兎シリーズ

兎の逆立ち:「耳が痛い」「嫌味に聞こえてつらい」という意味

明けの明星がまだその輝きを失っていない頃。

まだ空気が寒さを含む時間帯、8班の面々が第42演習場前に揃う。


いつもであれば、どっかの銀髪上忍師と違い、部下よりも早く現場にいる、

長いぬばたまの髪をこしらえた美人の今日は上忍師が不在であった。



その代わり、栗色の髪を携えた小柄な女が立っている。



「紅上忍師はお熱でダウン! な・の・で、今日は代わりにが、君たちの面倒を見るねっ」



このの言葉に三人はフリーズした。



「アンタ、下忍だろ?なんで、紅先生の代わりになるんだよ。おかしいじゃんか?」



そう吠えたのは三人の中で一番気の強いキバだった。



はー、下忍暦20年の超ベテランだからー、火影様にお願いされちゃった?みたいな」



「そんな嘘が通じるとでも思っているのか?さんは、ついこの間25の誕生日を迎えたばかりだろうに、20年前といったら、5歳でアカデミー卒業を果たしたことになるではないか。」



因みにシノがの誕生日を何故知っているかというと、報告書を出す際にプレゼントの催促をされたからだった。


「シノ君、キバ君、さんは紅先生の代わりに来てくれてるんだから、そう言うのはよくないと思うよ」


二人を小さく宥めるヒナタはビクビク肩を震わしている。


「きゃっ、最近の子って怖いー!、泣いちゃうっ」



涙を零すその姿に、今日は休めばよかったとヒナタですら思うのであった。



「あーもー!わかった!わかった!俺らが悪かったよ!さん。で、今日は演習の日なんだけど、俺らは何すればいいわけ?」


「きゃ、皆がやる気を出してくれて 、うれしー。じゃあ・・・、

まず、演習に不必要な、キバ君のペット回収―、シノ君のグラサン回収―、ヒナタちゃんの白眼・・・は 回収できないけど一時的に封印術を施しちゃおっ!」


「はぁあああああ」


下忍三人が驚きをあらわにして、叫んだのも無理は無い。それら全て、三人にとって必要なモノであったからだ。


「え?なきゃ、駄目なの?」



のその、馬鹿にするような言い方に、口をつぐむ三人。







馬鹿に馬鹿にされたくは無い、と、この時三人の意見が一致したのであった。
(約一名は自分ですら自覚できない心の奥深くで←ヒナタ)








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は、元来真面目な性格であった。

引き受けた任務は完璧にこなす。

それが、里のためであり、ことさら、火影直々の任務だったためもあり、抜かりなくその任務遂行を果たそうとしたのだった。



事前に三人のプロフィールは確認していたし、得意な技も確認していた。


三人に足りないものは、経験と自立の精神。

忍犬に依存するキバ、グラサンで自分を隠すシノ、白眼に拘るヒナタ。



紅がそのような教育をしているかは知らないが、は紅ほど優しくはなかった。



かつて、ゲンマと毎日死の森で修行していた彼女は、ことに一般的標準的な修行方法を知らなかった。



頭の悪いキバには一日じゃ終わらないような膨大なテキストを押し付け、

心理的に弱いヒナタには暗示(カウンセリングの一種)をかけてひたすら自信をつけさせる。

体力のないシノには両足手首に、総重量60キロの重石を付け、山を往復させる。



それこそ地獄のような特訓が行われた。



それでも、に「なぁに?できないの?」なんて、嫌みったらしく言われたくないがために、

三人はいつになく必死に修行を涙ぐましくも行うのであった。







宵の明星が西の空で輝きだす頃、里の街灯がチラホラつき始めていた。



が、終了の合図を出す。


慣れないことをしたため、汗だくになっている三人。それでも、この辛い修行に耐えたことに一種の喜びと誇りを感じていた。


とりわけ、に嫌味を言われないで済むと思い、安どの表情を浮かべたのであった。


しかし、最後に待っていたのは、の非情な一言だった。



「んー、紅上忍師の風邪が移っちゃってたのかな?予定くるちゃった。」



の手がひらひらとプログラム表を風に靡かせる。


なんだか、よく分からないが、彼女の鼻に付く物言いに、 キバがそのプログラム表をの手からかすめとり、ヒナタとシノの元で広げた。



「なんだ、これ!!!!」



声を上げたのはキバであったが、三者全員、表を見て目を丸くした。



三人が今日一日でやっていたことは、のプログラム表では午前中に終わらせる予定のだったらしく、

午後には様々な修行の予定がギッシリ詰まっていた。



その修行方法も見たこと聞いたことも無いオリジナルのもののようだった。

三人は、その雑多な修行の種類に驚きを覚える反面、恐怖も覚えた。

キバは体中に鳥肌を書き、ポカーフェイスが売りのシノが口を開けたまま、なんとも間抜けな顔をさらけ出している。 ヒナタに至ってはは今にも倒れんばかりの様子。







愕然としている三人を見て、ジェネレーションギャップを感じ得ないだったが、小さく息つくと、キバの手から、自分が今朝作ったプログラム表を取り戻し、火遁の術で燃やした。



その光景を、三人はただ無言で見つめるばかりであった。







翌日、紅の復帰を喜色満面で歓迎した三人を、 紅が怪訝に思ったことは言うまでもない。
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