兎シリーズ

コツコツとハイヒールの音がアカデミーの敷地内に響く。

この音を聞くと、たいていの忍は居住まいを正すのだ。


「今日はルーキーに色の授業を受けさせるので、ルーキーの子達から質問などをされた場合、素直に答えてあげてください。」


夕日紅は、待機所、アカデミー、受付、部下たちが回りそうな場所に先回りして、予め先方の承諾を取っていた。

年末で忙しいからと言う理由で断ってきた経理部以外は、快い承諾を得た。


これは、単なる部下たちの色の授業ではなく、外部任務に赴かない内部、
つまり常に情報処理を行っている者達の適正審査も兼ねているのだ。



紅は、明らかに今年で引退しそうな木の葉の受付嬢の顔を思い浮かべ、溜息を付いた。


「かわいそうに」





今日の色の授業は簡単で、色々な忍に、好みの異性と、異性への接し方、 これまでの色任務の体験談、恋愛経験など聞くことだ。

女がどんな男に好意を寄せるのか、男がどんな女に好意を寄せるのか、感情の突起はどのような状況でどのように起きるのかを観察するためのようだ。

今日の色の授業は簡単で、色々な忍に、好みの異性と、異性への接し方、 これまでの色任務の体験談、恋愛経験など聞くことだ。


ノルマは30人。

おしゃべりではなさそうな人を選べば、半日で終わるだろう。


意気消沈する男子たちに比べて、心身ともに思春期へと入っている女子たちは、いつも以上にはしゃいでいた。


それは、カカシ班、唯一の女子、春野サクラも例外ではなかった。


しかしながら、先輩たちと一枠に括ってみても、 いかんせん、こちらは下忍なり立てのルーキー。

知り合いなんて、色のアンケートを頼めるほど親しい忍は、アカデミーの先生を除けばほとんどいない。

その意味では、めんどくさがりのシカマルや、ちょびっとシャイボーイなサスケ君がたじろぐのも分かる。

しかし、そんなことは実際、瑣末事でサクラにとって今大事なのは、優秀な人員の確保であった。

少なくとも、この授業で、イノよりかは多くのことを学び、そして、実践に移さなければならないのだから。


「サスケ君のために、一肌脱ぐわ。しゃんなろー」


そう大きく叫んだ時、既に周囲にはルーキーの担当上忍達しかおらず、出遅れた感を否めないサクラであった。













調査対象の重複は禁じられていて、目ぼしい知り合いは、ほとんど他の同級生にとられた。


受付所にやってきたものの、今は昼時、目の前でグースカと眠りこけている受付嬢しか、調査対象は見当たらない。


ルーキー全員の知り合いのくせに、きっと、いや絶対に調査を受けていないであろう彼女は、サクラにとっても曲者であった。

できれば、関わりあいたくない、それが正直な気持ちで、でも背に腹は変えられないのも事実。

サクラは思い切って声をかけた。




さん、お休みのところ失礼だとは思いますが、色のアンケート調査に協力願いたいんですが」


静かな寝息が、受付所を包む。窓から入る風がの柔らかそうな栗色の髪を揺らし、長い睫は太陽の光を浴び透明度を増し、結構の良い肌はバラ色に色づいていて、サクラは瞬きをして一歩下がった。

綺麗だと思った。


彼女について悪い噂しか耳にしないし、彼女のしゃべり方や身の振舞い方もよく知っているサクラは、今まで一度も彼女を綺麗だと思ったことはなかった。

黙っていればなんとやらの、典型的な例だと思う。

小さく息をつくと、何も見なかったようにもう一度声をかけた。


「・・・、先程、買ってきたのですが、甘栗甘の羊羹でもいかがですか?」


ガバッと起き上がる音が聞こえた。


「ヤッタッ!ありがとっ!サクラちゃん!!緑茶と麦茶、どっちが好き?」


大きな溜息を付いたのは、果たしてサクラだったか、
その様子を水晶玉から偶々見ていた火影様だったか。






「好みの男性は、どんな方ですか?」


より、高収入、高経歴、高身長、高年齢な人っ」


「・・・(そんな人、沢山いそう。)」


「なぁに?そんな見つめちゃ恥ずかしいっ」


「あ、いえ、単純明快な答えで助かります。」


なんだか、自分の方が年上なんじゃないのかと錯覚を覚えるサクラだった。


「(彼女は、下忍だし色の任務には就いたことないと思うから、経験談は聞けないっと) えーっと、異性への接し方で注意している点はありますか?」


「たとえばぁ?」


「え?例えですか?そういわれると、あ、私はサスケ君のこと、その、す、好きだから、やっぱり、サスケ君の目では大人しくしたり従順になったりしてます。(あれ、これただの報告?!例えになっていないじゃない)」


上目遣いで、さんを見上げると、さんは目を細めてこちらを見ていた。


突き刺す目で、普段の彼女からは想像できないくらいとても賢そうに見えた(失礼)。


彼女がニタリと笑うと、サクラは背筋に悪寒を感じた。


「サスケ君の事好きなんだ?・・・ふーん」


「えっ」


その表情はサクラには初めてのもので恐怖を覚えるものではあったが、それ以上にの口から出てきた言葉に興味を持った。


「彼を落としたいなら、彼以上に強くなれば良い。力に惹かれる者は自分より力のある者に惹かれるものだよ」


淡々と話す姿は、サクラが見て来た受付嬢ではなく、もはや別人の忍だった。

幻術かと思って、ポーチの中にあるクナイの先に親指の腹を当て脳を刺激してみるが、 目の前の女の口調は変わらない、となると、やはりこれは現実らしい。





「頑張ってみます」


少しばかり、強張った表情になってしまったが、これでも忍の端くれ、上手く笑えただろうと、自分を慰める。





さんはキョトンとした後、ヘラリと力なく笑った。




「あは、サクラちゃんったら、かわいー!」





彼女が発した「かわいー!」の意味が、サクラの恋心に対するものなのか、サクラの恐怖心に対するものなのかは、図りかねるが、





やはり、今後は、いかなる場合でも、この人には関わりを持つことは断固として禁じよう、 そう一人決心するサクラであった。








夕日が、木の葉の里を真っ赤に照らす頃、言葉通りぐったりとして調査書を埋めた者達が上忍待機所までやってくる。


のろけを聞かされた者、愚痴を聞かされた者、恋愛相談をされた者、担当上忍宛の恋文を握らされた者、 理由は一様に「色」のものではあったが、他人が聞けばくだらないものばかりで、最後には疲労感しか残らなかった。




はたけカカシは部下をねぎらおうと、ひとしきり落ち込んでいる様子を見せていたサクラに向かって目を弧に描き、「お疲れさん」といったのであった。

自分が下忍の頃にはなかった授業制度で、あまりにもくだらない内容から7班だけでも参加させないよう努力はしたが、例外が認められるはずもなく今日に至った。

しかし、久しぶりに自分はゆっくりした時間を過ごせたので、結果的に満足していた。 だからか、声に喜色が含まれてしまって、どう聞いても労っているようには聞こえず、サクラの耳には嫌味として届いてしまったのかもしれない。





俺の笑顔を、 もとい右目を胡散臭そうに見て、 小さく息をつき、 ポツリといった。


「カカシ先生って、受付のさんに似ているね。」


・・・受付のさんって、もしかして、あれ?(兎シリーズ?参照)





部下により放たれた衝撃の言葉に、瞬きするのも忘れたおれだった。
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