兎シリーズ

兎兵法 実用的でないこと





サクラが収拾したアンケート調査をパラパラ捲りながら、ある一枚の人物の調査書に目を留めた。



(25)木の葉の受付を担当する下忍のものだった。


好みの男性の欄に、淡白な単語が4つ並んでいるのを見て、眉を寄せた。


兎の面を付けていた彼女も、同じことを言っていたことを思い出す。



理想の男性は、自分より、高収入、高経歴、高身長、高年齢を兼ねる人だと、仁王立ちしながら俺に指さして、


「チンチクリンはアウトオブガンチュー」と、高らかに笑っていた。







受付嬢のそれは広き門だが、兎のそれは狭き門で

暗部に在籍する彼女は、俺とほぼ同等の力を兼ね揃えた彼女の理想の男性は、見つけるのは砂漠の中から一粒の砂を見つけるくらい難しい。







しかしながら、このとき俺は、単純に思ったのだ。







共通点があるのではないかと、

彼女と同じ答えを出した受付嬢、

彼女に似ている俺と似ていると言われた受付嬢、

次に彼女に会った時、思考の似ている受付嬢と模擬体験でもしておけば、本命の彼女に思いを告げるとき役立つのではないかと。









浅ましくも思ってしまったのだ。

















お母さんは幻滅したぞ!! チンチクリン!お前はこんなのが趣味だったのか?

朝一番、受付所が一番混雑している時、カカシに告白された受付嬢は、他人事のようにそんなことを考えていた。



カカシの後ろで、7班の面々が唖然としている。

普段なら、きゃーと黄色い声をあげるサクラも今日ばかりはこの展開に付いていけないのか、顔を蒼白にしてこちらを見ている。

サスケは平静を装いながらも、開いた口が閉まらない様子。

ナルトはーと、悠然と構えていたら、頭上から声がした。





「で、返事は?勿論OKだよね。俺、ちゃんよりも高収入、高経歴、高身長、高年齢だもんね。」



カカシの言葉に、我に返ったのはだけではなかったらしい。

隣にいたイルカがカカシを軽く諌めた。



「カカシ先生、TPOを考えてください。あと、後ろが閊えていますので」



「あー、そうだね。じゃあ、今日は任務が終わったら、また来るね。」



止まっていた時間が動き出す。

と、同時に先程までは感じなかった殺気がビンビン感じる。

はて、が知っている限りでも、木の葉でカカシに思いを寄せるくのいちは、ざっと2桁はいる。

ここにいる忍が噂を流せば、夕刻までにはその全員に情報が行き渡るだろう。



は柄にもなく、溜息をこぼすのであった。













カカシが告白した事実は、にとって些細なことで、その意図もまた知るところではなかったし、興味もなかった。

しかし、十分予測できる影響に眉を顰め、自分が出すべき返事に頭を悩ました。

別につきあうのどうのこうのは、この際どうでもいいのだが、夜の仕事ができなくなるのは非常に困る。

しかし、断ったら、プライドの高いカカシの事だ、理由をしつこく聞いてくるかもしれない。それは、うざい。

いっそ、ばらしてしまおうかとも思ったが、生憎、自分の掌を見せるのは好まない性格のため、それは無理に等しい。



初志貫徹。隠しごとは最後まで隠し通したい。隠密は忍者の仕事だ。



は、一旦思考を切り、自分専用のマグカップに入ったコーヒーを飲みきると、書類整理に集中した。

昼休みになれば、人数が少なくなり、惰眠を貪ることも容易になる筈なのだが、今日はそういかなかった。

30人ほどの、くのいちが私の目の前に立ち憚っている。

イルカが助け舟を寄越そうと、こちらを伺っている。が、くのいちの中には特別上忍も含まれている為、手が出しづらいのだろうと思い、私は目で、大丈夫だと合図を送る。

イルカは、まだ不安そうにはしていたが、信用してくれたらしく自分の仕事場に戻っていった。







「ちょっと話があるんだけれど、屋上まで良いかしら?」





ちょっとで済みそうな雰囲気を全く出していない、綺麗なお姉さんが私に向かっていった。





ピュルルルルーーーーーーー




暗部御用達の鷹やらトンビやらが頭上を飛んでいる。



電線の上では平和の象徴である鳩がこちらを向いてクルックーと鳴いて様子を伺っている。



目の前にいる30人の美女たちの中には、今日非番の人がほとんどで、それ以外は昼休みだとか朝番とかで、任務を蔑ろにするような人間が木の葉にいない事に、私は場違いにも酷く感動を覚えたのだった。



