兎シリーズ

株を守りて兎を待つ: 昔のやり方にこだわって、前に進まない、融通のきかないことの例え

カカシと別れて、私は毎夜合コン三昧を送っていた。

間者狩りの季節よろしく、自発的にお持ち帰りされては尋問と拷問をし次々と見つけた間者を捌く。


周囲の人間も、カカシに振られたため、自暴自棄になっているのだろうと、の派手な素行に眼を瞑った。

今まで向けられていた中傷も、何故か同情に変った。


カカシファンのイジメもパッタリ無くなり、カカシ目当ての刺客もいなくなって、至極、充実した日々が続いていた。





油断していた

慎重さを欠いた

自分の能力に奢っていた



気づいた時には、腹をバッサリ切られていた。








いつものように、私は下忍を引っ掛けてホテルに連れ込み幻術を施そうとしていたのだ。


いつもと違った点は、半ば無理やり連れ込んだこと。




出生が木の葉の里でないことから、疑念を持ち始め、中忍試験を幾度と途中退場している医療忍者に目をつけたのだった。

その男は、どう見積もっても阿婆擦れ女と付き合うような性格をしていない、クソ真面目そうなガリ勉メガネ君だった。



「忍者は裏の裏を読め」だからこそ、細心の注意を持って挑んだはずだった。

可愛い兎も皮をはげば獅子となる。それは自身がよく知っていた。




とにかく、疑うべき者は疑えの忍び精神から、ラブホに同伴して頂いたのだ。


防音の施された部屋に入るなり、鍵をしめ、相手を見つめ妖艶に微笑んだ。



そこまでは良かった。いつも通りだった。





窓を背後にし目の前に立つ男の表情は、逆光で見えづらくて、差し込まれた太陽の光に銀髪だけが鮮やかに映えた。

男が窓から離れ私のほうに一歩足を踏み出すと、部屋の明かりが彼の顔に照らされる。

先程までとは打って変わった、腹をすかせた獅子が獲物を狙うような表情をしていた。




その表情を見て背筋がゾッとし、心臓が早鐘を打った。 は、完璧に出遅れてしまった。

気づけば、自分の腹に激痛が走っていた。



「大蛇丸様から兼ねがね聞いていますよ。「自分と同じ永遠を望む者」だと。

僕は味方ではありませんが、敵でもありませんよ。」




中指でメガネを押し上げ、意味ありげな笑みを浮かべる銀髪メガネ男。








薄れる意識の中、あぁ、銀髪男に碌なヤツはいないなと場違いにも思ったのだった。








*************







中忍選別試験の書類で不備が見つかり、受付所に急ぎ足で来た。



受付で待機していたイルカにその旨を素早く伝え、今はイルカが地下倉庫から確認の資料を持って帰ってくるのを待つばかりだった。



まだ、朝日が立ち上っていない時刻、白い霧が木の葉の里を包む。


一切の音を出さずに、ドアが開き閉じられる。


冷たい風がゲンマの頬を突き刺した。

気配を感じなかった自分に、それ以上に鼻に付く嗅ぎなれた匂いに、ゲンマは眉を顰めた。




「喪服かそりゃぁ?黒装束なんて、忍者ごっこでも始めるつもりかよ。」



「…ゲンマか、火影様に報告があって来たんだけど…」


「その前に、血の臭いを何とかしろ。嫌みったらしく、帰り血なんかプンプンさせやがって」




「んー?着替えては来たんだけどな…」



「あー、ついでだから、俺が報告しといてやるから・・・っておい!!」


バタリとが急にその場に倒れた。

ゲンマが駆け寄りの体を抱く。 手に滑りの感触があり、不審に思ったゲンマは自分の掌を見た。真っ赤に染まってる自分の手に唖然とした。 その黒服で気づかなかったが、かなりの出血している。

「ウソだろ!!お前ほどの忍びが!おいっ誰にやられた!?」

「…覚えてない。昨日の記憶が消されてて…油断していた。とりあえず、木の葉の忍びの中に、私と同じくらいの強さを持つ間者がいるのは確かだけど、それ以外は。」

は悔しそうな顔をして首を振る。口びるを噛んだ所為で、血が顎を伝う。


「くそっ、中忍試験前だっつーのに。」

「まあ、私がすぐ回復して、奴を始末するよ。私にははたけ上忍師が付いてるからね」


がニタリと笑い、ゴソゴソと胸ポケットを弄る。 が何か出てくる気配はなさそうだ。


「って、ウソ、写真がない。」

「は?」

「下忍になった時に上忍師とツーショットで撮った写真が無いのよ!!」

「あー、お前が他の二人の下忍を人質にとって、無理言って撮ってもらった写真か。」

「そんな、乱暴な言い方よして。愛の結晶って呼ん…ゴホ、ゴッホゴホゴホ」

が咳き込みだした。手には鮮やかな血の花びらが落ちる。 ゲンマはのを抱き起こし、倉庫にあるソファに横にし、背中を摩った。 毒を盛られたのか、ただ傷口が化膿したためか、は発熱も起こしていて、ゲンマの手にの熱が伝わる。 ぜぇぜぇと、息も荒く苦しそうだ。 普段から、表情に豊かなは泣いたり笑ったりして、周囲に自分の感情を悟らせないよう取り繕っていた。 は泣いたり、喚いたり、怒ったりしていても、誰よりも心の余裕を持っていた。 そのの苦しみもだえる姿を見て、ゲンマは酷く慌てた。

「おっ、おいっ、大丈夫かよ!!」

「まぁ、大丈夫だよ。こんなの唾付けとけば…」

「治んねーよ!!お前はナルトか!!」

「あぁ、今、心底九尾の回復力が欲しい。それより、ゲンマ、写真!私あの写真がないと生きていけないから!!」

「お前、馬鹿の一つ覚えみたいに口を開けば『はたけ上忍師、はたけ上忍師』って、イイカゲンにしろよ! ちったぁ、自分のこと大切にしろ!!俺はお前のこと大切に思っているんだ!わかってくれよ!!」

「ゲンマ、・・・今くらっと来た。」

がゲンマを上目遣いで見る。 こころなしか、目の縁には涙がたまり、頬は赤く染まり息が弾んでいるように見える。

「おいおい、俺に惚れると火傷するぜ。」

「吐きそう」

「って、そっちーーーーーーーーー!!!?ちょ、待て、忍びらしく耐え忍べ! ちょ、頼むから書類倉庫(ここ)では吐くな!今医療班呼んでくるから!!」

ぴゅーんと風と共にさりぬゲンマ。

その後姿を、は目を細めて見送るのであった。







言葉にしなかった感謝と謝罪

何処かに置き忘れた写真と心
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