兎シリーズ

兎走烏飛:とそううひ月日の速く過ぎ去ることのたとえ。

単独任務が終わり、受付に行くと下忍の受付嬢、ラブホでよく会う子、
えっと、名前はなんだっけ、忘れちゃったけど、とにかく、イルカ先生でない方の女がいた。時計は既に0時を回っていた。


今回の任務は最悪だった。
Aランクの筈の任務は蓋を開けてみれば、Sランクだった。
写輪眼こそ使わなかったが、俺は疲労困憊、疲憊していた。

殺気も抑える気もしなく、駄々漏れで、血の匂いもプンプンしていた。


下忍に当てたら一溜まりもないものだろうが、こちらとて命がけの任務こなしてきたのだ、里でのんびり過ごしていた奴に八つ当たりくらいしたくもなる。

今日の俺には余裕がなかった。


暗闇の中で、俺の顔は見えないだろうから、向こうは相当怖いはずで、
案の定、その下忍はこちらの気配に気付き、ガタガタと震え始めた。


報告書を提出すると、彼女の椅子がガタンとひっくり返った。



「はたけ上忍師!!」

「え」


急に抱きつかれて、バランスを崩し、こける。


あまりにも想定外な出来事に、俺は20代になって初めての(最後であって欲しい) 尻餅をついた。


かっこ悪い。


自分に怯えていたと思っていた女は、俺に縋り付きながらこう言った。









「会いたかった」














彼女の震えは恐怖からではなく、感動からのようであった。

優しく、背中をさすってやるが、
「会いたかった」って言われても、あれ、俺と君、会ったことあったっけみたいな。

でも、そう言うのは少し憚られる状況で、俺は珍しく報告書を明日に回さなかったことを後悔していた。 慣れないことなんてするもんじゃなーいね。


とりあえず、謝ってみる。

「ごめーんね」

その声に反応し、彼女の肩がビクンと揺れた。と同時に俺の胸から勢いよく顔を上げた。



「は?」

俺と目が合うと、ばら色の頬が一変して真っ青になり、
絶望のふちに立たされたような表情になったと思ったら、
顔をしかめてた。

何を思ったのか、大きく深呼吸すると、顔を両手でバチンと一回叩き微笑んだ。


よく漫画の主人公なんかに対して表情がコロコロ変わって可愛いなんていうけど、あれは嘘だと、このとき俺は思ったものだ。

はっきり言って、胡散臭い。
こういっちゃ何だけど、俺よりも。




「きゃー、の破廉恥さん。木の葉の誉れに抱きついちゃった。テヘ」




なんて馬鹿そうな口調なんだ。

木の葉の受付コレでいいの?

大名とかお偉いさんたちの対応とか、この子できんの。と、要らぬ心配をしてしまう。

何がなんだかよく分からないで、呆然としていると、

彼女は、ごそごそと、尻ポケットに手を入れ、手鏡やら鍵やらくずごみを出しながら、ピンク色の紙を俺の目の前に出した。




「あ、これ、お詫びに。任務お疲れ様でしたぁ。」


とりあえず、この場から立ち去りたいと思い、彼女が差し出した紙を受け取ると瞬身で自宅に帰った。







朝目覚めて、自分のポケットに手を突っ込むと、ピンク色のラブホの回数券が出てきた。





昨日の疲れがどっと押し寄せてきたように感じた。
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