兎シリーズ

【鳶目兎耳】えんもくとじ:トビのように目ざとく見つけることのできる目と、ウサギのようによく聞こえる耳


「ごめーんね。君、俺が探してる人じゃないーんだ、つきあえなーいよ。」


待機所にバチーンと盛大な音が響く。


「カカシ、口布が切れてるぞ。」


待機所の椅子に座りながらその様子を一部始終見ていたアスマが、タバコの煙を吐いた。 紫煙がカカシの銀髪に同化する。


「あー。」


カカシは大して気にもとめず、愛読書に目を向ける。


「地道な兎探しもいいけどよ。そのうち刺されるぞ。」

「一昨日、刺されそうになったよ。特上のヒトミちゃんに」

「…はぁ。 あ、そういえば、カカシ、が中忍試験を受けない理由って知っているか?」


の名前を出され、愛読書から目を離しアスマと目を合わせた。


「え、受けても無駄だからじゃないの?」

「…上忍師の推薦が得られないからだそうだ。」

「へー」

興味なさげに返事をしたカカシだが、 心の中で彼女を平和な木の葉の里に留めておいたくれた上忍師を、どこの誰かも知らず純粋に感謝したのであった。





すがすがしい青空の下、僕はゴミ拾いのDランク任務を着実にこなしていた。 ガイ先生と、正午までに任務を完了させることを約束した。 これを実行するためには並ならぬ努力が必要だ。青春だ!!と叫びながら、いつも以上にはりきって掃除作業を進めていた。


急にテンテンが甲高い悲鳴を上げた。 敵襲かと思い、戦闘体制を取るが、辺りにはネジとテンテンの気配しか無い。 僕が気配をよめないくらい強いてきなのかと、額に脂汗を滲ませ、相手の出方を腰を低くして伺う。


「これは!!」


ネジが白眼で何か感じたのだろうか、張り詰めた声が僕の耳に届いた。 ピンと張り詰めた空気、二人が息を飲んだのが聞こえた。 しかしながら、一向に敵が現れる気配が無い。 僕は草木で見えない二人の方に振り向き、駆け寄った。蹲っている二人。


「テンテン、ネジ!大丈夫ですか!!何があったんです!」

この瞬間、僕の目を引いたのは、 テンテンが手に握るボロボロの古い写真。 僕は息を飲んだ。 そこには栗毛の女の子と銀髪の男性が写っていた。




テンテンが持っていたのは、カカシ先生とさんとの間にできた子供(テンテンの予想)が カカシ先生にキスしている写真だった。 あ、キスっていっても、ほっぺにチューですけど。

「いつの間に、子供なんかを…。」

写真を見て、その脳内では現実的な妄想(?)を繰り広げているのか、頬を赤らめるネジ。

「でも、この写真最近取られたものとしては古くないですか?」

「何言ってんのよ。最近は流行っているのよ。態とセピア写真を作ったりして、しぶい味を出すのよ。」

「はぁ、でも、背後に小さくですが、なんか二人男の子がいるようですから、 これスリーマンセルの写真じゃないですか?額宛もしてますし」

「何言ってんのよ。後ろの二人はどう見ても10代だけど、この手前に写ってる子なんて5歳くらいじゃない」

「カカシ上忍は今年初めて下忍を受け持ったらしいが、今年のルーキーに栗毛の髪の女等いないぞ?」

p 冷静を取り戻したのか、ネジがもっともなことを真面目に言う。 こうして、写真に写っている人物はさんの子供とその父親であるカカシ先生とされた。


「とにかく、リー、これは極秘任務よ。絶対に、ガイ先生に見つからないようにカカシ先生に届けるのよ。」


いつになく神妙な面持ちをしているテンテンに、僕も諾の返事をする。


「そ、そうですね。これを見たらガイ先生が卒倒しそうですよね。 あれでも、結構さんのこと気に入ってましたから」

直後、背後にガイ先生の気配がした。

「皆―!!ちゃんと、青春してるかー!!!」

僕は急いでテンテンに渡された写真を背に隠したが、先生の目に留まらないはずもなく、

「なーにを、今隠したんだ!!リー、隠し事はいけないぞ!!爽やかじゃない!!」

「先生!!ごめんなさい!!」

先生の真っ直ぐな瞳に耐え切れず、僕は写真を差し出した。 テンテンとネジのワザとらしい溜息が聞こえたが、先生の大きな声によってすぐにかき消された。


「む!!!?これは!!!!!」

先生が見せた反応は僕らの予想と大きく違っていた。






*****************





待機所に訪れたガイに、渡された一枚の写真を凝視した。

天使の輪をかいた栗毛の髪を持つ女の子が、父親の年齢くらいの男の頬にキスをおくっている。 女の子は至極幸せそうな表情をしていて、男は困ったように眉をたらして苦笑している。 はたから見れば、微笑ましい家族写真のように見えるその写真は、果たして上忍二人を絶句させる威力を持っていた。 時期、状況、人物、写っている全てが問題だった。 アスマのタバコが落ち、椅子に丸いこげ跡が付いた。


