火影室でカカシ班の下忍が座り込んでいると聞いて、何人かの上忍と特上が覗きに来ていた。
「おい、お前ら火影室に篭るなよ」
「アスマ先生ケチだぞーケチー」
とは、いえ、座り込んでから、三日が過ぎると、諌めずにはいられない。
「アンタたち何考えてんのよー。火影様に迷惑をかけるなー。」
そういうのは火影室を度々茶室代わりに使っているアンコ。
「アンコ、火影室で団子を食べるのはやめて欲しいのだがのう。」
呆れたように火影が言うと、ナルトが「怒られてやんのー」ニシシとアンコを指差して笑い、アンコにチョップされる。
「だって、カカシ先生とさんが帰ってきたら一番に報告に訪れるのはここでしょ。」
サクラが眉を八の字に曲げて、既に何回も説明した事情を繰り返し言う。
「カカシさんはともかく、さんは何故行ったのでしょうね。理解に苦しみます。コホ」
「さんはカカシ先生のことが好きなのよ。だから、心配して・・・」
「ゴホ、足手まといにしかならなさそうですがね。」
「あの時のあいつの目は本気だった。そういう言い方はやめろ」
「そうよ、サスケ君の言うとおりだわ!」
「・・・だが、ナルト、サクラ、期待はするな。もカカシも帰ってこないかもしれない」
サスケのその一言で、沈黙がその場を支配した。
その時、足音がした。
二人分の、
皆がよく知る気配だった。
全ての視線がドアに注がれる。
火影室のドアが二回叩かれて、開いた。
現れた二人の姿を見て皆表情を凍てつかせた。
*****
火影室の空気が重い。
先程から言葉を発しているのは任務の報告をしているカカシのみで、はその横で顔を伏せたままだ。
そもそも、二人ともよく立っていられるな。
カカシは全身返り血で服を黒ずませているし、自慢の銀色の髪の毛も固まった血が張り付いているのか鈍い光を放っている。
は順調に伸びていた筈の栗毛の髪がまた短くなっており毛並みもボサボサで、服は強姦に会った女のように乱れていて、体の所所に火傷を負っている。
って、中指が変な方向に曲がってないか?おいおい。
「報告より先に二人とも病院へ行ったほうがいいんじゃねーか」
カカシは俺を一瞥し、そのまま何もなかったかのように報告を続けた。っておい、無視かよ。
「私、医療班呼んできます。」
この場の空気に耐えられなくなったのか、サクラは確認も取らずに逃げるように火影室を出て行った。「サクラちゃん、ずるいってばよ。」と隣からナルトの呟きが聞こえた。
「ゴホ、アスマさん、化け物並みの体を持つカカシさんはともかく、さんが立っているのはおかしくないですか?」
ハヤテ、おかしいのはそれだけじゃねーだろ。全てだろーが、ガキ共が言っていた事が本当だとしたら、が生きている事実はもはや奇跡以外のなにものでもない。
報告が終ったのか、その場が静寂に包まれた。わけもなく緊張が走る。
「了解した。ご苦労であった。」
火影様のこの一声を合図に、空気が揺れ
次の瞬間、ドカァーと大きな音が部屋に響いた。
俺は目を疑った。アンコの、ひゅっと息を飲む音が聞こえた。
カカシが隣にいたを殴り飛ばしていたのだ。
ズザーと音を出してが火影室の真ん中から端まで飛ばされ、
壁に当たった衝撃で血を吐いていた。
止める暇なんかなかった。唖然とした。
ナルトもサスケも顔を真っ青にし、普段無表情なハヤテも目を丸くしている。
最初に非難の声を上げたのは女のアンコだった。
「な、カカシ!!このアマが気に食わないのは私もわかるけど、女に手を上げるなんて最低よ!!」
「大丈夫ですか!さん」
驚いて咳も出ない様子のハヤテがのもとへ駆けて行った。
「カカシ!お前気でも狂ったか、女の顔に拳で殴るっつーのはどういう了見だ。任務で何があったか知らねーが、あいつは下忍だぞ。手加減しろ!」
「・・・アスマ、黙ってて」
カカシの憂いを含んだ瞳を見て、俺は動けなくなった。
不穏なチャクラと殺気が漏れ、火影室を包む。
そのままに近づこうとすると、無口のサスケもさすがに黙っていなかった。
「おい、カカシ何考えてるんだ。を殺すつもりか!」
「サスケ、これは上司としての命令だ。下がっていろ。」
カカシに殺気を当てられ、サスケは動けなくなった。ナルトもただ震えることしかできずにいた。
一歩、一歩、に近づいていく。
蹲るを守るように立ちはだかったのは、ハヤテとアンコだった。
「カカシ、殺気を仕舞いなさいよ」
「カカシさん!落ち着いてください」
