気づけば、此処に来てからもう6年が経っていた。
ヒソカはもう14歳になって、背は私と同じくらいになった。
私は・・・、三十路一歩手前まで来ていた。
外見に表れないから意識していなかったけれど、その事実にちょっとショックを受ける。
「。これって、どう使うの?」
白いレースをあしらった純白のテーブルクロスに小さな手が乗っかる。
7歳になったばかりのミルキ君は好奇心旺盛で何にでも興味を持つ。私の飲みかけのコーヒーカップに手を突っ込んだり、スプーンを投げつけたり、パソコンを壊したり、
・・・多感なお年頃のようだ。
週に一回、ゾルディック家でお茶を飲むと言う習慣が、自然とできてしまい、
子供に修行と言う名の虐待をしているキキョウとは度々口論になったりもした。
「どうせ、私の子じゃありませんし!」なんて、6年前の誤解を未だに引きずっている彼女ははっきり言ってウザイ。
まあ、そんな感じで週一だけだけど、ミルキ君の世話をするようになったら懐かれた。因みにキルア君が生まれたらしいけど、こちらには合わせてもらえなかった。
なんでも、大事な跡継ぎを殺されたら困るそうで、・・・たまに私は彼女にどんな評価をされているのだろうと考えさせられる。
私たちの間の大きな変化と言えば呼び名だろう。
私はキキョウやシルバのことを呼び捨てにするようになっていた。親しくなったと言えば聞こえは良いが、これは単に私の恐怖心が和らいだためだと思う。
いつもは、ヒソカとイルミ君が修行しているのだが、土砂降りの雨のため屋外での修行ができず、今日は久々に一緒にお茶をとっていた。
激しい雨音とテレビから流れるニュースキャスターの声だけが、その場には響いていた。いや、実際にはミルキ君が癇癪を起こして、叫んでいたし、キキョウがヒソカを絶賛していたし、
シルバが意味もなく笑っていて騒がしかった。
が、私はテレビ画面に釘付けだった。
『最近巷で有名になっているC級首の盗賊集団、『幻影旅団』が、
昨夜ヨークシンのオークションに現れ、現場にいた人間を皆殺し逃走した模様です。盗まれたものは・・・』
「幻影旅団」
唇が震えたのが分かった。
「物騒な世の中になったものだな」
恐怖からか思考回路が上手く働かず、そういうシルバを見て頷いたが、すぐに正気に戻り頭を横に振った。
いやいや、貴方の家業も十分物騒だから!
でも、これは、あれだよね。やっぱり、あの原作キャラたちだろうな。実際に、いるんだね。なんか、実感わかないな。
確かにゾルディック家の人たちは原作キャラだけど、主人公たちにも会っていなければ原作にもまだ入ってないし。
漫画の中にいるって、実感が全く沸かない。
「皆殺しにするなんて、非効率的。馬鹿の象徴」
イルミ君が抑揚をつけずに放った言葉に、キキョウは大きく頷いた。
「オーホホホホホホホホ。そうですわ!所詮C級犯罪者!」
「こいつらが狙っているのは曰く付きの物が多いらしい、いずれターゲットがかぶる可能性があるだろう。 ・・・その時は消すか」
シルバが、ブラウン管に冷ややかな目を向け、ポツリと呟いてから紅茶を啜った。
はそんな彼らを見て不安になった。
「シルバ、油断しない方が良いと思う。旅団のリーダー格の男は、特殊系で人の念能力を盗むから」
こんなこと言わなくても、彼らが上手くやっていく事を知っているのにもかかわらず、気づけば、「原作知識」を口走っていた。
私は、この時には既にゾルディック家の人たちが好きになってしまっていた。
あまり好ましくない傾向だとは思った。彼らはあまりにも多くの人を殺してきた。それは償いきれるものではない・・・と私は思う。
彼らが助かれば、また多くの犠牲者が出るのだ。ゾルディック家の繁栄は世の中にとって良いものではない。
「知り合いか?」
でも、善悪の意識よりもよりも自身の感情の方が、行動や言動を左右する要因となりやすいのが人間だ。
「漫画で読んだの」
私は彼らを好きになってしまった。もう、どうしようもなかった。
怪訝そうに私を見るシルバとキキョウに、満面の笑みを向けた。
テーブルを囲む子供たちは我関せずと、各々自分の作業に勤しんでいる。私が焼いたクッキーを頬張るミルキ君、黙々とトランプタワーを作るヒソカ、無表情で紅茶をかき混ぜるイルミ君
イルミ君とヒソカにはずいぶん前にもう本当のことを言っていた。
私が異世界から来たこと。
私の世界ではこの世界が漫画でえがかれていて、この世界の未来を断片的に知っていること。
そして、その漫画にはゾルディック家が出てくること。
「信じなくても良いけど、旅団のリーダー格は弱くないと、頭の片隅に入れておくことをお勧めするわ」
窓の外を見た。雨はまだ止まない。
たまに思うんだ。原作と下手に関わったら、ヒソカまで巻き込まれてしまう可能性があるんじゃないか、とか。ゾルディック家に助言をすることが、原作を変えることに繋がるんじゃないか、とか。
殺し屋とつきあっている自分が、善人ぶってはいけないのではないか。とか
でも、楽観的な自分は結局、「なんとかなるだろう」と考えてしまう。
此処に来て、もうずいぶん経った。元の世界に帰れなくても良いと思う自分がいた。