兎シリーズ

兎の昼寝:油断をして思わぬ失敗を招くこと

試合が終ると、後回しにしていた任務を果たす為、会場から一人一人と忍びがきえていき、観客席には上忍師と下忍が残るのみとなった。

ツヨシも火影と共に去っていった。



カカシは柵を越え、の元へ駆け寄る。


「兎!!」


「・・・チンチクリン」


木の葉最強の忍びと言われているカカシをチンチクリン呼ばわりした女を、アスマ、ガイ、紅が凝視する。

そして、チンチクリンといわれても、気にするそぶりも見せないカカシに対して驚きを覚える 三人であった。


「久しぶりだな。」


「そうだっけ?」


は、極力嘘は付かないよう言葉を選ぶ。



「ああ、5年ぶりだ。・・・合いたかった。お前に合えてうれしい。」


「あら、そんなにお母様に会いたかったの?」


カカシの精一杯の告白を、こともなげに返す。


「えええええええ!!『赤い目の兎』ってば、カカシ先生のお母さんだったのか?」


「ウソ、じゃあ、いくつになるの。この人。若くて見積もっても50代半ば?!」



きゃーきゃーとわめくサクラと騒ぐ下忍たちを無視して、カカシはをまっすぐ見つめた。



不穏な空気を察した紅はアスマを残して、下忍を従えてその場を後にした。







「娑婆であったら、名前聞かせてくれる約束だーよね。」


「約束?もう、果たしてるよ。・・・とっくの昔にね」


「な、それは、もう会っていたって事?」


「んー、まあ、名前を告げるくらいだからね」


カカシは、告げられた事実に愕然とした。と同時に気づかなかった自分を恥じた。



「…まさか、上忍のルリちゃん?カナちゃん?マナちゃん?ユキちゃん?もしかして特上のヒトミちゃん?いや、やっぱり・・・」


カカシは思い浮かぶ綺麗どころの上忍の名前をいいはじめた。

はその全てに首を横にふった。



「・・・お前はホント誰なのよ。言ってくれなきゃ、悪いけど、武力行使も止む終えないんだーよね。」


カカシが腰にあるクナイに手を伸ばす。

その姿にアスマが、ギョッとし、すかさずカカシのクナイを取り上げる。



「なんで?知る必要があるの?」


「わからない?俺が言っていることが、本当に分からないなら、相当鈍いよ。お前。」


カカシがの手首を掴む。


「なんの、つもり?」


「人の感情には聡いお前だ。鈍いなんてことは、万が一にも無いだろ?」


ギリギリと、カカシの力が強まり、の手首が嫌な音を上げる。







「あー、知っていたよ。5年前からね。
・・・だから、心の奥底で期待してたよ。探してくれるんじゃないかって、

・・・はじめはよかった。アンタは私が望んだとおり、私にどこと無く似ている女を追っていた。

選んでは遊び捨ての繰り返し。決まった女を作らず、誘われれば誰とでも寝る男。

それで良かった。



私があの人の影を追っているように、アンタも私の影を追い続けてる。



抜けられないメビウスの輪。進まない時間。不変。私はそれに安心していた。


・・・だからさ、来る者拒まずだったアンタが女を作ったとき、愕然としたよ。


・・・アンタは、私を忘れて、真逆のタイプに走ったね。」







「・・・違うんだ。お前を忘れたわけじゃない!俺はお前しか見ていなかった!」



「何故、時間は進む?何故、全てのものは変化する? 結局、アンタの心も不変じゃなかった」



「違う、俺は変わってない。お前だけを」



カカシはを抱きしめ、愛を伝えようとしたが、によって遮られた。


「あの馬鹿な女を愛しいと思う?」



下忍の受付嬢を愛したことを否定できないカカシは、腕の力を緩めた。

も、カカシの動揺を敏感に感じ取り、カカシから離れ、印を組んだ。



「アンタは変わった。そして、私は変わらない。

進んだアンタは、止まっている私とは時間軸が違う。

・・・相いれない関係になったんだ。」



