兎シリーズ

兎の登り坂 :物事が順調に進むこと

アカデミーを卒業し、下忍として、初めて額宛をつけたとき言い知れぬ感動を覚えた。


でも、下忍になって、もっと感動したことがあった。
それは、貴方に出会えたことだった。
私の人生は180度変わったと言ったら大げさだけれど、モノクロの世界は確実に色づき始めていたのだった。







月が南方に昇るころ、その日は、満月で、白い月が貴方を照らし、銀色の髪が反射してそれはそれは綺麗だった。

眩しくて、愛しくて目を細める。


「高身長、高収入、高経歴で旦那様にしたい人No.1なのに、こぶ付きかぁ。困るなぁ。」

現実はシビアで、貴方には妻子がいた。



「いや、私の方が、上忍師としてこの状態は困るのだけれど。」


アカデミーの元担当教員に下忍祝いとして貴方の住所を教えてもらった。

先生と生徒の禁断の恋なんて、燃えるじゃないの。

私は元担当教員が書いてくれたお世辞にも分かりやすいとは思えない地図を持って、夜這いを決行した。







今、私は、はたけサクモ上忍師のベッド、もとい腹の上にいる。







「息子さんが、いらっしゃるなんて聞いてません。」


くのいちの任務で習った。男は女の涙に弱い。 「白い牙」と呼ばれ、その名を他里にも轟かしている貴方に通じるか分からないが、私は、涙腺を緩め、ぽたぽたと涙を流して見せた。


「いや、自己紹介した時に話したよ?しかも、私の息子は有名でね、ああ、名前はカカシって言うのだけれど、これがなかなか優秀で・・・。」

息子の自慢話が始まりそうになったところで、私の思考は次の作戦を打ち出していた。

小さく溜息を付き、長い睫に涙の雫を乗せ、目を伏せた。
名づけて、愁いを帯びた女は美しい作戦。
これも、くのいちクラスで教わったマニュアル通りにこなした。完璧だ。


「あの時は、周りの音が止んで時が止まって、はたけ上忍師しか、見えてませんでした。あと、はたけ上忍師以外の男の話なんて興味ないのでいくら有名でもシャッッダウンです。」



「あ、そう。」


貴方のそっけない言葉が、胸を締め付ける。
貴方の甘美な声に一晩中酔いしいれていたいと思った。



「でも、乙女が死ぬ覚悟で夜這いを試みたと言うのに、やっとのことで部屋に入れたと思ったら、ちんちくりんのガキが寝てて、私、心底驚愕しました!こんなの、あんまりです。」


「チンチクリン…。あー、家に掛けていた結界を全部取り外しちゃったんだね。」


「愛故です。」


「ちゃんと、もとに戻して帰ってね。一晩中に」







「え、あの、作るのって壊すより難しいんですが…。
あれ、息子さんをチンチクリン呼ばわりしたこと、さりげに、怒ってます?
ちょ、はたけ上忍師寝ないで、愛を育みましょう。夜は長いんですから!私の苦労を労って!」



「ああ、夜は長いから、一晩かければ結界の一つや二つ作れるよね。」



「無理です。その時間は、メイク・ラブのための時間にあてるんです!!」







「あのね、あー、もう。そもそも・・・は、まだ初潮来てないでしょ。」




「えっ、なんで、知ってるんですか。え?愛?!いつ月のものが来るか把握してしてるなんて!! え、これ、なんか。もう夫婦みたいですね。」







「いや、まだ君5歳なんだから、ね。」




「歳の差なんか気にしないで!」



「それ以前の問題だ!」










銀色の月が輝きを放っていた頃、私は貴方の傍にいた。







初恋は実らない。現実はそう甘くない。
でも、私は貴方の隣で、短い時間だったけれど、確かに甘い時を過ごした。愛していた。


幼心にも、精一杯、一途に、貴方だけを見ていた。



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