「カカシ様が、今朝貴方に告白したらしいわね。どんな手を使ったのか知らないけれど、別れてくれない?」



心当たりも、身に覚えも御座いません。と、素直に言っても聞き入れてくれそうにない。



「あと、勘違いしているようだから言ってあげる。カカシ様は、実は私と付き合っているのよ」



「はあ?ちょっと何アンタどさくさに紛れて言ってんの!!」



いや、そこ、仲間割れはやめようよ。

ほら、チームワークが大事だって、君たちの愛するカカシ様も言っていたでしょーが。



「兎に角、貴方がカカシ様と別れないっていうなら、こっちにも考えがあるんだからね」



ちょっ、まって、「兎に角」で今、まとめられたの?まとまってないよね。なんて、思っている間にクナイで髪の毛をざっくり切られた。

彼女たちの「考え」はそれだけでは勿論なかった。

は、その後、水遁で水をぶっ掛けられたり、卵を頭に投げつけられたり(フランスでは誕生日の儀式として今もまだ行われています笑)、火遁で足を焼かれたり、指の骨を折られたりした。

その間、何もせず、ただ、自分の身に起こっている事を他所事のように傍観していた。

痛みに耐える修行はしていたし、他里の忍による拷問と比べれば酷く拙い嬲り方で、なんだかんだ言いながらも、向こうも手加減はしており死ぬことはないと踏んだからだ。

彼女たちに身を任せて1時間半ほど経った時だろうか、鳩がとまっていた電線付近によく知る気配がした。

丁度、長身でグラマスなお姉さんの蹴りが腹に入ったときで、私は蹲り吐血をしながらも、口は弧を描いた。









タイミングが良い。作戦通りだと。







「そこまでだ」



の頭上から声が聞こえる。



「!!!?」





「お前ら、何やってるんだ。」





「カカシ様」





カカシが私の前に立ちはだかって、くのいち達との間に壁をを作る。

因みに、このとき、は感謝よりも軽く屈辱感を覚えたりしていた。







蜘蛛の子を散らすように、くのいち達は四方八方に去っていった。













文字通りボコボコされたは、長かった栗色の髪の毛を短くされ、顔には青あざが何箇所も見受けられ、白かった服は所々破れ血の所為か純粋に汚れの所為か黒ずんでいる、腕も足も血だらけで、傍から見れば息をしているのも不思議なほどであった。

無残な姿だった。



っ、こんなのっ、もう、耐えられないっ」



涙が滂沱として彼女の頬を流れた。

は、その場に体を丸め蹲り、手で顔を覆いながら、エンエンと泣き叫んだのであった。



「怖くて、お付き合いなんて無理っ」





「すまん。俺が何も考えずに告白して・・・」





隠されているの口端が笑みに歪む。



周囲にナルト、サクラ、サスケの気配がする。

任務が終了し、屋根伝いに屋上経由で受付所に訪れる忍は少なくない。

この偶然は、しかしながら、当然だった。

今日の7班の任務は昼には終わるDランク、その内容は慰霊碑とその周辺の掃除。

方角として南に位置し、火影岩の上にある慰霊碑から、受付所に来るなら屋上を経由するのは自然なことで、私が乱暴されているところにカカシが出くわす可能性は限りなく100%に近かった。

の計画通りことは運んだ。

あとは、カカシが今朝の告白を白紙に戻すだけ。



「そんなに泣いて、大丈夫か、姉ちゃん?すっげー、血出てんぞ!!」



「馬鹿ナルト大丈夫な訳ないでしょ!あ、私、医療版呼んできます。」



「おい」



顔を上げず、サスケからハンドタオルを受け取りながらも、

いや、そう心配されると、こう罪悪感を感じてしまうので、君たちには無視しておいて欲しかったんだけれど、と、心の中一人ごちるだった。





「おい、カカシ、お前が今朝突拍子もないことを言ったせいでこうなったんだぞ」



「え。そうなのか、だったら、先生が責任取るべきだってばよ」



サスケは状況を理解した上、冷静な判断の元カカシを責め、ナルトは理解も判断もせずカカシに適当なことを言っていた。



にも、関わらず、カカシが耳を傾けたのは後者の言葉だった。









「そーだね。うん。そうしよう。責任取るよ。ちゃん」



「は?」



ハンドタオルのおかげで声も表情も出さずにすんだが、間違いなく、の顔からは血の気が引いていった。

サスケも今朝と同じ顔をしている。







ナルトは一人満足そうに頷き、「当然だってばよ」とのたまっていた。





後は、クルックーと鳩の鳴き声だけが響いた。










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