有為転変

15 / 百家争鳴



ヒソカは修行に明け暮れる毎日を送り、段々筋肉がついてきたことがわかったが、 成長期の男の子が筋肉を付けると背が伸びないと言うことを保健の授業で習ったのを思い出し、 ニコラには注意を促した。

外に出るため肌は日に焼け、運動量に比例して食べる量が増えたため血色が良くなり、彼は出会った時よりも健康的な体になっていた。 私の不安は杞憂に終ったようにみえた。








夕食の食材を買い終わると、時間は5時を過ぎていた。小雨が降っていたが、傘を差すほどでもないと判断したのがいけなかった。

雨は次第に激しさを増し、結局私は近くの雑貨店でビニール傘を買う破目になったのだ。 今日はニコラに食事を振る舞う約束をしていたので、私は肉屋でひき肉を買うと急いで帰った。



玄関の鍵を開けると、ニコラはもう既にいるようで、黒いシンプルな傘が置いてあった。その横にフリフリの金色のレースがあしらわれた真っ赤な傘がおいてあり、眉を顰める。


「まさか、女を連れ込んだ・・・」


大学生の時付き合っていた恋人の浮気現場をふいに思い出して呟いてみたが、まあ、それはないだろう。

彼はゲイだ。


変な風に納得して、赤い傘の持ち主を考えてみるが、全く心当たりはなかった。
研究所の人だろうかと、考えて表情が曇る。

重い足取りでリビングルームに行くと甲高い声が聞こえてきて、私は誰が訪問してきたのか瞬時に悟った。




「まー、素晴らしいわ!ニコラさんの念能力程、価値のあるものを私存じ上げませんわ!」



オーホホホホという効果音付きで高々と笑っているのはキキョウさんだ。 つばの大きい帽子は生憎の天気で本来の役目は果たせなさそうだったが、 彼女の存在感を際立たせるに十分の働きをしていた。



「あら、さん。こんにちは。」


「キキョウさん。御無沙汰しております」



キキョウさんは、相変わらず綺麗で、気品溢れる母親だった。彼女の腕の中で、ミルキ君が気持ちよさそうに眠っている。



さん、御存知でした?ニコラさんの念能力」


「はあ」


「ふふふ、御存知ないようね」



ニコラと目を合わせると、彼は肩を竦めて苦笑した。



「オーホホホホホ!彼は不死身なんですのよ!」


なんでも、ニコラの念能力は「イエスの復活」というもので、条件はニコラがこの念能力しか使えなくなることと、 10年間の眠りにつくこと、自分の一番愛する人にしか使えないことらしい。

ニコラの場合、ナルシストのため、自分に適用されるらしい。


どうよそれ。


てか、そんなの、ばらしてもいいの? 念能力って他人にベラベラしゃべって良いものなの? あー、そうか、どうせ殺されても、念能力で生き返られるから関係ないのか。 って、不死身?最強じゃない。良いの?そんな能力がまかり通って良いの?





いやいや、そんなことよりも、問題はあれだ。キキョウさんだ。 なんで貴方がここにいらっしゃるんですか?




「えっと、キキョウさん?あのー」


「あ、そうだったわ!さん、今日は此処に泊めて下さらない?」


「え」


「私、家出してきましたの」


「ええええええええ!?」


「あの人の浮気に気づきましたの!」


「浮気!シルバさんが!」


「ええ、聞いてくださる?」


「は、はい。そんなまさか彼が浮気をするタイプだとは思いませんでした」



「人は見かけによらないものなのよ。さん」


私はニコラをチラリと見た後、強く頷いた。



「で、何があったんですか?」


「あの人、女性の香水の匂いをつけて帰ってくるんですの。以前はそんなことはありませんでしたわ。  シルバは私に飽きてしまったのかしら。」


「そ、そんなことありませんよ。漫画でも、仲睦まじい夫婦でしたし、そんな悲観なさらないで下さい」


あ、やべ。とちょっと思ったが、キキョウさんは泣くのに忙しいらしく人の話を聞いていないようだった。 キキョウさんは、腕の中で眠っているミルキを一睨みして、はき捨てるように言った。



「私、ミルキは私の子じゃないと思いますの。  寝ている間に卵巣に人工授精を施した卵子を入れられた可能性もありますわ。きっと私は代理母なんですわ」


「えええええええ!?」



まじで!?ウッソー?!そんな裏設定があったの?奥が深いな少年ジャンプ!


