兎シリーズ

兎角亀毛(とかくきもう) :兎の角と亀の毛。現実には存在しない物のたとえ。

受付には、一つ結びに髪を結わえた目つきの悪い中年男性と、頭の悪そうな成人女性が睨みあっていた。


時計の短針は丁度12時を指していた。

ランチタイムなのか、他の教室から移動するアカデミー生たちのたてる雑音だけが聞こえる。


二人の間にあった沈黙を破ったのは中年男性、もとい奈良シカクであった。


人気のいない受付所にゴツンと鈍い音が響き渡る。


そう、は、拳で殴られたのだった。


これは、確か巷で言う、「モンスター・ペアレンツ」ってゆうやつだ。

そう思ったのは、ジンジンする頭を抑えながら、でも、挙仙術を使うことは忘れない女、 忍としては少々耐え症不足のだった。


「久しぶりに休暇が重なったのにシカマルが部屋から出てこない。 どうしてくれんだ、ちゃんよう。」


仁王立ちして、上から目線で話すシカクは親馬鹿の象徴のようだった。




「お子さん、将棋で負けたくらいで一々落ち込むんですかぁ?忍として、どうよそれ、、とっても心配になっちゃう。」


心底不安と言うように、眉毛をたらしてみた。


「息子の名誉のために言っておくが。 シカマルは将棋に負けたことを嘆いてるわけではない。 お前に、自分より馬鹿な同じ下忍の万年受付係りのお前に負けたことで、プライドがズタボロになって落ち込んでるんだ。」


「きゃっ、年頃の男の子って難しいっ」


茶目っ気一杯に言ってのけた。


まさか、このあとに、説教なんか始まるとは夢にも思っていなかった。








シカクは、を憂いを帯びた目で、心をお読み取るかのようにの顔を数秒見つめ ると

小さな溜息を付き、目線を窓に向けて、ゆっくりと話し始めた。

まるで、これが本題だったように。


「・・・ちゃん、お前、もう上に登れよ。俺が、中忍に推薦する。 実力はあるんだ。すぐに上忍になれる。」


時が止まったように思えた。

先程まで、聞こえていた雑音が無音になった。


「奈良上忍?」


「サクモさんが、お前を中忍に推薦することはできないんだ。」


胃液が逆流しているような、今すぐにでも、洗面所に駆け込みたくなるような、不快感が体中を包む。


「奈良上忍。」


「いつまで、立ち止まっているつもりだ。 足があるなら、歩き出せ。死者は生き返らない。」


「奈良上忍!」


たつと同時に拳を机に打ち付けると、ヒビが入った。

の手は痙攣し、背中には脂汗まで流れていた。



「サクモさんは、優しすぎた。そして弱かった。忍としても、人間としても。」


「シカクさん、やめてよ!!!はたけ上忍師を知ってる貴方が、そんなこと言わないで!!」


気付けば、つかみかかっていた。

緑色の里の支給服は掴みにくい素材でできていたし、相手の背は高くて届くかどうか心配だったけれど、持ち前の圧力と飛脚力で、襟を掴み床に相手の背中を打ち付けた。

もう一言も言葉を発せられないよう襟首を絞めて、殺気を当てた。


ダンと威勢の良い音が受付所に響き、その後、永遠とも思える体感時間、沈黙が受付所を支配した。








廊下から、馴染み深い人間の気配を感じ取ると、は手の力は緩めずとも殺気だけはしまった。

このとき、シカクが小さく安堵の溜息を付いたことはシカク自身しか知らないところとなった。


!!お前、なにやってるんだ!!シカク上忍、大丈夫ですか?」


上司を襲っている部下の姿を見て、慌てたイルカ中忍の姿を「あ、癒しだ」と思ったのは、
家庭でも受付所でも女にしりを惹かれている上忍であっただろうか、
何かと風当たりの強い下忍であっただろうか。


イルカは、シカクに乗っかっているを持ち上げて、手での頭を下げさせ、謝った。


「申し訳ありませんした。ほら、、お前も謝れ。」


「え、喧嘩売ってきたの、向こうなんですけど。」


こつんとイルカに叩かれ、しかたなく、目線は斜め右下におきながらボソッと言った。


「申し訳ありません。以後気をつけます。」





「・・・いや、気にするな。息子の敵討ちだ。」





あれが、今、巷で騒がれている所謂「モンスターペアレンツ」だ。

皆も気をつけるように。



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