兎シリーズ






標高2000Mの竹島山の頂上付近は空気が薄く、一般人であれば歩くだけで息切れするほどのものであった。さっきまで青白い顔をしていたちゃんが今は軽い足取りで俺の前を走っていく。この子は酸素を必要としないのだろうか。
ナルトたちは報告して来いという大義名分を立たせ帰らせたが、ちゃんはこうして残って俺と行動を共にしている。




ちゃん、考え直さない?」


彼女はさっきから一言も発さなくなってしまった。人質に取られて罪の意識を感じているサクラのためにも、また、心配してくれたサスケやナルトの為にも帰りたいとは思う。

しかし実際問題、それは無理だろう。


100人の抜け忍相手に一人で基地に乗り込み、勝てるほど俺は強くない。殺されていない抜け忍ということは、追い忍や暗部を殺してきたと言うことで、その能力はお墨付きだ。死は免れない。


前を走るちゃんをみて、溜息をついた。




ちゃん、俺と一緒に死んでくれるつもり?」




何を言っても前を向きっぱなしだったちゃんが足を止め、振り返って俺と目を合わせた。そして、さっきの雑貨屋さんで買ったのだろうか、竹島山の地図を取り出した。



頂上へ辿り着くための道は二つしかなかった。断崖絶壁の崖を上るか、奴らが使っているだろう二つしかないトンネルを使うかだ。崖を上る方が一見安全な気もするが、見晴らしの良い崖で見つかったらその時点で瞬殺される。




「トンネルを使うしかなさそうだーね。裏側のトンネルから入るか」



、正面とっぴ!」



「・・・それは囮になるって言うこと?」




むっとして彼女を睨んだ。まともに目が合う。ちゃんの瞳が、兎面の下から唯一出していた彼女の瞳と重なる。忍びである事を第一と考えていた彼女なら、使えるものなら使えと言うのだろう。

同じ死ぬにしても一人でも多くの敵を殺め、里に貢献すべきだと言い放つのだろう。




忍びとしてちゃんが俺についてきたのであれば、頷く以外に何ができようか。





「・・・分かった。中央で落ち合おう。」










果たされるはずのない約束をした。






*****











月が雲に隠れた。


暗闇と静寂の中、梟の鳴き声だけが聞こえる、一体誰のためのレクイエムだろうか。



ポーチから大量の起爆札取り出し、手際よくクナイに付けていく。


敵が多い場合、一人倒す当たりに使うチャクラ量は最低限に留める必要があった。



敵の情報を鵜呑みにするほど、こちらも御人好しではない。




100人の抜け忍など、あの男の単なる脅しであるかもしれない。




希望的観測、楽観主義、大いに結構じゃないか。



生きる希望を見出すためには外の何よりも役立つ。


兵糧丸を口に含み、噛み砕く。





「死ぬつもりなんて、さらさらないわ。」







竹島山に地鳴りのような轟音が響く。




火蓋は切られた。







*****












何人倒しただろうか、50人程倒せていたら上出来だと思う。




果たして、あの男の言葉はハッタリでも脅しでもなく、事実であった。

つわもの揃いの烏合の衆が、こんな山の頂上に居着している等、誰が想像できただろう。


目の前に居る敵の首をクナイで切り落とす。

生暖かい返り血が勢いよく降り注がれるが、もう気にならなかった。


写輪眼の使いすぎで既に目も朦朧としていた。





「・・・中央で落ち合おう・・・か、よく言えたものだな」


自嘲の笑みが浮かぶ。



「父さん、・・・ちゃんはもう、そっちにいる?」





疲れは限界を超していた。



背後に敵の気配がする。




「俺も逝くよ」




刃が降りる音がし、ゆっくり眼を閉じた。








その瞬間、大きな爆発音が響いた。地面が割れ、足元はすくわれ、体を浮遊感が支配する。


俺は、咄嗟にクナイを振り回した。気づけば、背後に居た敵が肉の塊となっていた。



爆発音が響いたということはどちらの攻撃かは分からないが、侵入者が現れたということだ。




「まさか、・・・ちゃん?」



俺の瞳に光がさす。冷静さなど失っていた。彼女が生きている奇跡を純粋に喜んだ。



体全体からチャクラが溢れてくるのを感じ、周りに居る敵をなぎ倒し、彼女の元へ行こうと力を振り絞る。






「父さん、ちゃんを連れて行かないでくれ!」





彼女を守り、巻物を取り戻して共に生きて帰ろう。




俺は中央の扉を勢いよく開いた。













中央広場は真っ赤な血に染まっていた。火がパチパチ音を立てている。



瓦礫と死体の山の上で、佇む女が一人いた。



左腕には暗部印が施されており、


手には血に濡れたクナイを持ち、


口元には笑みを携えていた。





「な・・・んで・・・」




心臓が早鐘を打つ。


脂汗が背中に流れ、呼吸ができなくなった。




すぐ傍に敵の気配がして、尚、指一本動かすことが出来ない。




目に彼女の姿が焼きついて、それ以外の情報を得ることを拒否していた。




敵の大刀がふり降ろされた。




視界が赤く染まった。









「――――――――チンチクリン!!」








最後に聞いたのは、求め続けていた彼女の声だった。



Index ←Back Next→