首も据わっていないのに、彼をブンブン揺さぶるキキョウさんから彼を奪うように抱いた。ミルキ君はまだ一才だ、そんな子供に当たっても仕方が無いだろう。そう偉そうにいえるのは第三者だからだろう。



「あの、落ち着いてください。まだ、そうと決まったわけではないんですから。」


DNA鑑定をして、確認したらどうですかとは、進言しなかった。事実は時に残酷だから。



「ということは、キキョウさんはシルバさんが2年前からお付き合いされていたと考えるんですね?」




「分かりませんわ!そんなのもっと前かもしれませんし・・・。  最近になってやっと尾をつかめた所ですの!私は絶対にどこの馬の骨かも知れない女に負けませんわ!」



「尾・・・というと?証拠でも?」



「ええ!シルバが、若い女とゾルディック家御用達の宝石店「あんてぃーく」に入っていく所を、 御義父様がご覧になったそうよ!」



「え?あ、あの。すみません。その女の人の特徴って分かります?」


「着物を着た女ですって!」


「あ、あのそれ、きっと」



私です。と言おうとしたその時だった。玄関の方から複数の足音が聞こえてきて、振り返る。 修行を終えたヒソカとイルミ、そして、シルバさんがいた。



、すまないな。キキョウ、親父から大体のことは聞いた。帰るぞ」


「嫌!貴方がどこの誰と宝石店に行ったのか言ってくださらない限り、私はここから動きませんわ!」


「キキョウ」


「浮気相手を庇うおつもりなの?電話でも確かめましたのよ! 私達の結婚指輪を買った、あの宝石店『あんてぃーく』で指輪をかったそうじゃありませんの!あんまりですわ!」



「いや、あのキキョウさん?あのですね」




その女は、キキョウさんとの10年目の結婚記念日にプレゼントする指輪を選んでいただけですよ。

と、言おうとした時だった。ヒソカが首をかしげて爆弾発言をした。




「『アンティーク』の指輪?が、この間、おじさんに買ってもらったヤツだよね?」



ヒーーーーーーーソーーーーーーーーカーーーーーーー!!!!!





このタイミングで言う?普通!!!
私を慕っている我が侭を言わない良い子と思っていたけど、実は違ったの? 実は虎視眈々と、煩わしい世話係私を追い出す機会を狙っていたの?






ひゅるるるるるる。室内の筈なのに、何故だろう。 ものすっごい、冷たい風がキキョウさんと私の間を駆け抜けた気がする。

沈黙が辺りを支配し、その場にいる全員の視線が突き刺さる。黒くて長い髪の間から、キキョウさんが顔を覗かせ、目をギョロリと私に向けた。



さん?本当?」


「あ、あの、指輪は確かに頂きました。けれど」


それはキキョウさんの指輪を選んであげたお礼にもらったのであって、 間違ってもシルバさんと愛人関係だったからじゃない。



「まあ、まあ、まあ!!!ああ!!なんてこと!!!!!」



耳を塞ぎたくなるような金切り声に、ヒソカが顔をしかめたのが分かった。



「あ、あの」


「良いの。さん。私、薄々気づいてましたの。 先日お会いしたばかりにしては、シルバやゾルディック家のことをよく理解してらしたし、  我が家の食事の毒にも気づいてらした。更に毒への免疫。それを考え合わせると辻褄が合いますの。  貴方がシルバの愛人だってこと、私確信しておりましたの!!!」



ちょっ、あれ、やっぱり、毒入りだったの?

ってか、キキョウさーん!

妄想の世界から帰ってきて下さい。

辻褄あいませんからね!

しかも、最後の台詞ウソでしょ!






「キキョウさん!誤解です!」



「じゃあ、どうしてミルキを私から奪ったの!?」



いやいや、さっきあのままだったらミルキ君、死んでたでしょっ!!!



「ミルキは、本当は貴方の子供なんでしょう?分かっているのよ!」



違います!貴方は分かっていません!DNA鑑定プリーズ!!!



「シルバさん!」


助けを求めるようにシルバを見るが、当事者のくせに我関せずとニコラとおしゃべりを楽しんでいた。


キキョウさんは私を見て、ボロボロと泣き出した。




さん!私、信じておりましたわ!!!」



「キキョウさん、泣かないで下さい。私は、シルバさんとは」









「シルバが選んだ愛人ならば、とても強い方だと!


 私はとてもうれしいわ!!!!

 
 さんがシルバの愛人で!これからも、あの人をよろしくお願いしますわ!!!」








いやいや・・・、えええええええええええ!!!!

いやいや、おかしいでしょ?何この流れ。誰か、突っ込みいれてよ! 何コレ。私、シルバさんの愛人に祭り上げられているんだけど!








助けをもとめて、私はイルミを見た。

彼ならきっと分かってくれるはずだ。

彼はシルバさんと私が最近出会ったばかりだということも、付き合いが浅いということも全て知っている。



って親父の愛人だったの?」


・・・泣きたい。








次に最後の砦と、縋るようにヒソカに目を向けた。彼なら、分かる筈だ。 毎日家事に明け暮れる私がシルバさんと付き合えるはずがないことを証明してくれる筈だ。


ヒソカは泣きそうな顔をして、私を見た。







、子持ちだったの?」















絶望した日。


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