兎シリーズ

兎に祭文 何の効果もないこと

仲間を助けるため任務を放棄した貴方は、里の人たちに非難された。

あの日から、貴方は日に日にやつれていった。

任務失敗よりも仲間に責められた事が堪えたみたいだ。


私も里の人たち同様、理由がどうあれ任務放棄する人間は、いや、忍は最低だと思った。
今まで死を覚悟して任務を行ってきた同胞たちに申し訳が立たない。



今、生きている忍に、示しが付かない。

忍として生を受けたのならば、やはり覚悟しなくてはならないのだ。無駄死に、という、最期も。

どんな最期でも、受け入れなくてはならない。

私たちは、人ではない、人の形をした道具なのだ。

それが、正解で、それ以外は間違いなのだ。
そう教育を受けてきた。疑問を持つのは禁忌だ。



だから、あの日以来、忍の貴方を私は認めていない。
貴方は所詮人間だった。そして、私は所詮忍であったのだ。










でも私にとって、貴方は世界で一番大好きな人で、一人の人間として、男として、愛していたから、貴方の傍にいた。


私は毎夜息子がいない時を見計らって、はたけ家に赴いた。
貴方はもともと寡黙だったけれどそれに拍車が掛かり、笑顔も次第に薄れていった。


私は貴方をこちらの世界に引き戻そうとして必死に話しかけていた。
話題は毎日話していれば尽きるもので、たまに嘘の出来事を作っては話した。


なんとか、先生の笑顔を取り戻そうと躍起になった。

最初はもっぱら自分の話しをしていたが、(というのも友達が少ないため、ネタの絶対数が少なくなるからだ、) すぐに限界が来て、ネタは尽きた。


だから、友達をいっぱい作ろうと努力した。話題を増やすためだけに。


非協調的な性格を直して、馬鹿な喋り方を覚え、いろいろな話題を振った。


先生は相槌を打ちこそしても、「話し」をすることはなかった。
私も、そんな先生を見ていて焦躁や締念にも似た感情を持つようになっていた。



そんなとき、だった。
暗部入隊のオファーがきた。
まだまだ、幼い私は、しかしながら、頭の良さを買われて(嘘だ。とか、ツッコミはいらないから)暗号読解専門の暗部として入隊を求められた。 任務先での暗号読解は、危険な任務が多い、そのため、度々暗部が使われるのだ。

臨時入隊のようなものであった。まあ、時勢が時勢だから、実力さえあれば、心身共に幼くとも使いたいのだろう。


先生に会う時間が減るから、という理由で断るつもりだった。


それでも、ネタの一つくらいにはなるだろうと先生に相談するように、話した。








この時、



あの事件以来、



初めて、



私と目を合わせてくれた。







そして、つぶやくように、本当に忍びでなければ聞こえないくらいの声の大きさで、

独り言のように言ったのだ。







「じきに、カカシも暗部にいくと思う。そうしたら、、カカシを頼む。」







久しぶりに私の名前を口にしてくれた。胸が苦しかった。千切れるのではないかと思った。
頷く以外の術を知らなかった。脳みそでは拒否していたのに、首は縦に動いた。




貴方は、求めていた笑顔を私に向けてくれた。












翌日、彼はこの世を絶った。




どこまでも残酷な人だった。

貴方が最期まで心配していたのは息子の方。





そして、私は結局何もできなかった。





あの時頷かなければ、あなたはまだこの世にいましたか?
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