その日は、本当についていない一日だった。
ヒソカのトランプ依存の激しいことを心配し、
とりあえず、ヒソカにトランプ以外のオモチャを買ってあげようと町のオモチャ屋を巡ってブラブラ歩いていたら、その途中、金髪のかわいらしい男の子に目を奪われ、私は一瞬立ち止まった。
それが、いけなかったのかもしれない。
男の子は私を見るとにっこり、天使のように可愛い笑顔で笑いかけてくれたので、ちょっと気が緩んだのだ。
次の瞬間に腰に衝撃を受け、気づけばパソコンと財布が奪われていた。
此方に来てから結構立つのに、にはこういう事がしばしばある。しっかりしているようで、どこか抜けているから、ヒソカも彼女を心配せずにはいられないことになる。
すられたことに気づき、犯人を追いかけようとむやみ走ってみたが、
そんなことで犯人が見つかるはずはなく、最終的に交番を訪ねた。
しかし、此方の世界の警官は「税金泥棒」と言っても過言ではないくらい働かないことを思い出し、
はパソコンと財布がもう二度と戻らないことを悟った。
仕方ないから帰ろうとしたは、交番の地図を見て呆然とした。
玩具屋巡りと犯人追跡で思ったより遠くに来てしまったようで、家には3時間ほど歩かなければいけないことを知る。
一旦、落ち着いてみると、他にも色々気づいた。
まず、異臭がすること。町が廃れていること。住民の服装が明らかに貧民層のものだということ。交番から出てみると、東の方角に高く聳え立つゴミの山が見えた。
そう、流星街のすぐ傍だった。
こっちの世界にやってきた時に、持ってこれたキャリーバックを思い出し、
彼女は、そのキャリーバックを回収しに流星街に足を向けた。ただの気まぐれだった。
辺り一面がゴミの山で、この中からキャリーバックを探すのは至難の業だが、彼女は一度思い立ったらやりきるまで諦めないタイプだったため、あやふやな記憶を手繰り寄せ、
似たような景色を見ては瓦礫をどかして、穴を掘るという単純作業を繰り返した。
似たような景色と言っても、流星街の景色はどこもかしこも変わらない。埋めたばかりであれば、土が軟らかかったりするのだが、いかんせん、時間がたっているため、
どの土も似たり寄ったり、それでもは作業をやめなかった。
と、いうのも、珍しくもとの世界を思い出したことで、寂しさと切なさが思い返されたからだ。
彼女は一般家庭に生まれて、両親こそはいなかったが、
多くの人間に愛され、多くの人間を愛し、何不自由ない生活を送っていた。
友達だって、恋人だっていた。
築いてきた人間関係、地位が、たったの一日でなくなったとき、
普通の人間ならば酷く悲しみ泣き叫ぶ所であろうが、彼女は此方の世界に来てから、そこまで落ち込むことが無かった。
は大学も就職も第一志望で通り、仕事も人生も順風満帆だった。
人生で挫折を味わったことのないには日本に帰れるという自信があった。
ヒソカの世話で忙しい日々を送っていたこともあり、元の世界に関して深く考えることが無かったのだ。
しかし、流星街に来て、友人や恋人のことの事を思い出し、感情的になってしまったのであった。
太陽が地平線に沈むころ、彼女はキャリーバックを見つけることができた。
ほっとしたのも束の間、彼女はゴミの山のふもとに、蹲っているポニーテールをした女の子を見つけ
は安否を確認しようとして慌てて駆け寄った。
「あの、だ、大丈夫ですか!?」
が少女の肩に手を置いた瞬間、少女が振り返りに馬乗りになった。
「!」
地面に叩きつけられ喉元に刃物を当てられただが、いかんせん反応が鈍いため状況把握にも数秒を要した。
しかしが驚いている間に、少女はばったりとそのまま倒れこんできた。
「は?・・・え?・・・?」
少女を改めてみると彼女の顔は真っ赤に腫れていて、その額には大粒の汗が浮いていた。
一目見て、リンゴ病だとわかった。