写真の裏には、今は無き写真屋のマークが入っていて20年前ほどのものだと分かる。 一見ツーショットに見える写真だが後方に二人の男の子がおり、三人の子供たちが真新しい額宛をしていることから、 三人が下忍で男が上忍師であることがわかり、この写真がそのスリーマンセルの祝いに作られたことも理解できる。 そして、そこに写るあまりにも遠く近しい人物。

沈黙が辺りを支配した。


もはやどこに突っ込みを入れていいのか分からない。 この写真が物語る真実は一体…。




最初に沈黙を破ったのはアスマだった。


「こりゃ、とサクモさんか?」

「そんな、まさか、…父さんが下忍を請け持ったのは一度だけだ。 それも俺がまだ5,6歳の頃。当時彼女は5歳でしょーよ?あり得なーいよ」

写真を手に愕然とするカカシ。


「天才は何も貴方だけではないってことっすよ。」

「・・・ゲンマ。」

急にゲンマが現れても物おじすることも無く、カカシの目は写真から離れなかった。 ゲンマはカカシが卒業する1年後に卒業していた。 と同期であったのだろうと会得し、その事実を驚きながらも飲み込んだ。 アスマはしばらく驚きをあらわにして写真を見ていたが、 関係の全く無い第三者の所為かすぐに落ち着きを取り戻した。


「まぁ、あれだな。天才も大人になればただの人ってか。誰よりも早く才能を開花させて、誰より早く限界に達しちまったか。ま、忍びの世界では、よくある話だな。」


一人納得して、新しいタバコに火をつけ、大きく煙を吸った。 納得できないのはカカシの方で、が昔天才だったろうが馬鹿だったろうが、そんな過去はこの際おいて置いても、絶対見逃せないものがあった。


「・・・なんで、チューしてんのよ」

「おい、カカシ、お前の最大の関心事はそこか!?」

「いや、だって。おかしーでしょーよ。俺、手も握ったことも無いのよ? ちょっとちゃんに会ってくる。」

「って、お前、こないだ奴を振ったばかりだろーが」


ゲンマとアスマが、この時、呆れた表情をしたのは言うまでもない。そして、受付所に行こうとするカカシに向かってゲンマが口を開く。


は、今病院っすよ。」

「え?!」


去っていくカカシを見ながら、ゲンマは千本をつまんなそうに揺らした。


「天才と馬鹿は紙一重…か。あの二人、なんとなく似てるな。」




***************






ゲンマから、ちゃんが酷い怪我を負ったと聞いて驚いた俺は、写真のことも忘れ病院に駆けつけた。


ちゃん!!」


ドアには二人も医療忍者がいて、それだけで深い傷だったことが分かった。
「何で、彼女が…」


情けないほど、かすれた声が自分の耳に届く。

抱き寄せて、彼女が生きている証を確認したい、体温を感じたいと思うが、俺にはその資格さえない。


ただ、蝋人形のように動かない彼女を見つめるしかできない。


己の無力さに絶望する。「里の誉れ」と呼ばれていながら、好きな女一人も、まともに守れなかった。


「ごめん。俺がもっとしっかりしていれば…ちゃん」


布団からはみ出している、白い手に自分の手を絡める。


小さくて、綺麗に爪が整えられていて、それでいても忍びの証であるかのように硬い手。

彼女のベッドの横に屈み、祈るように絡めた手を額宛につけ、眼を瞑った。


「どうして、彼女が…内勤の彼女がこんなことになったわけ?」


未だ、後ろに佇んでいる医療忍者に詳細を聞く。 少し殺気が出ていたのかもしれない。 二人がたじろいだのが分かった。


「ねぇ、なんで?」


俺は言葉を促す。



「あ、その、なんといいますか。


・・・ラブホで男に刺されれたらしいですよ…」




「・・・。」




 どこまでも似た者同志の俺たち。














ほつれはじめた過去
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