有為転変

25 / 一心不乱


その日は、が死んで10回目の命日だった。今日も赤いカーネーションが添えられている。朝一で備えられたのだろうか。その花の贈り主を見たものはいなかった。






ゾルディック家の朝は早い。鶏が目覚める前から、コーヒーの香りが漂い始める。 その年、イルミは24歳、ミルキは16歳、カルトは9歳を迎えた。


ミルキとカルトの間にはもう二人兄弟がいるのだが、一人は行方不明で、一人はつい先日母親を刺して家出した。月がまだくっきりとその姿を見せる時間帯、カルトは起き、着物の着付けをしていた。面倒極まりないこの服も慣れてくれば、そう苦にはならない。


ガラス窓に映る自分の姿を確認して、朝食を取るため廊下に出た。ドアを開ける際、ゴツと物が当たり、裏側に目を向ければ痛さの為か、殺虫剤をかけた後のゴキブリのように悶えているミルキがいた。






「ったぁあ。カルト、テメッ、ぶっ殺す」



「めずらしいですね。ミルキお兄様が部屋から出られるなんて」



「・・・、ああ、まあな」




いつものように癇癪を起こすかと思っていたが、ミルキはカルトの言葉を聞くと、 目を見開いて苦虫を潰したような顔をした。



長い螺旋階段を降りていきリビングに着くと、いつもは何も置いていないミルキの席に朝食が置いてあり、ミルキはその席に躊躇せずに座った。



カルトは先に席に着いていた両親と兄であるイルミに朝の挨拶を述べると自分も席に着いた。





「もう一年経ったのか」




新聞を読んでいた父親がミルキを見て呟いた一言で、ミルキが一年に一度は朝食を取りに降りてくることを思い出した。

そして、その後、家の裏側にある墓石に花を添えるのだ。カルトはテーブルクロスの白さと同じくらい白いミルクに手を伸ばし、家族の会話に耳を傾ける。




「今年もヒソカが一番乗りだったようだな。今朝方、墓石に寄ったら既に花が添えてあった」




「まあ、シルバったら?!私に隠れてさんの元に通ってらしたの!?」




はゾルディック家の敷地の中に墓を作った(作られた?)女性で、お父様の愛人だったらしい。ミルキお兄様の母親でもあり、たまに食卓の話題に登る人だった。

一般人らしいけれど、僕の家族に与えた影響は強く、僕自身着物を着させられているのは彼女のせいだった。お父様はお母様の叫び声を無視して、そのままイルミお兄様に声をかけた。



「イルミ、キルがハンター試験を受けるらしい。ついでだから、連れ戻せ」


「うん。分かった」



イルミお兄様は両親の前では従順な犬で、世間で言う所のイエスマンだった。 もしかしたら、NOという言葉を知らないのかもしれない。

会話を聞きながら、カルトは今朝取れたばかりの新鮮なサラダをフォークで刺して、口に運んだ。




「心配することはありませんわ!キルもハンター証も、  イルミの手にかかれば簡単に手に入りますわ!おーほほほほほほほ」



「ヒソカがいるから、サドンデスになれば勝てるか分からないよ」



「ほう、ヒソカがいるのか」


「うん」





ヒソカという男は、イルミお兄様曰く「客」で、ミルキお兄様曰く「気違い」らしい。


ミルキお兄様は、もう10年ほど彼にあっていないらしいけれど、インターネット上の情報から、時々ヒソカの噂を聞く(見る?)らしい。

そこから得た情報に基づいて、ミルキお兄様は彼を禄でもない人間と評した。 殺し屋が禄でもない人間と評する人間とは一体どんな者なのか。 興味が沸いて一度だけヒソカについて訪ねてみたことがあった。

ミルキお兄様が酷く面倒臭そうに、それでも何か義務のようにしぶしぶと話し始めたのを覚えている。

お兄様は、ヒソカという少年の人生と、彼を世話した女性の最期と、 青年となった少年の数え切れないほどの犯罪歴をぽつぽつと話して言った。

そして、最後にこう呟いた。




「狂ってる」



なんか、いつになく真剣に話すミルキお兄様は、いつも以上にキモかった(失礼)





でも、僕は分かった様な気がした。ヒソカはきっと強くなりたかったんだろう。「」を守れるくらい。それで、彼女を守れるくらい十分強くなったんだ。でも、その時初めて気が付いたんだろうね。

守るべき彼女はもういないことに。

でも、それをきっと認めたくないから、彼は強くなる努力を未だしているのだろう。 まだ強くなっていないと感じていれば、彼は彼女のために強くなる努力をし、生きていける。 そうやって、彼はこれからも過ごしていくのだろう。

そうして、そのうち目的なんか忘れて、人を殺すだけの愉快犯になっていくのだろう。





「カルトちゃん?」





キキョウの声を聞き、カルトははっと意識を戻し、キキョウの方へ顔を向けた。「顔色が悪いわ」と言われて、銀皿に映る自分を見てみる。確かに青白い顔をしていた。周りを見ると、未だ朝食を取っているのは自分だけであり、他の家族は仕事に出たらしい。



「お母様、僕も仕事に行きます」


「ええ、頑張ってね」



ゾルディック家にとって顔色が悪くとも、仕事に出るのは当然のこと。それで死んだとしても仕方ないことだった。カルトは、自室に戻ると必要なものを持って、仕事に出かけた。










仕事から戻るころには、辺りは暗く、満月の月明かりのみが道を照らしていた。
森の奥深くにある家までは、着くまでに少々時間がかかるが、こんな月の綺麗な日にはそんな距離も気にならない。

鬱蒼とした森を抜けると、今朝話題になった人の墓石があった。石には「」と記されており、墓石の前には、赤いカーネーション、両親が送ったであろう白いバラ、イルミお兄様が添えたであろうライラック、ミルキが置いたであろうクレマチスが鬩ぎあって、その存在を強く主張していた。







満月が僕を狂わせたのかもしれない。人を殺した後で、興奮していたのかもしれない。家族の愛を受けている彼女が憎らしかったのかもしれない。



気づけば、墓を荒らしていた。 墓石は倒され、土は掘り返され、花は周り飛び散り、無残な光景が広がっていた。肩で息をする自分は、まるで何者かに乗っ取られたように無心になって土を掘っていた。黒い棺桶が姿を現すころには僕の服は見るに耐えないものとなっていた。





僕は汚れた手で棺桶の蓋の鍵を壊した。カランと、音をたてて蓋がコンクリートの上に落ちた。


中を覗こうとして息が止まった。



「!?」



真っ黒い二つの目がこちらを見ていたのである。そして、中にいた人間はその口を大きく開けた。





「きゃあああああああああああ」








それはこっちの台詞だ















有為転変

  









赤いカーネーション:真実の愛
白い薔薇:誠実・尊敬
ライラック:初恋・若き日の思い出
クレマチス:あなたの心は正しく美しい


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