昔、リンゴ病を患いながらも学校に登校してきた友人の顔とソックリだったのだ。
「!?」
りんご病は大した病気ではないが、発熱を起こしているようなら病院へ行った方が良いと思い、背負おうとしたが、今度は噛み付かれた。
流星街の子供たちは警戒心が強いのは、分かっていた。
は溜息を付き、目の前の息を荒くしている少女を見た。
キャリーバックに入っていたミネラルウォーター(消費期限5年の高品質のもの)と、
熱を抑える薬を取り出し、少女に飲むように薦めたが、彼女が首を縦に振ることは無かった。
この時、は酷く悲しく思ったのだ。人に頼ることを知らない子供。大人に助けられたことの無い子供。疑うことしか知らない子供。
そんな子供たちがこの街には溢れている。強い憤りとやるせなさを感じた。
そんなことを考えていると少女と目が合った。
その目には、敵意がはっきりと表れていて、さながら警戒して毛を逆なでる猫のようだった。
恐怖の色も微かながら垣間見えた。
はペットボトルの蓋を開け、薬と水を含み、少女の口にそれを押し込んだ。
驚いた少女は顔を真っ赤にして暴れだし、の舌を噛み抵抗したが、が噛んでも口を離さないため、
苦味と共に、鉄の味が口に広がり、それに怯えて次第に動かなくなっていった。
少女が嚥下するのをみてから、は口を離した。
少女はを睨み付け、はそれに対して力なく笑った。
「大丈夫、明日には熱がおさまっていると思うよ。
本当は病院行った方が楽なんだけどね・・・。今日は暖かくして寝てた方が良いわ」
は着物を脱ぐと少女にかけた。これ以上は何も出来ることはないだろう。
自分がいては、彼女の気は休まらない、そう思いはそのまま流星街を後にした。
キャリーバックをガラガラ引いて、家にたどり着いたのは、夜中の12時過ぎ。
家の外で待っていたヒソカを見て、慌てた。
ヒソカも泥だらけになっている私の姿を見て驚き、慌てた。
そして、その後、事情を詳しく話したら不機嫌になっていった。あー、子供は難しい。
「ヒソカ、あっとゴメンね。ちょっと、道に迷ってたんだ。あー、えーと」
ポケットから、おもちゃ屋で買ったヨーヨーを取り出そうとしたが、
中から出て来たのは、最近子供たちに人気なアニメのシールが入ったお菓子箱だけだった。
「あれ?おかしいな」
流星街に落としてきたのだろうと、思い当たり、は顔を青くした。
「ごめん。お土産落としてきちゃった。」
「良いよ」
「ヒソカ、本当にゴメンね。そう怒らないで。」
「怒ってないよ」
「いやいや、眉つりあがってるから!」
ムスッとした顔でこちらを見てくるヒソカは可愛いが、彼は怒ると物に当たるため、このまま明日まで機嫌が悪かったら確実にヒソカの部屋の家具は粉々になる。
掃除や家具を買い換えるなどの面倒を考えると、うん。今、徹底的に謝って、ご機嫌を取った方が良いのだ。
「明日もう一度買ってくるから、ね?機嫌直してね」
「ボクは、さえいれば他に何もいらないよ。」
「え?」
「心配したんだ。が、急にいなくなって、帰ってこないかもしれないって思って」
「・・・ヒソカ」
「どこにも行かないで。ずっとボクの傍にいて」
は目頭と鼻が熱くなり涙が出そうになった。
今までの人生で、これほど人に求められたことがあっただろうか。
いや、ない。
はこのヒソカの言葉に感動し、ヒソカに抱きついた。ああ、なんて可愛い子なのだろう。
なんて愛おしい。こんなに素直で、優しい子他に見たこと無いわ!(親馬鹿)
ヒソカの頭をクシャリと撫で、額と目元に軽くキスをした。
「勿論よ。私はずっとヒソカの傍にいる。世界で一番愛してるんだから。」
ちょっと、やり過ぎたか、少しばかり言い過ぎたかと思ったが、
まあ、子供に対しては簡単な言葉で少しくらい大げさに言うくらいが丁度良いだろう。そう思った。
自分の発言に責任を持たない大人は後で痛い目を見る。彼女は後々それをその身をもって知ることになる。