有為転変

37 /海千山千


彼自身は奇抜な外見をしているが、使っている部屋やその他用品は至って標準的なものだった。 話術が巧みな彼と話が途切れることはないし、普通に楽しめた。

最近、思うんだ。「正気か!?自分」・・・って。








天空闘技場の最上階に住んでいた私たちだったが、子供である私は目が付けられやすく、同時に「ヒソカの連れ」という人間に見られるため襲われやすかったので、ピエロは私の為に闘技場近くのこれまた豪華なホテルの一室を借りてくれた。


ホテルは、パソコンを借りることができ、また図書館もあって私の暇を潰すのには持って来いの場所だった。 そして、一番良いところは、ピエロが始終近くにいないことだった。きっと、彼は闘技場で今ゴン君たちとの遣り取りで忙しいのだろう。




あれ、でも、時間軸としては主人公はまだゾルディック家かな?ハンター試験から1ヶ月半しか経ってないし、ルキア奪還編真っ最中だ。

あ、間違った。キルア奪還か。ややこしいよ、ジャンプ。









地下の図書館で、IT関連の本を何冊か借りて、ホテル内に設置されているカフェテリアに向う。



この間、ヒソカから逃亡しようとホテルの外に出たらガードマンに拳銃を突きつけられた。なんでも、この辺は治安が良くないので女の子一人での外出は控えてくれ、とのことだった。

お前こそ、初対面の人間に拳銃を突きつけるのは控えてくれ。つーか、このホテル内が一番、治安が悪いんだよっ!

と、怒鳴りつけたかったが、ちょっと強面なガードマンだったので、その忠告に対して私は礼儀正しくお礼を述べた。







日当たりの良い場所を探しながら、席に付く前に店員に声をかけてコーヒーを注文した。まだ店内は空いているので、2人用のテーブルを失敬した。


クラシック音楽が流れる店内は、静かな時間を過ごせる空間で、その中で飲むコーヒーは絶品だった。

10年前よりも進歩しているITの知識を頭に入れながら、パソコンを操作し、 HUNTER×HUNTERの世界のITのレベルを図るが、意外と元の世界よりもそのレベルは低いように思えた。 おいおい、こんなレベルの中で「グリードアイランド」なんて誰が作れたんだよ。って感じだ。




にとって、このようにカフェで思考にふけることの出来る時間は至福の一時だったが。最近、彼女にはもう一つ新たな楽しみができた。それは「窓辺の君」を見ることである。




「いらっしゃいませ」



カランカランと、高級ホテル内に設置されるには相応しくないレトロな鐘の音が鳴り、
は扉の方にパソコン越しに目を向ける。

すらりとした長身の青年が、とは少し離れた席に着き、店員にブラックコーヒーとプリンを頼んだ。
店員の女性は顔を赤らめ、何度も頷くと、なにやら慌てた様子で紙に注文を書き留める。 彼女は書きこむ文字は「コーヒー」「プリン」だけだが、その様子は首相の漢字の間違いを必死にチェックしている新聞記者の姿と重なった。



そう、「窓際の君」は所謂美青年だった。


艶やかな黒髪を携え、健康的な白さを強調する肌は人々の目をひきつけて止まない。黒いズボンに白いYシャツと質素ななりだが、シャツの第一ボタンは外れており、妙な色気がある。 すらっとした長い足を組んで本を片手に、コーヒーカップに口をつける。そのしなやかな動きに、目が奪われる。


太陽の光が射す窓際では、彼の黒い目を縁取る長い睫が、彼の頬に影を落とした。
全てが美しく、何か芸術のようで、ただただ惹かれた。そして、やや童顔ともいえる彼の容姿は、女性の母性本能をくすぐった。



そう、は、青年に恋をしたのだった。
は、「窓際の君」を、心の中で「ハンス」と命名した。「若きウェルテルの悩み」に出てくる才色兼備の美少年の名前を勝手に拝借し「ハンス」と呼んだ。心の中で。

多少、気持ち悪いな自分と思わなくも無かったが、恋は盲目。




まあ、恋とは言っても、所詮の恋愛感覚だ。ニコラに対しても淡い恋心というものを抱いていたし、多少顔が良ければすぐに相手に惚れるのだ。 というか、ハンスの場合は特に、彼の顔がのストライクゾーンど真ん中だったことが理由だろう。


