「彼はクローン人間なのよ」
「は?」
ヒソカの家の近くにある喫茶店で私はニコラの驕りで昼食をとっていた。
ヒソカは今、健康診断を受けている。
両家の息子だから、健康管理も怠らないのだろうという私の仮定はニコラによって一蹴りされた。
ヒソカと暮らし始めてから、3ヶ月がたったというのに親は一度も彼の前に姿を見せていない。ヒソカの家庭環境はどうなっているんだ、そう問いただしたら冒頭の言葉が返ってきた。
「資産家の病弱な息子のドナーに成るために作られた子よ。
いずれ、彼の臓器の一部、・・・心臓が移植されるわ」
そりゃクローン人間は最高のドナーだろうが、人を助けるために人を作るなんて禁止されている、筈だ。
そもそも、心臓移植自体、日本では禁止されている。
アメリカでは可能だが、それでも故人の心臓を使うのであって生きている健康な子供のを抉り出すことは無い。あ、ここはHUNTER×HUNTERの世界だから日本国憲法もアメリカ合衆国憲法も関係ないのか。
「聞いてませんよ。そんなこと」
「言ってないからね」
スパゲッティをフォークに絡めながら、淡々と言うニコラに怒りを覚えるが、
確認しなかった自分もいけないのだと自制する。この世界がどんな世界か、私は知っていた筈だ。
フランス革命も無ければ、人権宣言もない。弱肉強食の世界だ。
彼だって臓器売買という闇市に生きる人間なのだ。
予想くらいは出来た筈で、それをしなかったのは、私の怠慢と甘えである。
「でも彼はこのことを知ってるわ」
「・・・そんな、酷すぎる」
自分の口から、そんな陳腐な言葉が出てきた時、吐き気がした。胃の中にあるぺペロンチーノが逆流しそうだ。ヒソカは、なるほど、知っていただろう。振り返ってみれば、彼の言動にはそんなことを匂わせるものがあった。
それを無視していたのは、他の誰でもなく、この私だ。
他人を非難できる立場ではない。
ニコラは蒼白した私の顔を見て、心配してくれたのだろうか、店員に水を頼んでいた。
「彼はなんていってました?」
「ふーん、だって」
つまり、ヒソカは無反応だったわけだ。でも、きっと、口に出さないだけで傷ついたに違いない。
道具のように作られた自分を虚しいと感じないわけが無い。
彼にとっての最大の悲劇は、それを感じてあげる大人がいなかったことだ。店員に運ばれてきたコップを握った。
「子供だからと言って彼を甘く見ちゃダメよ。あの子、私たち側の人間だから」
「え?」
「変な気は起こさないでね。あの子を助けるということは、
もう一人の子を殺すことに繋がるのよ」
嫌な汗が背中を流れ、変な緊張から手に力が入った。
手がひやりとして慌ててコップから手を離す。
「ん?ああ、・・・強化系なんだ」
「?」
ニコラの視線を追って、自分が掴んでいたコップに目を向ける。
「・・・水が溢れてる」
「愚直って感じだモンね。あ、そうだ。はい、これ。頑張ってるちゃんにご褒美」
ニコラは、ジーパンのポケットから招待状らしき紙を二枚取り出すと、語尾にハートマークを付けてにっこり笑った。
この間は白衣を着ていた為、中性的な顔立ちが女言葉によって女と彼を見せたらしめたが、
Tシャツ半そでにジーパンとラフな格好をしている今日は、筋肉質な肌がさらされているせいか、ちゃんと男に見えた。
プラティナブランドの髪は一つに結わえられ、雑誌から飛び出てきたように、文句の付け所が無いくらいに格好良かった。
オネエ言葉さえなければ、食指が動いていたかもしれない
・・・と考える私は最低だろうか?あ、最低ですか。すみません。
とにかく、ニコラから暴言が飛んできたことは聞かなかったことにして、
私はその紙を素直に受け取った。
ディナーショーの隣に副題が書いてあり、眉を顰める。
「奇術師ニコラ?」
「そう、私がマジックやるの。あの子の分もあるから一緒に見に来てね」
この時、原作のヒソカを思い出して、全力で遠慮させてもらいたいと思ったが、
娯楽が少ないこの世界でこういうイベントを逃すのは惜しいと思い、
私は結局首を縦に振ったのであった。
苦い現実が、冷たい水と一緒に溢れ出た日。