畑シリーズ

瓜二つ



雲一つ無い青空の下、久々に休暇をもらえたアンコは、公園のベンチで一人団子を頬張りながら寛いでいた。上からさす木漏れ日に目を細めながらも、いつもの休日と同じ穏やかな時間を過ごす。

公園の中央では子供がはしゃぎまわっており、微笑ましい光景を目にして気分もよくなり、食も進む。しかし、幸せに浸っていたアンコであったが、子供たちが遊んでいたボールが運悪く彼女の頭に当たり、その弾みで購入した団子を落としてしまうと、アンコはボールを容赦なくクナイでボロボロにし、子供たちを追い掛け回した。


「アンコ、大人気ないわよ」

「お前、本当しょうもないなぁ」



紅とゲンマに声をかけられて、掴んでいた子供の襟から手を離す。信じられない光景を見たかのように口をぽかんと開け、二人から一歩離れてじっと下から上に舐めるように見た。そして、最後に紅が抱えている赤子に向けて、人差し指を刺した。


「何、アンタたち、そういう関係だったの!?」

「はあ?」

「アスマへの扱いがどうも悪いから、本命が別にいるとは薄々思っていたけど、ゲンマだったとはねー。いや、子供まで作るほど発展しているとは思わなかったわ」



腕を組んでうんうんと頷くアンコを紅は呆れた目で見た。額に手を当て、首を横に振っているゲンマを見て、アンコは胸を張って自分の方に親指を向けた。



「周りの目は誤魔化せても、このみたらしアンコ様の目は誤魔化せないわよー」


どーん、と仁王立ちのポーズをとった後、すぐに紅の傍までかけよると、赤子を取り上げ高い所まで持ち上げ、にっと笑った。


「この見事なツンツン銀髪!ダルそうな目!これはどう考えても、カカシの子供じゃない!!」



じゃーん、とゲンマの目の前に出す。そしてゲンマも頷く。



「正解だ。確かにお前の目は誤魔化せない」

「って、あれ?これ、カカシの子?」

「ああ、正真正銘カカシさんの子だよ」

「誰との?」

「そりゃ、決まってるだろ?」


ゲンマが、にやりと笑みを浮かべると、アンコは全身に鳥肌を立てた。勿論、そこまで言われれば分かった。カカシが子供を作るとしたら、人工授精でもしない限り相手は一人しかいないのだから、答えは簡単だ。


の子よ」

「ぎゃーーーーーーー!嫌!何で!触っちゃったじゃないの!」



赤子を投げ捨てるように紅に渡し、アンコはすぐさま近くの井戸に手を洗いに行った。走り去る彼女の背中を見ながら、紅とゲンマは顔を合わせて笑った。


「アンコったら、本当にのことが苦手なのね」

「殺気を当てられたことがトラウマなったらしいです」

「まあ、この子がアンコにイジメられることが無くなったってだけでも良いのかしらね」

「イジメられませんよ。あの二人の子供ですよ?」

「その二人は今、こってりイジメられてると思うけどね」

「あれは、ただの説教ですよ。二人とも反省すると良いんですけどね」


ゲンマはそう言うと楽しそうに千本を揺らして、火影室の方向を見た。












*************










「で、お前らは『勘違いでした』で許されると思ってるのか?」





火影室の中、綱手は椅子に座り足を組んでとカカシを睨みつけていた。どん、と彼女が机を叩くたびに、シズネが小さく叫び声をあげる。



「特に、カカシ、お前は任務を放棄しただけでなく、よくよく聞けば、木の葉中の医療班に脅しをかけていたそうじゃないか」

「申し訳ありませんでした。もう二度とこのような真似は致しません」

「当たり前だ!、お前もだ」

「私は完璧に任務を全うしました」

「馬鹿者、お前は反省を知らんのか!」



がワザとらしく首を傾げて頬に人差し指を当てると、綱手は米神に血管を浮かばせ、机の上に置かれてあった湯飲みを掴みに投げ飛ばした。それをカカシが掴み中身を零さないよう、重力を利用して湯飲みの中に入れていく。




「お前たちが木の葉に与えた恐怖は大きい。多くの同胞を私的なことに巻き込み、力でねじ伏せ利用しようとした。後輩に当たるテンゾウを駒扱いするなど、お前ら先輩として恥ずかしくないのか?」

「いや、アイツの場合、ボランティアなんで」



カカシが白々しくそう言うと綱手は、机を真っ二つに叩き割った。



「聞こえなかったな。もう一辺言ってみな?」

「本当、申し訳ありませんでした」

、お前はテンゾウを殺しかけたそうじゃないかい。同胞殺しは大罪だぞ」

「いや、アイツはマゾヒストなんで」



がカカシの口調を真似てそう言うと、綱手は自分が腰掛けていた椅子をに投げた。あまりの速さに今回は、カカシも手を出せず、も避けきれず、頬を少し切って血が出る。第三者であるシズネの悲鳴が響いた。



「どうすれば、良いかはわかっているな?」




窓に背に向けた綱手の表情は逆光で見えづらかったが、彼女がたちの近くまで歩いてきたので、空気で笑っていることだけは分かった。近寄った彼女はの顔をしばし見つめた後、肩に手を置き小さく耳打ちした。すぐ隣にいたカカシにも聞こえない声だった。


の肩から手を離し、顔をあげてカカシを見た綱手は、ニッと笑った。




「たくさん迷惑かけた分、幸せになるんだよ」




「・・・綱手様」



また、とんでもない勤務スケジュールを組まされるのを覚悟していたカカシはほっと胸を撫で下ろし、後方で三人を見守っていたシズネは感動の溜息をついた。


そして、は、





綱手の顔に唾を吐き捨て、「ダンゾウ様、バンザーイ!!」と両手をあげた。









その後、火影室が血の海と化したのは言うまでもない。

































『人を思いやる気持ちの大切さを、少しは理解できたんじゃないかい?』


彼女が彼の願いを受け入れたから、彼も彼女の願いを受け入れた。
二人が互いのことを思いあった結果、奇跡は再び起こった。



奇跡を起こすのは、神でも運命でもない。
奇跡を起こすのは、常に人の思い。






人を本当に愛したならば
本当に思いやれたならば
結末は常に幸福に終わる

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