畑シリーズ

芋を洗うよう:狭い所で多数の人が込み合うようす


「家政婦?」


「はい、皆さんが自己管理を怠るので仕方なく私が探してきたんですよ。暁の基地は、『悪の巣窟』と言っても過言ではないですから、一般人ではなく忍びを誂えました。」


「俺は『悪の巣窟』という認識はなかったが・・・」



砂の国の情報収集を終えて、1ヶ月ぶりに基地に戻ると、門前で鬼鮫に迎えられた。何でも新しく入った人間、つまり家政婦の説明をするためだそうだ。自分がいない間に家政婦を殺した場合は新しい家政婦を見繕ってこなければならない、そんな面倒くさいルールができたらしい。



「木の葉の下忍ですから、あなたの知人かもしれませんね。イタチさん」



「間者の可能性は?」


「ありませんよ。ただの馬鹿です。いや、人類の底辺に立つ馬鹿です。むしろ、あれは底なしの馬鹿ですね」


「・・・」



鬼鮫がここまで人を貶すのも珍しく、イタチはまだ見もせぬ家政婦を思って不安を抱く。




「『はたけさん』と呼んであげてください。これは彼女の要望なんですがね。もっとも暁の皆さんは普通に名前を呼んでますが」


「はたけ?・・・木の葉で『はたけ』の性を持つのはカカシさんだけだぞ」


「カカシとは。あの『写輪眼のカカシ』ですか」


イタチが頷くと、鬼鮫は怒りを露にして洞窟の中央までドシドシ音を立てながら歩きだした。



「つまり、何ですか。あの女は性懲りもなく嘘をついたわけですか」


「いや、カカシさんの妻だという可能性もあるだろ」


「それはありえません。あの女としゃべってみれば分かりますよ。一つ屋根の下で、共に生活できる類の人間じゃありません」




鼻息を荒くする鬼鮫を横目で見ながら、イタチは、その女とこれから一つ屋根の下で生活していくんだよな、と不安を募らせた。







********











鬼鮫が勢いよく中央の扉を明けると、ソファーに横になり広げた雑誌を顔に被せ、寝息を立てている女がいた。鬼鮫がソファーを軽く蹴り、雑誌に手をかけると、女が大きなくしゃみをした。

予想外のことだったのだろう、鬼鮫の反応が遅れ彼の顔面に雑誌が見事に当たったのだ。



「・・・貴女、どれだけ私に迷惑をかければ気がすむんですか?」


「ふぁー、ハロー!鬼鮫ちゃん」


「ハローじゃなくてですね・・・。それよりも、、貴女は嘘をついてましたね。」


爆発しそうな怒りをなんとか抑え、鼻を擦りながらを見据える。は首を傾げ、人差し指をこめかみにあてて、考えるのポーズをとった。

イタチが歩み寄って、の左手を掴むと顔の前に持ち上げる。




「カカシさんと結婚されたんですか?」


薬指についている指輪がキラリと光って、その存在を主張した。


「モチバチ★」


の発した言葉が理解できなくてイタチが怪訝な顔をしていると、親切にも鬼鮫が説明してくれた。



「勿論バッチリの略だそうです。・・・って、貴女、既婚者だったんですか?」


ボトッと鈍い音がして、三人がそちらを見やると、なんだか慌てた様子で粘土を拾っているデイダラの姿があった。粘土を胸にかき寄せると、デイダラは赤い顔でをキッと睨み、それから無言で自分の部屋に戻っていった。


何だアイツと、三人は眉を寄せてデイダラの一連の動作を見ていたが、パタンとドアが閉じられると、それを合図に鬼鮫は視線をに戻し話を再開した。



「貴女が既婚者とは到底思えないのですが・・・。落ち着きも、色気もない、その上、頭も空な女を愛するって、もはや神業ですよ。いや、そんなことよりも、本当にあの『はたけカカシ』の女なんですか?一体どんな手を使ったんです?」


「うーん、婚姻届に彼の親指をカット&プッシュで、ゴールイン!」


「何を言っているのかサッパリ分かりませんが、まともな手段でないことだけは分かりました。はぁ・・・、それでは、人質になりそうもないですね。木の葉の里は一体何を考えているのやら」



「・・・鬼鮫、いつもこんな調子でなのか?」



いつもより饒舌な相棒と、先ほどからまともな言葉を発していない女を見ながら、やや口をひきつらせたイタチが不安そうに問う。


「はあ、まあ」



鬼鮫も、イタチが何を言わんとしているのかを察して、言葉を濁すが、冷静に考えると、取るに足らないことでもめていたことに気づく。を前にすると、気持ちが高ぶることが多いのは前から感じていたが、それをイタチに見られてしまったのは恥ずかしかった。

自己嫌悪に陥り、一休みすることを伝えてから自分の部屋に引っ込んだ。


















その場にとイタチだけになり、沈黙が下りた。さっきまで、洞窟にいたのはデイダラだけだった。鬼鮫とイタチが加わって、この基地には総勢4人しか忍びがいないことになる。


そのため、静寂があたりを包んでいた。イタチの赤い瞳と、の栗色の瞳がかち合う。視線が絡み合い、脳髄を色々な思考が駆け巡り、口を開かせる。






「お久しぶりです。さん」


静かな洞窟に相応しい落ち着いた声が響く。






「元気そうで何よりだわ。イタチ君」


前髪をかきあげて、写輪眼を恐れもせず見据える女が、にやりと笑った。






雑誌が鬼鮫の視界を遮ったあの瞬間、はイタチに「サスケのことで話がある」と口の動きだけで伝えていた。だから、イタチがあの場で彼女を告発することはなかった。



さん、その節はお世話になりました。しかし、貴女を生かしておく訳にはいきません」



クナイを彼女の首に突きつけると、その白い柔肌から赤い血が流れ出した。俺なら手をかけないと高をくくっていたのだろうか、彼女はまったくの無抵抗だった。



「早まらない方がいいわ。」


の凍るように冷たい手がイタチの手の上に置かれる。本当に血が通っているのだろうか、と疑問を抱くような冷たさで、イタチは一瞬鳥肌が立つのを感じた。



「サスケに呪印を付けたの。私が死ねば、サスケも死ぬ仕組みになっている」


イタチが目を大きく見開くと、は口を弧に描き彼を見据える。





「弟思いのお兄さんとして、取るべき行動はわかる?」



「・・・俺は協力できませんよ」


「そう難しく考えないで。イタチ君は、何もせずただ黙ってるだけで良いんだし、ね」


さん、貴女が優秀なのは知っていますが、暁の人間を舐めないほうが良い。彼らは貴女より強い」


「うちは兄弟は運命共同体、サスケと私も運命共同体・・・つまりイタチ君」


挙仙術で首の怪我を治したが、そのままイタチのクナイを人差し指と親指で摘むとパリンと弾けた。鉄くずに成り下がったクナイが、イタチの靴の上に落ちて散らばる。




「・・・イタチ君と私も運命共同体なのよ」



ロマンチックだと思わない?と、彼女は邪気の無い、天使のような笑顔を向けた。










・・・なるほど鬼鮫、お前の言う通り

確かに、ここは『悪の巣窟』だ。

Index ←Back Next→