有為転変

03 / 羊頭狗肉





男の子は逃げてしまったと説明すれば、男は一瞬悔しそうな顔をしたが、すぐに優しそうな表情に戻した。





手当てのためと連れて行かれたのはトラックの中。 トラックいっぱいに詰め込まれたのは、医療品だけじゃなかった。流星街の子供たち、比較的健康そうな、血色の良い子供たちがたくさんいた。 飢餓と貧困を救うプロジェクトの相応しい対象者はと、もっと他にいるはずで、 そうではない健康な人間を選んでトラックに乗せているということは、あの男の子の言う通りなのだろう。




私も、一応成人しているし、世の中が不条理に溢れていることぐらいは知っている。
でも、それを仕方が無いと言い切るほど年を食ってもいなかった。 何より救えないのは、子供たちを助けるどころか、自分の身を守る術すら知らない状況にあることだ。他人の事にかまっていられる余裕はない、なんて、ことは言いたくない、が、何も出来ないのは明らかだ。 は大きく溜息をついた。


黒いスーツを着た男たちの中に、白衣を着た者が混ざっており、そのコントラストが気味悪かった。 その中に一際目立った風貌をした女性に目を奪われた。 輝くプラティナブロンドは天使の輪を描いており、彼女が歩くたび、揺れるて光が零れ落ちているようで、神秘的。白衣の天使とは、将に彼女のために用意された言葉だと感心し、 溜息を付きたくなるようなその美しさに見ほれていると、目が合った。




「貴方が、ケインの連れてきた子ね。名前は?」



ケインとは、私を此処まで連れてきた男の名前だろう。
私は曖昧に頷いた。



です。が名前です」



「そう、私は二コラ。皆からはニックって呼ばれてるわ。」




私は上から下に舐めるように見る二コラを見て、首を傾げた。


あれ、二コラってさ。あれ、私の勘違いじゃなければ、ってか、

漫画の世界の名前に常識を求めちゃいけないのかもしれないけどさ。
あのさ、二コラって、男の名前じゃね?





「貴方は此処の人間じゃぁ、なさそうね。何が目的でここに来たの?」




「ボランティアってことは無いですね。無償で働くのは、定年後と決めているんです。 此処に来た目的は、特に無いんですが、強いて言えば、トリップですかね。 ってか、ぶっちゃけトリップです」



「旅行にしては荷物が少ないようだけど、もしかしなくても盗まれたの?」


はい、トリップについてのツッコミありませんでしたー(まあ、当然?)

が目を泳がしていると、肯定と受け取ったようで、ニコラは呆れたように肩をすくめた。




「貴方職業は?お金はあるの?これから、どうするの?」



「無職、無一文、無計画です。すみません」


「・・・ま、丁度良いわ。うちでバイトしてみない?」




これが、本題だったようで、ニコラは人差し指を上げて強調して言った。
は、勢い良く首を横に振った。三日間ゴミの町にいただけあって、
が動くと埃が舞った。その埃を見てか、が否定したのを見てか、ニコラは顔を顰めた。
それから、ポケットからタバコを取り出し、に向けて一本差し出した。
が手を横に振ると、ニコラは馴れた手つきでタバコを加えて火を付けた。
紫煙が車内に広がる。




「あの仕事は、男たちの仕事。貴方にやってもらいたいのは、ある子供の世話。 正直、悪くない話よ。貴方は一人の男の子の面倒を一定期間見るだけで、旅費を稼ぐことができるんだから」



「私じゃなくても」



「世話係が皆死んだのよ」



「ぱーどん、みー?それのどこが悪くない話なんですか?! 呪いですか?!世話係全滅とかありえないですよね?私には荷が重いと思います! 無理です!ダメです!イヤです!」





「貴方、念能力者でしょ?大丈夫よ」




は目を見開いたが、ニコラは気づかなかったらしい。 右手に持っていた書類を出すと、にサインをしろと強要し、 は戸籍もない自分のサインに何の意味も無いだろうと考え、その場凌ぎにサインした。




逃げろと、心が叫ぶが、脳がそれを拒否する。念能力について、ちゃんと話を聞きたかったし、此処から逃げて流星街を歩き回っても何も得るものもないと考えたからだ。





それに、黒スーツの男たちは信用できないけれど、 目の前にいる女性を信用することができると思ったのだ。勘だった。 ニコラの瞳には嘘がない。この人は信用できる人間だ。そう思った。






ニコラは、のサインを確認すると、後ろにいた黒スーツの男に声をかけた。




「ケイン、が世話係を受けてくれるって!良かったわね。」



世界中の誰もが見ほれてしまうようなニコラの笑顔を見たケインは、 顔を赤く染めるが、同時に眉間に深い皺をつくった。



「ニック、その言葉遣いはやめてくれ!」



「何よ」



ケインとニコラが睨み合うけれど、何がなんだか分からない。 ケインがサングラスを取って、真面目な顔してをを見た。





「君、って言うんだっけ?」





「あ、はい」




「コイツ、こんな形(なり)してるけど、男だから」




「は・・・?」










勘に頼るのはやめよう、
人を外見で判断するのはやめよう、そう、決意した日。











羊頭狗肉:見かけや宣伝が立派で中身が伴っていない


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