ヒソカの名前が本当に44号であることを知った私は、一度彼にどう名前を呼べば良いか聞いた。
彼は、あどけなさの残る顔で笑い、「ヒソカで良いよ。あゆが決めてくれた名前だし」と答えた。いやいや、待て。おかしいぞ。私はその名前を命名した覚えは断じてない。
私は、後悔していた。いや、現在進行形で猛烈に後悔している。
タイムトリップできるのであれば、過去に戻って、あのディナーショーもといマジックショーに参加しなかったことにしたい。
いや、ショー自体は素晴らしかった。ニコラは、私の期待を悪い意味で裏切らず、
ピエロの格好をしてマジックを披露していたが、どの手品も派手で大胆不敵で面白かった。ご飯だって、分厚いステーキが出てきて、食後のデザートにはコーヒーもついてきたし文句なしの待遇だった。
しかし、しかしだ。あれは、子供の教育に悪影響を及ぼしたかもしれない。
私の目の前でクスクス不気味な笑い声をあげながら、
マジックの練習をしているヒソカを見た時はさすがの私も背筋が凍った。
HUNTER×HUNTERの世界で、例えゾルディックが存在しようとも、幻影旅団が存在しようとも、
まあ、一般市民の私とは関係ないだろうが、一番遭遇率が高そうな変態ピエロが存在するのは非常に困る。
「ヒソカ」みたいなキャラクターは一般市民にとっては脅威だ。一つ一つの行動に理由がないから怖いし、危険。彼に少しでも似ている男が現れたら、私はダッシュで逃げると心に決めている。
勿論、私の目の前にいるヒソカは「ヒソカ」ではないが、何せ同じ名前にしてしまったため、少しでも原作ヒソカと似た行動を取られると過敏に反応してしまう。
クスクス笑いながらトランプを増やしたり、消したり、その手さばきは大したものだが、素直に喜べないのは原作ヒソカのせいだ。
「ひ、ヒソカ?その笑い方、どうしたの?」
ちょっと、どもってしまったかもしれない、顔も引き攣っているかも知れないが、ヒソカにその行為をやめさせなければ、私のHPが減る。精神的疲労が溜まる。頑張れ私。
今までヒソカが遊んでいたトランプが床にパラパラと落ち、彼は私を見上げた。
「はアイツが好きなの?」
「え?アイツって?」
「ピエロだよ。金髪の男」
「ああ、ニコラ。え、いや、格好良いとは思うけど、たぶん彼ゲイだし、私に興味ないとおもうし」
あ、あれ、ちょっとこの答え方はやばくね?これじゃ、まるで
「やっぱり好きなんだ?」
そうだよね。うん、さっきの言葉じゃ、そう受け取るよね。顔に熱が集まるのを感じた。
「、顔真っ赤だよ」
ヒソカの不機嫌そうな声が聞こえて、手を頬の横に置く。
「あ、あー、そうそう、サランラップ切れてたんだ。私、ちょっと買い物行ってくるね」
ヒソカの冷たい視線を背中に浴びながら、財布も持たずに玄関を出て行く私は、大人失格だと思う。
熱を冷ますためだけに、結構遠くまで来てしまった私は、慌てて街中を走っていた。
なんとしても夕食の時間に間に合わせないと、格好がつかない。ヒソカだって私のちみっちい羞恥心のせいで、お腹をすかしたくないだろう。
近道にと、普段使わない薄暗い路地裏を通って走っていた。
水溜りに足を踏み入れたのだろうか、パシャンと音がする。
しかし、此処最近雨なんか降っていなかった筈で、私は首を傾げて足元を見た。
赤い液体が、地面を覆っていた。
急に嗅覚がさえてきたのか、濃厚な鉄の臭いがつんと鼻を刺激する。辺りを見渡すと人が何人か倒れていた。
「きゃああああああ!!!!」
こんなに叫んだのは何年ぶりだろう。
高校の学園祭以来かもしれない、そんなことを考え現実逃避を試みながらも、
目の前に広がる光景が変化することは無い。
自分の震えている手は本物だし、鼻を突く悪臭も本物だ。
死体を見るのも、血を大量に見るのも初めてで、幸いにも頭が真っ白になることはなかったが同じくらい混乱はしていた。
慌ていたため、足を滑らせ転び、バッシャンという音がして、顔を青くする。
最悪だ。急いで立ち上がったが、既に服が血を吸い込んだ後で、ずっしりおもくなっている。
視界に黒い人形のようなものを捉えて眼を向けると、そこにはヒソカと同じくらいの子供が横たわっていた。
きっと、このマフィアの乱闘(勝手にが今そう決めた)に巻き込まれたに違いない。
息があるのを確かめてから、急いで背中に乗せて私はまた走り始めた。
「誰それ」
開口一番、ヒソカが発した言葉はそれだった。
血濡れの私の姿よりも赤の他人を心配するなんてさすがヒソカ、優しい子ね・・・。
なんて思いながら、男の子をソファの上に寝かせ、血をふき取り応急処置を済ませ、着替えさせる。ヒソカの服を出した時は、本人からの苦情はあったが、サイズはぴったりで、うん、感無量。
「サランラップ買いに行ったんじゃなかったの?」
「うん。帰る途中で、マフィアの乱闘に巻き込まれたらしい子にあってね。 それで、サランラップは残念なことに落としてしまったんだよ。うん」
「財布が無かったのによく買えたね」
「・・・」
「それより、どうするの?」
「そうだね。怪我の具合がよくなるまでは面倒をみてあげようと思ってる。
親御さんが見つかれば引き取ってもらうし」
「じゃあ、早く電話かけなよ」
「え?」
「ポケットに名刺入ってた」
ヒソカが投げてきた名刺を両手で受け取った。
端っこが、血で黒ずんで入るが読めないことはないだろう。怪我をしている彼自身の名刺だとは思わないが、関係者であることは間違いない。慣れない文字を目で追った
「い る み ぞ る で く?」
ヒソカが眉を顰めて名刺を奪うように私の手から取ると、確認させるように大きな声を出した。
「イルミ=ゾルディック」