秋風が運動不足の体に痛みを感じさせる。
上忍師として、いや、忍としてどうなのだろうと思うが、寒いものは寒いのであり、早く任務を終わらせて酒酒屋で一杯したいものだと考えていた。
Dランクの芋ほりは、順調に終わり、後は報告書を受付の奴に見てもらうのみになった。
「アスマ先生!焼肉奢ってよ。」
かわいい、かわいい部下たちは成長期真っ盛りだ。しかし、俺は心を鬼にして、その天使のような悪魔のお願いを断る。大げさに溜息を付いて手を横に振る。
「昨日奢っただろうが、だいたい、チョウジ、お前が食う量はハンパないんだから、このまま、いったら俺が無一文になっちまう。」
子守までは、給料の中に含まれていない。
「いいじゃない。上忍師って高級取りなんでしょ?ケチケチしないでよ。先生」
「いの、世の中には限度っちゅーもんがあるんだよ。」
「めんどくせぇ。アスマが奢ってやれば、丸く収まるじゃなえーか。」
「はぁぁ」
ヤバイ、いつもは味方をしてくれるシカマルが、敵に回った。
こいつらのチームワークは嫌と言うほど知っている。
確実に、財布を持ってかれる。
藁をも掴む思いで、辺りを見回し、助けを求めた。しかし、今は昼時。
受付所には、受付嬢のしかいない。
上忍師の能力を持って気配をたどるが、無駄だったようだ。
最終手段として、俺は縋るように目の前の女を見た。
既に報告書が読み終わっていたのか、目が合う。
彼女は、俺の意を汲んでくれたのか、パチリとウィンクを寄越した。
それに対し礼も忘れて、俺は半歩引いてしまったが、これは仕方ない。
彼女は、小さく息を吸うと、人差し指を自分の頬に90度に当て、首を傾け、猪鹿蝶に上目遣いで言い放った。
「皆、先生にタカッちゃダメだぞっ。」
うわ、こいつに助けを求めた俺って・・・、
どうみても藁にもなりそうにない。
財布の中身を確認する。
ああ、上忍師なんてなるもんじゃねーな。
「じゃあ、さんが焼肉奢ってくれるの?」
「何、カツアゲ?最近の子ってこっわーい。」
三人の顔に嫌悪と苛立ちが明らかに見て取れた。
なんというか、そう、彼女の言動は、全て癪に障るのだ。
だからか、上忍なんかは、よほどの物好きでない限り、彼女と会話する者はいない。
イノなんかは、同じ女だから尚許せないのだろうか、コメカミと拳をぴくぴくさせている。
表情豊かな忍もどうかと思うが、気持ちはよく分かった。
対するは、大して興味がないかのように、彼らの反応に物怖じせず、三人を見据えた。
「あー、じゃんけんして勝負してに勝ったら考えてあげちゃう。
どうどう?きゃっ、平和的解決☆ったら、頭イー」
嫌悪、不快感、苛立ち、かのように負の感情を一気に出してくれる人間も木の葉には少ないだろう。
三人の怒りが限界に達したのがよく分かる。
シカマルじゃないが、めんどくさいことになった。
「将棋がいい。」
デブとも言われていないのに、あの穏やかなチョウジがいきり立っている。
「そうね。シカマルがいるし」
イノにいたっては、背後に怒りの炎が見える。
B
「めんどくせー」
唯一冷静を保っているようなシカマルだが、声にははっきり怒気が含まれていた。
「将棋?えー、じじくさーい。」
「あーら、勝つ自信がないんじゃない?そうよねー。一回りも年下の子供に、負けるなんて恥ずかしいものね。おばさん。」
もともと挑発的な性格をしていたイノではあるが、年上に対して、こうもあからさまな態度を取るようなやつじゃない。
本当は、きちんと躾のされている良い子なんだ。
俺は信じている・・・などと、いらぬフォローを入れていたら、どこから将棋盤を出してきたのか、とシカマルは試合を始めていた。
俺は、もう一度、財布の中を確かめる。
下忍のにチョウジの飯代を払わせるには良心が痛む。
元はといえば、俺が巻き込んだのだし、それに、下忍の給料っつーことは、まぁ、あれだ、猪鹿蝶と同じ給料ってわけで、余裕はないだろうしな。
女が金のかかる生き物だっつーのは、嫌って程知ってるからな。紅のおかげで。
去年の誕生日なんか・・・。
「アスマ上忍師、終わりましたぁ。」
余計なことを思い出していたら、が声をかけてきた。
「ああ、悪かったな。シカマルは強かったろ。あいつに将棋で右に出る奴はいない。気を落とすなよ。
あいつはただの下忍じゃないんだ。何せIQ200以上の天才だからな。
まあ、焼肉代は俺が持つから安心しろ。
ついでに、巻き込んだ侘びっつったらあれだけど、お前にも奢ってやるよ。」
「ラッキー!、バリうれしいっ!!」
バリって、いつの言葉だ?これ、死語というか、知ってる人っているのか?
「よし、お前ら行くぞ。」
とガキ共に背を向けながら声をかけるが返事がない。
不審に思って、振り返ってみてみると、
猪鹿蝶が真っ青な顔をしていた。
将棋盤を見つめながらシカマルは、この世の破滅のような、そんな表情をしていて、
チョウジとイノはその横で顔面蒼白、大汗をかいている。
「まさか、嘘だろ。」
予想外の展開に思考が付いていかない。
部下を慰める言葉も見つからない。
「国産和牛のホルモンと、タンと、カルビと、あ、デザートも頼んで良いですか?」
「え?あ、ああ。」
「きゃっ、やっぱり高給取りって、素敵っ」
因みに、の腹はブラックホールらしく、高い肉ばかり選んではチョウジ以上に食った。
次からは、部下たちに素直に奢ってやろうと思った猿飛アスマであった。