長期任務に出てしまったのか、怪我や病気で忍びをやめたのか、最悪死んでしまったのか。
カカシは今までに幾度も兎面を被った暗部について考えたことがあった。
ただ、探すきっかけが無かった。 5年たった今、きっかけができた。
だ。
R カカシは兎の暗部面を付けた彼女の顔も、年齢も、名前も、しらない。
それでも恋をした。
初恋だったかもしれない。いろんな女に手を出してきたが、本命はずっと変わらなかった。・・・が現れるまでは。
カカシが告白して付き合い始めた二人だが、恋人とは名ばかりで、まだ体の関係を持っていない。カカシが恐れたからだ。
兎よりもを本気で愛してしまうのではないかと。
カカシは自分の心変わりに動揺していた。下半身がだらしなくとも、自分はやはり固い人間で一途に大切な人を思い続ける人種だと、変に矜持を持っていたからなおさらショックだった。
自分勝手、中華思想極まりないが、矜持を保つため、カカシはは重い腰をあげたのだった。
果たして、実際に網に捕らわれたのは、兎だったか、銀の猟犬だったか。
忍界大戦からずいぶんたって、木の葉も変わった。
里の中では、無用心にも結界を張らないで寝むる忍が増えたし、他人に平気で悩みや弱みを打ち明ける忍までいる。
時代が変わったのだ。
そんな木の葉の里で、連日月夜の下を駆け回る上忍と忍犬が一人と一匹。
「パックンお前、追跡用の忍犬なんだからさ、追跡できなきゃ、本当にただのペットだよ」
パックンの背後で、苛立っているカカシが低い声を出す。パックンは普段の主らしかならぬ乱暴なものいいに眉を顰める。
B
「カカシ、兎の暗部面の女を捜し始めてから、既に1週間がたっておる。 これが、どういうことかは、お主も分かっておるだろう?
拙者の鼻で、一切嗅ぎ付けることができないんじゃ。一切じゃぞ?
匂いを故意に消しているか。または、仏さんになっておるか。の二つに一つじゃ。」
「俺は早く兎に会って、思いを伝えて、彼女以外の女に振り向かないように身を固めたいんだーよ。
兎のことで頭も心も埋めたーいの。そうしないと、・・・ちゃんに心がどんどん傾いちゃうからね。」
「ほぉ。あの人を食ったような兎の暗部面を付けた女より、拙者はカカシが興味を持つ下忍とやらには一度、お目あわせを願いたいものじゃの。」
「会わなくて良いのー。パックンに会って、が、ペットは受付所には持ち込み禁止だなんて言ってみなよ。 ・・・俺、・・・間違いなく惚れる」
どこに惚れる要因があるんだと疑問を持ったパックンだが、兎との初対面の時のことを思い出し納得する。
「その下忍はあの女と似ておるのか?」
「いや、全く。強いて言えば、二人の共通点は理想の男性像だけだーよ。」
「なんじゃ、それは?」
「俺にも分からないんだよ。兎の影を追い続けて、に惹かれているのか、もしくは・・・」
兎の面影を追ってに縋りついたつもりが、今ではの代用品として兎を探している。矛盾していると理解はしても、心の整理ができない。
「ただ、下忍に岡惚れはまずいでしょーよ。ハヤテじゃないけど、外聞も悪いし?」
「本当にそれだけか?そんな事を気にするようなたまではなかろう。」
「ま、は下忍だからね。 もともと膨大な情報量を日々さばく受付任務に携わっていた彼女が、その上はたけカカシの本命になれば、他国の忍はこぞって彼女を狙うだろーし。
危険なーんだよ。
だからって、もう芽生えた気持ちを無かったことにはできないし、ことさら、受付所にいつもいる彼女を諦めるのは難しーの。
この感情の処理には、同じくらい好きな兎を引っ張り出してくるしかないでしょーよ。
・・・彼女は俺と同じくらい強いしね。」
「・・・ひねくれものめ。」
火影岩で哀愁を漂わせ、溜息を付く一人と一匹。東の方角で朝日が昇り始めている。
「さっきの話に戻るけど、兎が死んでいなくて、故意に自分の匂いを消していると仮定したら、きっと無臭のくのいちが兎だよね? ま、匂いを隠している人間って、限定して探せば確実に的が絞れるでしょーよ。」
パックンに提案するように話しかけておいて、決定事項のように一人で勝手に納得した。
「今日は久しぶりの休日だし、パックン気合入れてよ?」
「カカシ、休暇が何のためにあるのか知っているか?」
項垂れる忍犬と、柄にも無くりきむ上忍、一人と一匹の一日はまだ始まったばかり。