「どいて、アンコ、ハヤテ」
カカシは溜息を付くと印をくんだ、忍犬が現れアンコとハヤテを襲う。
これで、とカカシの間を隔てるものがなくなった。
緊迫した空気の中、がゆらりと起き上がり、血が混ざった唾を吐く。一緒にころりと一本の奥歯が落ちた。
は丁寧に袖で口を拭い、頭を軽く振り、
こっちを見た。
次の瞬間が見せた表情に俺は背筋を凍らせた。
ニイイと余裕の笑みを浮かべた女は、受付で毎日会っていた女とは全くの別人に思えた。
身の毛が弥立つのを感じた。
「ったく、馬鹿力め」
栗色の髪の毛をぞんざいに掻き揚げて、周りをぐるりと見回す。
その場にいた全員が息を飲んだ。
そのドスの聞いた声に
彼女から溢れ毀れるチャクラの量に
慄いた。
反射的に危険を察知した特上の二人は忍犬と一緒に後ずさりした。
サスケもナルトも先程よりも目を大きく見開いて、恐怖から足を震えさせている。
「お母様の庇護をうけたのがそんなに恥ずかしかったか?チンチクリン。」
「・・・成る程、息子扱いされる由縁は父さんにあった訳。・・・くそっ」
「反抗期かよ、そう目くじらを立てるな。」
「人の心弄んで楽しかったか?」
「おいおい、悪いのは私じゃないだろ?人の所為にするな。分からなかったのも、気づかなかったのも、チンチクリン、お前だ。」
この声や振る舞い、口調には覚えがある。あれは確か・・・
「『赤い目の兎』、ゴホ」
「ハヤテ、無事だったのか。」
「・・・ゴホ、足がすくんで動けません。」
「・・・。
アンコ、ガキ共を非難させろ。」
大蛇丸の部下だった為、剣呑な殺気に慣れているアンコは顔を蒼白にはさせていたものの、体はちゃんと動くようで、
両脇にナルトとサスケを抱え、ハヤテを背負って出て行った。
俺は当の二人に目を戻し、どう収拾つけるか考える。
火影様はさっさと退出してしまったのか、その姿は見当たらない。
その時、俺の目の前をクナイが横切った。髭の毛先が切れ、床に落ちる。
驚き二人の方を向く。
「ああ、そうだな。侘びを入れさせてもらおうか」
カカシの右手にチャクラが集まっていた。あれは千鳥か?!!
「ふんっ、生意気な」
の両手にチャクラが集まっている。あれは螺旋丸か!!?
全身からブワッと大量の汗が吹き出た。
「ま、待て、待て、待て、お前ら!!早まるな!!ここは――――――――」
俺が皆まで言い終わる前に
火影室は火の海になった。
*****
受付代理を火影様から頼まれた俺はなれない仕事に四苦八苦していた。
「イルカ先生、いつもこんなのやってるんすか?」
「いや、それはの仕事ですからね。あ、それは地下倉庫に持っていってください」
両手一杯に書類を持って立ち上がるとアンコのクナイと対面した。
「ゲンマ、アンタ知ってたんでしょ?何で黙ってたのよ!?」
「ああ?なんだアンコ」
「のことよ!まんまと騙されたわ!」
「ああ、今朝火影室見たが、あれは酷かったな。お前、よく助かったな」
昨日の火影室業火事件は里でも有名な話になっていた。
が伝説の『赤い目の兎』であったことは里中に広まった。
もともとそれを知っていた中年連中は、何を今更と沈黙を貫き、若い男たちは『赤い目の兎』と同衾しただのしなかっただので騒いだ。
子供たちは困惑していたり、奥が深いと感心していたり、その反応は色々で、しかし、今年のルーキーはその事実を知ると皆一様に口を開けたまま動けなくなったらしい。
そして、を虐めていたカカシファンの女共は顔を真っ青にして、今日任務に付いている。
態度を変えなかったのは同じ受付係のイルカぐらいだった。「やれば出来る子だろうと思ってました」と鼻の頭の傷を掻きながら言う姿に、器のでかさを見せ付けられた感じがした。
「キー!やっぱりいけ好かない!あの女!!」
「だって、ああして何人もの間者を見つけていたんだ。里には十分貢献していたし、非難されることじゃないだろ。」
「そういう問題じゃないのよ!あのアマにガツンと言ってやんなきゃ、私の気持ちが治まらないの!」
「今、アイツ病院にいるんだろ。言ってくれば?・・・その手の震えが治まったら。」
ギョッとしてアンコは手を袖の中に引っ込め、顔を真っ赤にさせた。
そして「誰にも言うんじゃないわよ」と口を尖らせ、小さく呟いた。
先程から痙攣しているアンコの手を不審に思っていたが、間違いない、の殺気に当てられたのだろう。
俺の親友は手加減と言うものを知らないらしい。