「何あのイケメン。やっべ。メチャクチャタイプなんだけど」的なノリである。

更に、ニコラの時と違って彼はゲイではない。
心を寄せる相手としては申し分ない人物であった。








勿論、自身がこのような姿をしていて、叶う筈もない恋だが、
密かに慕うことくらいは許されるだろうと思い、こうしてたまにカフェテリアに訪れる彼を眺めるのだった。






の視線に彼が応えることなどなかった。 何故なら、彼は常に人の注目を浴びていて、害のない子供の視線など構うこともなかったのである。彼は、時折ポニーテールのかわいい女性と話をしていたが、はそれに対して、
悔しいなどと言うお門違いいな感情を抱くことは無かった。


それはそうだ。彼女は、外見では分からないが、相当な年をいっていたし、外見上は年端もいかない少女だ。悔しがる以前の問題で、彼女は土俵にも上れないのだ。





久しぶりに抱いた感情に胸がざわめくが、ぐっと堪えて、読みかけの本のページを捲る。 恋に現を抜かしている暇があるんだったら、ヒソカを探す手段を考えた方が良い。

パソコンをいじりながら、コーヒーに解けきらない程の砂糖を入れ、少し口に含んだ。

「・・・甘」





本を一冊読み終わった時には、ハンスはいなくなっていた。少し残念な気持ちになって視線を落とすと、彼のいたテーブルの下に赤い宝石のついた指輪が転がっていることに気付いてパソコンを閉じ、本と一緒にカバンに入れて、重い腰をあげた。


床に落ちていながらも、異様な存在感を持つその指輪を見て、はやや顔をしかめた。




「忘れ物かな」




人差し指と親指で摘むように拾い上げ、少し眺めてからハンカチを取り出し、その上に落とす。後ろから、聞こえてきたカランカランという鐘の音に、とっさにポケットにそれを仕舞った。そして何事も無いように振り返る。


今は午後4時、ピエロのお迎えの時間帯だった。






「やあ、元気にしていたかい?」



「今朝、あったばかりでしょ」




は、日に日にヒソカに対しての扱いがぞんざいになっていった。 それはゾルディック家と交流を持った時と同じで、恐怖心や嫌悪感が薄れていったという面が多い。

意外と彼は、常識人だったし、変な言葉遣いもやめてくれた。 これで、化粧までも落としたら、私が彼を「原作のヒソカ」と認識できなくなるくらい彼のキャラは完全に壊れる。

ただの通行人Aだ。



彼が気まぐれを起こして、自分を殺す可能性はあるだろうが、その緊張感や危機感がなくなった。それはピエロが自発的に作り出した雰囲気なのかもしれないし、ただ単に私が鈍くなってきたのかもしれない。死んでも良いわけではないが、ヒソカが少なからず生きていることを確認できた私はある程度満足していたし、


ぶっちゃけ、今更昔の世話係から謝罪や感謝の言葉を聞いても、ヒソカにとっては迷惑なだけではないかとも思うようになってきた。




要するに、気分的に、会う必要なくね。ってな気分になってきたのだ。意外と私は気まぐれだ。

ハンター試験を受けていた時は、よく分からない使命感に突き動かされて絶対会いたいと思っていた。 ハンター試験にはいなかったし、ヨークシンは危険だとも伝えられたし、もう十分じゃね?みたいな空気が自分の中にある。




今、自分の存在がたとえ消されてしまっても、には後悔は残らなかった。守りたい者は守ったし、やりたいことはしたし、思い残すことは無い。そんな意識が、彼女のヒソカに対する態度には表れていた。




「人の感情は流動性に優れているからね。気分だって変わるだろう?」



「本を読んでいただけよ。気分はそう変わらないわ」




としては、彼の「構って構って」という雰囲気が結構面倒でウザイのである。 甘えたがりといえば、聞こえは良いが、良い大人にこれをやられると骨が折れる。
が持っていたカバンを、ヒソカが持ち上げ視線を窓のほうに向けた。




「・・・最近、窓際にいる男にご執心らしいじゃないか」



は、ぎょっとして、ヒソカを見上げた。ヒソカはが座っていた席に座り、にもう一つの椅子に座るよう促した。



「店員の女の子に聞いたんだよ。あ、何か飲むかい?」


は首を横に振った。ピエロは彼女がほとんど口にしなかったコーヒーを見て、眉を顰めた。

もその顔を見て、眉間に皺を寄せてみた。




「で、相手の名前は知っているのかい?」



「・・・ハンス?」



「ふーん」


ヒソカはもともと切れ長の目を更に細めて、目の前にあるコーヒーカップを手に持った。





「新しいの頼むことをお勧めするけど」


「別に冷たくても構わないよ」





そういいながら、黒い液体を飲み干す。

ヒソカの口元から、じゃりという音が聞こえて、は溜息をついた。





「お水頼もうか?」




「・・・」







予期せぬ甘味

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