言いたいことを言うだけいって、は瞬身で消えた。





跪いて握りこぶしを地面に叩きつけるカカシに慰めの言葉を送る人間はいなかった。

アスマは、ただ黙って、カカシの傍にいた。












受付の奥、倉庫で兎面と暗部服を脱ぎ捨て、ドサとソファに座る。



あの行為、あの言葉が、カカシを傷つけるのは百も承知だった。

それでも、カカシの熱い視線には耐えられなかった。


自分が信じてきたものが足の底から崩れていく様な、そんな感じがした。


「受付嬢の下忍」も「赤い目の兎」も自分のことだ。

・・・つまらない嫉妬だった。

カカシに言ったことは本音だ。

私が今は亡きはたけ上忍師を永遠に愛するように、彼にも私を永遠に追い続けて欲しかった。

不変と不朽の中で、永遠と生きたかった。



自分が演じる受付嬢は、「自分」ではあるが、カカシは私だと知らずに恋をした。

私は、これを運命だと、愛は永遠だと喜ぶ馬鹿でもない。

カカシは、つまり私以外の人間を愛したのだ。コレを裏切りと呼ばずなんと言おうか。



もし、カカシが忍者の本能を持ってして、受付嬢と兎が同一人物だと深層心理で感じとっていたとしても、それはそれでやっかいだ。



最初は意地の張り合いだった。隠れ鬼のようなスリルを楽しんでいた。それ以上でも、それ以下でもなかった。

…私は、まだカカシの名を呼んだことがない。それと同じように、カカシにも「私」の名を呼んで欲しくないと思う。



私の名とともに、愛など囁かれたらお仕舞だ。



私がカカシを愛してしまったら、お仕舞だ。



今はただ恐怖に怯える。











崩れ始めたメビウスの輪



***********














「この度は、私の我侭にお付き合い頂き本当にありがとう御座いました。
この恩は決して忘れません。これで、心残りなく新しい地位に着く事ができます」


「いや、こちらこそ、例を言う立場じゃからのう。
ツヨシ殿のおかげで、久しぶりに兎の戦いが見れたからの。」


「と、いうことは、今は全く戦闘に着いていないということですか?」


「そういうことじゃ。今はモラトリアムなんじゃよ。いつか、サナギから蝶になるじゃろう。」


「はぁ、木の葉は余裕がありますね。彼女ほどの忍びを使わないとは・・・」


火影室にコンコンと無機質な音が響く。





でーす!呼ばれたから参上っ!!」


「お主、火影命令を何じゃと思っておるのだ。はぁ、まあ、良い。ツヨシがお主に、話があるようじゃ」


「えー?王子がぁ?もしかして、に惚れちゃった?きゃー、シンデレラストーリー降臨!?いやん、困っちゃう!!」


は、黄色い声を上げて腰をくねらせ、ツヨシにワザとらしい色目を送る。


「いえ、貴方に渡したいものがありまして、これは草の里でしか取れない琥珀の首飾りです。受け取っていただけますか?」


ツヨシは、の低俗な態度にもさして気にもとめず、彼女のもとへ歩み寄り、その首に琥珀の首飾りをかけた。

は一瞬、困惑の表情を浮かべ後ずさったが、気を取り直して普段どおりの高い声を上げた。


「きゃー、プレゼント?うれしいっ!!このあとはプロポーズっ?!!」


「・・・もし、申し込んだら、受けてくださるんですか?」


ツヨシの目がの目を捉えた。

暗部面をしていたとはいえ、先程まで目を合わせていた相手だ、ばれたら困ると思い、は目を逸らす。


次の瞬間、耳元で囁かれた言葉に顔を蒼白させた。


「一つ教えてあげましょう。草の忍びは忍犬以上に鼻が利きます、 匂い消し玉や香水なんかじゃ、ごまかせませんよ。」








「イーーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーー」








その日、の羞恥のための悲鳴が火影室を支配したのだった。
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