兎シリーズ

兎のひり放し 自分のした事の後始末を全くしない事の例え




僕には尊敬する先輩が二人いる。


暗部時代お世話になったカカシ先輩と、兎面を付けた先輩だ。


彼女は終ぞ、自分の本名を口にすることが無かったので、僕は最後まで彼女を「兎先輩」と呼んでいた。


普段は人を突き放すように自分に人間を近づけない兎先輩だが、仲間ピンチになると必ず助けに来てくれる。


スパーマンみたいな人だった。



兎先輩の崇拝者は少なくなく、引退した今でも伝説の暗部としてその名を轟かせている。



僕もそんな彼女に何度か助けてもらっていた。

一度、   一瞬だけ顔を見たことがあった。

僕が敵の水牢術を(ザブザがカカシを捉えてたあの術)食らい、心配停止になったときのこと。

人工呼吸を彼女がしてくれた。

おぼろげにだが、確かに覚えている。

栗色の綺麗な髪と気遣うようにこちらを見ていた丸い大きな瞳、いまだ誰の足跡も付いていない雪のような白い肌に、情欲をそそられる桃色の小さな唇。


あの時、僕は天使を見た気がした。


娑婆にもどった彼女、暗部に一生身を置く僕。


一方的な僕の思い。親しくも無い僕らの関係。


もう、会うことは二度と無いと思っていた。


まさか、こんなに近くにいたとは思わなかった。




*******




「テンゾウ、お前さー。現役暗部なんだから、もっとしっかりしてくんなきゃ困るでしょーよ。俺は助っ人で行っただけなのに、なーんか、人一倍働いていた気がするんだけど」


カカシの小言を右から左に流しながら、頷くのは健気な後輩、現役暗部のテンゾウである。


「先輩、この時間だと、もう受付所って人がいないんじゃないですか?」


「んー?たぶん、大丈夫じゃなーいの?俺と付き合い始めてから、最近ここで寝泊りしてるのよね。」


「え!!カカシ先輩の彼女って、受付嬢なんですか?暗部で一番人気だったユリさんとは、別れたんですか?」


「ね、それ、いつの話?相当古いよね?」



カカシは受付所の扉をわざと音を立てて開き、忍び足をやめ足音を出しながら歩き始めた。



テンゾウは、普段なら絶対しないであろうカカシの振る舞いに驚いていた。


その行為から相手に対する配慮が伺え、これは相当惚れ込んでいるなと思うテンゾウであった。


受付所の奥、倉庫の中、ソファで仰向けに寝ている女が一人いた。



「あー、ちゃん。起きて。仕事しよーね。」



がふてぶてしい態度で起き上がる。 内心では、「机の上に置いときゃいーだろーが」としっかり愚痴を零している。そもそも、はカカシが音を上げるまでもなく二人が玄関から入ってきた時、もう既にその存在に気づいていた。 彼女にとって、カカシの配慮はありがた迷惑でしかなかったのだ。


起き上がったは、確認するように、カカシに目線を走らせ、テンゾウでその目を止める。 懐かしい顔に目を細めた。



テンゾウはビクッと肩を揺らして、目を大きく見開いた。




「え、先輩!?」



この言葉に、動揺を隠せなかった。不審に思ったカカシ。


「え」



は、テンゾウに顔が割れてるなんて、想像だにしていなかったから、柄にも無く、焦って、いつもの黄色い声ではなく、素の低い声で返事をしてしまった。


まぁ、後に続くカカシの声で幸いすぐにかき消されたが。



「え、何で面識があるの?っていうか、ちゃんが、テンゾウの先輩って、どういうこと?」



もカカシも切羽詰っていた。


テンゾウは、二人の先輩から睨まれて、そのプレッシャーに背中に脂汗をにじませた。


これはどんな任務よりキツイ。


ことさら、テンゾウに向けられるの殺気は酷かった。



元暗部だということを、周りに秘密にしている人は少なくない。テンゾウは、の言わんとするところを察して、自分の不注意を恥じた。



「えっと、それはですね。あ、あれですよ。 ・・・人生の先輩?」



「「・・・」」



時間を考えて編み出した答えが,それー!?


もっとマシなことは言えないのか、貴様それでも暗部か!!




どなりつけたいだったが、カカシがいる手前、そうもできず引きつった笑みを浮かべた。



「きゃっ、ひっどーい、、まだ、ピッチピチの25なのにー。・・・でも、貴方だぁれ?」




は、不自然なところがないか確かめながら言葉を紡ぐ。


勿論、上目遣いを忘れず、馬鹿のように腰をくねらせた。


「なんだ、人違いか。ちゃん、コイツは・・・うん、覚えなくていいよ。ちゃんとは関係ない世界にいるから。」



カカシ先輩、めちゃくちゃ関係してます!!



彼女、「モトアン(元暗部)」です!!同じ釜の飯を食ってました!!



と、心の底からツッコミを入れたいテンゾウだったが、それ以上にの身振りに驚き入っていた。



「えー、、気になるー」



「・・・」



テンゾウは、想像を絶する憧れの先輩の姿を見て唖然とし、口をパクパクさせたまま、固まっていた。



「どうしたのよテンゾウ、金魚みたいな顔しちゃって」



カカシの声でやっと我に返り言葉を必死に紡ぐ。


「・・・いや、でも、あれですね。お似合いのカップルですね。は、はは、ははははは」


乾いた笑いを漏らすテンゾウ。



顔に笑顔を貼り付けながらも、テンゾウの言葉に素直に怒りを覚える



明らかに頭が悪そうで、顔も一般的な枠を超えない下忍のとお似合いといわれても、 褒められた気がしない為、目は弧を描きながらも複雑なおももちのカカシ。



受付所から不穏な空気が流れた、ある日の出来事。




Index ←Back Next→