「カカシ、と結婚したっつー噂は本当か?」
「はぁ」
長いブロンドの髪を靡かせて、胸元を大きく開けた服を着ている女は、つい先日カカシの上司になった。悪い人ではないのだけれど、心から尊敬できるかどうかと言われれば、首を傾げるしかない。これはたぶん、彼の妻であるの感情に影響されていることもあるのだろう。
綱手は一昔前までの師匠だったらしい。しかし、医療忍術で最も必要な『人を思いやる力』が無かったため、破門になったようだ。そのため簡単な挙仙術しか使いこなせないことを逆恨みして、今では筋金入りの綱手嫌いになっている。
「は・・・強くなったか?」
「御自分で確かめられれば、よろしいじゃないですか。帰還命令を出して」
「なんだ、お前が心配するほど弱いのか」
「彼女は強いですよ。迷いがない分、俺よりも」
「ほう」
嫌味を含めたその離し方に、綱手の眉がぴくりと動くが、カカシはそのままについて彼女がしりたいであろう情報を話し始めた。
「予め優先順位を付けて、弱者は容赦なく切っていく。強い者には敬意を、弱いものには侮蔑と嘲笑を。里を思いやるのは人一倍、人を思いやることは決して無い。火影様の命ならば、俺をも殺しますよ。」
「・・・お前、あの女のどこに惚れたんだ?」
「好きになることに理由は不必要でしょ」
「ずいぶん、献身的じゃないか」
「愛してますんで」
にやにや笑う綱手に適当に返事をし、任務書類を受け取るとカカシは一礼して踵を返した。
「・・・知っているか。カカシ。人は、それを狂気と呼ぶんだ。」
いつになく真剣な綱手の声だったが、プライベートにまで介入される覚えはないと思い、そのまま歩を進めた。
カブトの例もあるし、『思いやり』と挙仙術は切って離して考えて良いものではないのだろうか、と最近思い始めたカカシであった。
木の葉で噂になる情報は、暁にも回る。それは、情報収集を耐えずしている彼らにとっては至極当然のことだった。情報交換のとき、は洞窟の外にいる。朝昼夕の10分休憩の間に彼らは重要な会話を交わすのだ。
「『赤い目の兎』が暁に派遣されたらしい」
洞窟の中央、ペインがそう報告すると、暁のメンバーは自分たちのリーダーに目を向けた。
「ほう、あのふざけた暗部面を被る女か」
最初に口を開いたのは、サソリだった。相変わらずの読めない表情であったが、その声はどこか愉快そうだった。それに乗ずるように飛段が大声で笑った。
「確かにあの女なら、結界や罠を潜り抜けてやってっきそうだな。が、俺らの情報こそは持っていけても、命まではとれねーだろ」
「いや、だから、目的は情報なんでしょう?」
鬼鮫が呆れたように言うが、顔には思いっきり「所詮は木の葉のくのいち」と書いてある。緊迫した雰囲気は消え去り、ざわめき、普段の情報交換の時間へと代わっていく。
サソリがふと思いついたように、デイダラに顔を向けた。
「そういえば、デイダラ、お前昔戦ったって言っていたよな?」
「・・・」
俯いて黙っているデイダラからは何の反応がなく、金色の長い髪が彼の表情を隠していた。
「デイダラ?」
サソリが怪訝そうにもう一度彼の名前を呼ぶと、デイダラはゆっくりと顔をあげた、が、その時、サソリの笑いはふいに消えた。
いまだかつて見たことの無い相棒の表情を目の当たりにして絶句した。その青い瞳には、恐怖と絶望が宿っていたのだ。
デイダラは、サソリを見て何か思うところがあったのだろう、顔を両手で覆い、小さくため息をついた。
「あ、
うん。
悪い。
うん。
今の今まで忘れてたぞ。
うん」
何度も、口癖である「うん」という言葉を発して、自分を納得させるように頷く相棒に不信感を募らせるが、それでも面倒を見る気にはならないサソリは、適当な言葉をつむぐ。
「一時、すごい憤慨してた時があったな。ギッタギタのメッタメタにしてやるって」
隣にいた飛段が、サソリの台詞だけを聞いて、なるほどと、手を打ち、大きな声で叫びだした。
「おーい皆。『赤い目の兎』が見つかったら、デイダラに差し出せよー!・・・な?デイダラもその方が良いだろ?」
飛段が取って付けた様に言うと、デイダラは顔を覆っていた手で前髪をかきあげた。
「・・・ああ、もし見つけたら、殺す前にオイラに言ってくれ。うん」
この時、デイダラの表情が翳っていたのに気づいたのは、イタチだけであった。
片思いのロミオと、彼のためには死なないジュリエットなら
作られる戯曲は、悲劇か喜劇か