もその頃には臨時暗号読解専門暗殺部隊から特攻暗部に組み込まれていた。
通り名は「赤い目の兎」であった。兎の面を付けた小柄な暗部、その脆弱な印象を鵜呑みにしたら最後、生きては帰れる者はいない。彼女の暗部での地位は確立されていた。
はたけ上忍師の遺言は、の中で日々大きくなっていった。
だから、気難しいカカシの世話役も買って出たのだ。
まぁ、はたけ上忍師とゴールインしていたら、コイツの母親になっていたわけだし なんて考えながら(の妄想は留まることを知らない)、カカシの経歴を暗部隊長から簡単に教えてもらい、初対面としてカカシの前に姿を現すこととなった。
「暗部にようこそ。よーし、まず、自己紹介からしようか?君の名前は?」
「は?暗部に自己紹介は必要ないだろ。あんた、本当に暗部か?」
「よーし、じゃ、私は君のこと、チンチクリンって呼ぶから、君は私をお母様と呼びなさい」
この後、木の葉の土地の一部を焼け野原に変えるようなドラスチック(過激)な争いが起こったのは言うまでもない。
そして、その数日後、カカシの世話役は外されたのだった。
その後も度々、任務でペアを組まされたりしたが、喧嘩は絶えなかった。
ある日のこと、最悪最低の任務で、任務自体は成功したもののカカシと以外の仲間が全滅したことがあった。
は両足の骨が折られ、カカシはチャクラ切れで身動きがとれずにいた。
森の奥深く、人工的な明かりのないそこで、月は綺麗に輝いていた。
二言目には喧嘩の二人も、今日は沈黙を守っていた。たくさんの仲間が死んだ。 名前も顔も知らない奴らだけど、共に戦った同志たちを前に馬鹿みたいな喧嘩をする気にはならなかった。
カカシは、ふと、疑問に思っていたことを口にした。
「どうして、兎のお面なんだ。耳が邪魔になるだろ?」
兎のお面なんかふざけてると、いつも思っていた。 けれど、今日は、満月の光に当てられて、その暗部の兎面がやけに神秘的な美を醸し出していた。
「兎は月にいけるからだよ。」
彼女は動ける上半身を不器用ながらも木に寄りかかりながら整え、背筋を伸ばし、木の葉の間から伸びる月光に全身が浴びられるようにした。
「月?」
彼女の視線の先を追ってカカシもまた月を上げた。 なぜか、父を思い出した。
「銀色の月に相応しい兎に、なりたい。そう思ってね」
彼女の声はかすれていた。 疲労や疲弊からのものではない、きっと悲しみや寂しさからのものだろう。 気付けば、面の下からポタリと雫が落ちていた。 ふと、思った。彼女を知りたいと。
「ねぇ、本名、教えてよ。」
「暗部に自己紹介は必要ないって誰かさんが言っていたような気がするんだけど」
「茶化すなよ」
「私はこの任務を持って暗部を降りる。名前なんて覚える必要ないよ。」 継がれた言葉は否定ばかりで、こちらの要望には答える気がないようだ。
「・・・俺の名前は、はたけカカシ。あんたのこと苦手だったけど、嫌いじゃなかった。 アンタとだったから成功した任務も多々あった。 お互い似通ってる部分もあったし、・・・良い相棒だと思ってた。」
淡々と、しかしながら意思を持って伝えられたのは言葉だけではなかった。
鈍くは決してないに、確かに届いた淡い恋情。
「そうだね。私たちは似ているかもしれない。」
「名前を知りたい。」
「そうだね。娑婆で生きて会えたら、教えてあげるよ。」
惹かれたのは偶然で、惹かれあったのは必然だった。
月の引力が、この二人を惹きつけたのであればなんと残酷なことか。