有為転変

04 / 一期一会

冷静になってみて、思ったことがある。ここがHUNTER×HUNTERの世界だという確証はどこにもないのだと言うこと。 異世界なのは分かった。日本語を話すくせに、彼らの使っている文字は私の知らないものだったし、 話を聞いてみると歴史が違ったり、地図を見せてもらっても地形が違ったりした。 試しに、幻影旅団について尋ねてみたが、誰一人としてその犯罪組織を知る者はいなかった。

流星街という地名だけで、念能力という能力だけで、ここがHUNTER×HUNTERの、つまり漫画の世界だと安易に決め付けるのは良くないと言う結論にたどり着く。



トラックに揺られて半日が経ち、南の空にあった太陽は西の地平線に沈んでいるところだった。 流星街の近場にある研究所で、子供たちだけは降ろされ、トラックは例の少年の所に向っている。ケインもニコラも話してみれば意外と話の通じる人たちで、むしろ私よりも常識人ではないだろうかというくらい普通だった。

彼らは流星街出身者だったらしい。 外は、身分証も何も無い人間が生きていくのは土台無理な社会で、彼らは犯罪に手を染めるしかなかった。 善悪とか、好き嫌いとか、そんなことを考える暇なんかなかく、生きるのに必死で、 物心つく前には立派な犯罪者になっていた。そう、ニコラは笑っていう。







私は、何をいえば良いのか分からなかった。 正義を振りかざして非難することも、同情することも、何もできなかった。

ただ、溢れそうになる涙を必死に押さえた。













案内されたのは、意外にも普通の一軒家で、想像していたベルバラに出てくるような城でも屋敷でもなかった。 車から出るように促されて足を地面に付ける。 中心街から離れているためか、周りは人間の手が加わっておらず木で囲まれている。
ニコラが運転席から降りてきて、袋から何やら取り出して私に渡す。




「はい、鍵と通帳と携帯。通帳には毎月25日付で銀行に100万ジェニーが入るはずだから確認して。  携帯は何かあったら電話して」



「あ、あの通帳って?」



「言ってなかったっけ?貴方には、男の子と一緒にこの家で暮らしてもらうから、  そのための通帳。ま、子供が生きてさえいれば良いから、自分用に使ってもかまわないわよ?」



「はぁ。あの、二人だけですか?親御さんはいないんですか?」



「いるわよ。だから、金が入ってくんでしょ?じゃ、私もう帰るから」



「え?中に入って、相手の男の子に私を紹介して下さいよ。私メチャクチャ不審者じゃないですか」



「私、子供アレルギーなの。見るだけでブツブツできるから無理なの。ゴメンね」



「いや、そんな明らかな嘘をつかれても・・・」



「ケイン、車出して。、がんばってね」



ニコラは車に乗りながらにウィンクを投げかけ、ケインは右手を軽く上げた。

ブロロロと音を出して遠ざかる車を見ながら溜息をつく、青い空と穏やかな風だけが今は私の味方だ。





ドアは鍵がかかっていなかった。

眉を顰めてドアノブを回すと、すぐ目の前に男の子が立っていた。 そりゃ、自分の家の前で騒がれてたら気になって見に来るよね、と思いながら、眉間の皺を解いて、にっこり笑う。



「こんにちわ。私、今日から世話係をやることになった。よろしくね」



少しウェーブがかかった燃えるような赤い髪、それがとても生える陶器のような白い顔。これは将来有望だぞ、とちょっとミーハーなことを考えてしまったのは仕方の無いことだろう。 それだけ、彼の顔は整っていた。年齢は、流星街にいた男の子と同じくらいだと思う。



「因みにが名前ね。えっと、僕のお名前は?」



「44号」



「・・・」







あれ、これって、ドラゴンボールのトリップだった? なんか、いたよね。人造人間13号とか、14号とか。 うん、クリリンが人造人間と結婚した時はビックリしたけど、子供作った時はもっとビックリしたよね。 あの時は、人造人間の内部にちゃんと子宮を作ってた博士に感動したよ。やっぱ、そういう誰も見ていない細部に渡るところまで丁寧に仕事するって良いよね。
プロって格好良いよね。うん。





「で、本当のお名前は?」





凄い目で睨まれた。





なんか、今まで雇われていた家政婦が皆死んだ理由が分かった気がする。 あれだ。きっと心臓麻痺だ。


これは、デスノートばりの威力があると思います(感想)



「本当だよ」



「よし、分かった。あくまで教える気がないのね。  番号で呼ぶのは近所のおばさんたちに虐待で訴えられそうだし。私が名前を適当に付けるわ。」


このくらいの子供たちは、新参者に敏感だ。
自分の名前を教え無いのも警戒心ゆえだろう。
はそう決め付けて、しゃがみ男の子の目線に合わせた。 しかし、男の子のお遊びに付き合って、「44号」なんて呼んだら、最後、良くて近所のおばさんに訴えられるか、最悪雇われぬしである親御さんに怒られる。



「名前ねー。主人公に絢かってゴンとか、どうよ?」



「主人公?」


「そう、ハンターハンターって漫画の主人公。一人の純粋無垢な男の子がハンターになって  お父さんを探しに行くって物語で、その主人公がゴンっていうの!  これがもう食べちゃいたいくらい、かわいいのよ!」



「強いの?」



「まあ、たぶん。でも、強いキャラって言ったらヒソカだけどね」


「ヒソカって強いの?」



「規格外って感じでね。あ、レオリオとか、どう?これまた結構良い青年でね。  医者を目指してハンター試験を受け「ヒソカが良い」



「え?」



「名前」



「・・・」




子育ては、本人の自主性を尊重することが大切です。
否定の言葉を安易に使わないように心がけましょう。
妥協できる範囲であれば、肯定してあげましょう。
そんな言葉が、脳内を飛び交う。



「ひ、ヒソカ?」


「何、?」


「いや、今のは名前を呼んだんじゃなくて。その、やっぱ、ゴンにしない?  その名前縁起悪いし(失礼)」



「もう決めたから」



「・・・」








早く仲良くなって、彼の本名を教えてもらおう。

そう、思った。



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