月明かりで目を覚ました。
丸い月が、閉め忘れられた窓から覗く。
窓脇で靡いている白いカーテンには見覚えがあった。病院だ。腕には点滴を打たれているのか、異物感がある。
起き上がろうと、体に力を入れるが、指一本動かすことが出来なかった。
「目、覚めた?」
目だけを右に動かす。包帯をぐるぐる巻かれている哀れなカカシがベッドで横になっていた。
「ねぇ、本名、教えてよ。」
カカシも首を動かすことが出来ないのか、顔を天井に向けたまま話し出した。
「俺の名前は、はたけカカシ。」
暗部を抜けたあの夜と同じ台詞だった。
「・・・、・・・」
息を吸って吐くと同時に名を告げた。涼しい風が窓から入る。
「・・・、か。やっと、聞けたね。長かった。本当に長い長い道のりだった」
カカシが心底うれしそうに私の名前を呼んだから、柄にもなく罪悪感を感じた。
「・・・悪かった」
カカシの銀髪を月が煌びやかに照らす。溜息を付きたくなるほど綺麗だった。
「・・・なぁ、俺は月にはなれないか?」
静寂の中、誰かの心臓の音が聞こえてくる。
「兎に相応しい月になりたい。が傍にいてくれるように。・・・俺じゃ駄目か?父さんの代わりにはなれない?」
私は銀髪から目を離し、窓の外で輝く月を見上げた。
「はたけ上忍師は憧れと尊敬の的だった。傍にいたいと熱望した。誰よりも愛していた,好きで好きで、たまらなかった。彼以上に愛せる人はいなかった」
深呼吸してから、一気に捲くし立てた。
「・・・」
情けないほど、かすれたカカシの声が耳に届いた。今にも泣きそうな、そんな声だった。
私は月から目を逸らし、カカシを一瞥した後、目を閉じた。
「でも、兎は月には、いない。
月にうつる兎の正体は『影』、所詮ウサギは地球上の生物。
月では生きていけない。
・・・カカシが月になれば、私は、また一人だ」
決着はとうの昔についていたのだ。知っていて気づかない振りをした。
「あー、やっぱり、月の役目は父さんに負ってもらーうよ。に似ている俺が月になれる筈もなーいしね。」
その言葉に酷く安心してしまったから
「ありがとう」
目を閉じたまま、呟くように言った。
「いーえ、俺の名前、初めてちゃんと呼んでもらっちゃったしね。」
名前を呼べば愛着がわいてしまうから、呼べなかった。それほど、心は彼に傾いていた。
はたけ上忍師以上に彼を愛してしまっていた。
心変わりしたのは、カカシじゃなくて、私の方。
普遍を望みながら、変化に抗えなかった。
「、知ってた?満ち欠けする月は『変化』の象徴なんだーよ?」
「知ってたよ。でも・・・私ははたけ上忍師を忘れていくのが怖かったから普遍を望んで・・・、それでも、無駄だった。変らないものなんて無かった」
「約束するよ。だけを見続ける事、想い続けること、一生愛し続けることを。」
「かわらずに?」
「いや、想いは年を経るごとに大きくなってくでしょーよ。」
キザな台詞が、酷く安っぽい台詞が、今は私の心を満たす。
はたけ上忍師、大好きでした。愛していました。その思いは決して忘れません―――――――
「・・・、愛している。」
その言葉を聞いて、目を開いた。
涙が枕を濡らした。
窓の外、
絶対的な光を放っていた月が、
柔らかく霞んで見えた。
長い初恋に終止符が打たれた
新しい愛が育まれていく
惹かれたのは偶然で、惹かれあったのは必然だった。
月の引力が、この二人を惹きつけたのであれば、それは・・・
やはり運命だったのだろう。