有為転変

40 /神出鬼没


クロロはヨークシンまで車を飛ばすと、適当な所でマチを降ろし、自分はヨークシンの町外れで行われているオークションに参加するため、ホテルの駐車場に車をとめると小走りで繁華街に出た。



規模が小さいため宣伝費もかけていない。マニアによる、マニアのための、マニアのオークションだから、人も少ない。



けれど、掘り出し物は多く、しかもライバルが少ないため比較的安値で買えるのが、そのオークションの売りだった。







クロロは、その主催者とも仲が良く、今日も時間通り参加する予定だったのが、ヒソカが遅刻したため、1時間ほど会場に付くのが遅れた。



オークションの途中参加はマナー違反だ。夜の世界は意外とルールにうるさい。





暗い裏地路を通って、蔦が蔓延った赤い屋根の家を見つけると、クロロは胸ポケットからメモ帳を取り出し住所を確認した。





「クロロ=ルシルフル様でしょうか?」





音も立てずにドアから出てきた小太りの男に対し、クロロは小さく頷いた。


「少し遅れたが、入場可能か?」



小太りの男は俯いてゆっくりと首を横に振り、謝罪を述べた。




「途中入場は禁止されております。 しかしながら、いつもご贔屓にして下さっているクロロ様に、是非ご覧頂きたいものがあるのです。どうぞ、中へ」 


家の中に入ると、男はクロロを奥の部屋に案内し、本棚にある一冊の本を人差し指で軽く押すと、床に現れた1メートルの正方形の穴の中に入っていった。
地下に続いている隠し扉なのは分かるが、あまりにも陳腐なその構造にクロロは小さく溜息をついた。



クロロの溜息に気付いた男は、彼がオークションに参加できなかったことを残念に思っているのだと勘違いして、言葉を紡いだ。



「今日のオークションは、クロロ様の興味の範疇外だと思われますゆえ、そんなに気を落とされることはないと思います」



「つまり?」


「本日の催しは人身売買が中心となっております」


「・・・なるほど」




暗い螺旋階段を下りていくと赤い扉に突き当たり、ギギィと手入れの行き届いていない扉が嫌な音を立てる。ろうそくに火を灯し、小太りの男はクロロに向けて一礼すると、その場を後にした。






代わりに、真っ赤なドレスを着たグラマスな赤毛の女が部屋に入ってきて、クロロにワイングラスを渡す。闇のオークションの主催者には相応しくないほど、美しいその女性をクロロも気に入っていた。マチやパクノダにはない華やかさを持っていて、しかも自分に好意を抱いている。

悪い気はしない。



「貴方が遅刻するとは、珍しいわね。女かしら?」



「いや、男だ」



女が顔を引き攣らせて半歩引くが、クロロは特に気にせずに話を続けた。




「地下まで、連れてきたんだ。勿論俺の興味の範疇内のものを見せてくれるんだろう?」


グロスが塗られて、ろうそくの揺れに合わせてテラテラ光る唇を食むように、クロロは女に口付けした。


「ええ、勿論」



互いの唇がゆっくり離れると、女がくすくすと笑いながら、クロロのグラスに白ワインを注いだ。そして、左手の項をクロロの目の前に持っていき、ぱっと開いて見せた。




その薬指には、彼女の真っ赤な爪をも霞ませるほど自己主張の激しい青い指輪があった。



「貴方が持っている『とけあう指輪』と対になっているものよ」



クロロは、手をポケットに手を入れたが、底にあるはずの赤い指輪がなくて、眉を吊り上げる。



「どうしたの?うれしくないの?」



女がすねるようにして、口を突き出してくるが、クロロは一気にテンションが下がっていた。どこに落としたかなんて、すぐに分かる。あのホテルだ。さもなければ、車の中か



「ホテルに指輪を忘れた。一旦、戻る」



失くした、といわない所がクロロであった。自分は頭が良いとか、強いだとか、思っていたりする分、他人から阿呆だと思われるのは、癪に障る。



「クロロ、これはね。売り物じゃないの」


クロロが眉間に皺を寄せると、女は彼の額にある包帯に優しく触れキスをした。それから、目、頬、鼻、顎に唇を落としていき、最後に彼の唇にキスをする。

そして、自分の薬指に嵌めていた指輪を外し、彼の小指に通した。




「私からのプレゼントよ。受けとってくれるかしら?」


一瞬、何を言われたのかわからなかったクロロも彼女の潤んだ目を見て、唇の端を歪めた。


「勿論だ」


そのまま、近場のホテルへと向おうと彼女の腰を抱いて、家を出た。






その時、家から窓ガラスが割れた音がし、悲鳴とものが倒れる音が続いて聞こえてきた。闇市では、売るほうも買うほうも全うな人間でないため、こういうことが、よくある。女は気にせずクロロに先を促した。

薄暗い裏地路も、月明かりに照らされていれば、なかなか良く見える。腕に蛇のように絡まっている女を時折煩わしく思うこともあるが、月の明かりの下では誰かと一緒にいたくなる。光は人に孤独を与える。そう、クロロは思っていた。





「待てー!!」


耳を劈くような声が聞こえて振り返ると、先ほどクロロを家の中に引き入れた小太りの男がお腹をゆさゆさと揺らしながら、クロロたちのほうに向って走ってきていた。

その視線を追うと、10歳前後の少女が走っていて、クロロは目を剥く。



気配は無かったはずだ。



少女はクロロと目があうと、目を輝かせて、そのまま速度をあげ彼の胸に抱きついた。



「助けてください!!お願いします!」




オークションに似合わないシャツとジーパンを着ていたクロロを一般人だと勘違いしたのだろうか。彼女は必死にクロロにしがみついて、懇願した。





「どうか、私を買ってください!今なら、もれなくパソコンも付いてきます!」


少女はボサボサになった黒髪を振り回して、パソコンをクロロの前に突き出し叫んだ。クロロは口を半開きにし、パソコンと、少女を交互に見る。

そして、最後に少女の瞳をじっと見つめた。


黒い髪、黒い目、扁平な顔、ボロボロの服、そして、彼女のわき腹に流れる血。



自然と彼女の腰に手が伸びた。が、血はついていない。


記憶と現実が混ざって、混乱していることが自分にも分かったが、クロロは冷静でいられなかった。高鳴る胸の鼓動を押さえつけて、口を開く。






「それは」


「バカヤロウ!!なんて失礼な真似を!」




クロロの言葉を遮って、小太りの男が慌てて少女の首根っこを持ち上げ怒鳴った。少女のパソコンを取り上げて、ゴミ箱に捨てるとクロロに謝罪を述べた。








が、目の前に差し出されたキャッシュカードを見て驚く。




















「お買い得だな」



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