「ヨークシンでオークションがあるということは、えーと、だから、今、シズクとゴンが腕相撲しているのかな。んで、その後、キメラアント編に入るんだっけ?あれGI編が先だっけ?うわ、もう全然覚えてないや」
絵日記を付けながら、独り言を呟いている女は、ゾルディック家の使用人だ。
ゾルディック家の一番東に位置する部屋にその女の部屋はあった。中央に近づくほど位の高い家政婦と執事がいるゾルディックの屋敷の造りから見れば、彼女は下っ端の下。底辺に位置するまだまだ見習いの家政婦だった。それでも、ここに勤めてから9年目になる。
伝統あるゾルディック家の屋敷では10年に1度新しい使用人を雇うのだが、その際には厳選なる身元調査と体力試験、筆記に実務試験があり、それに受かるには努力と才能と運が必要だった。
そして、女には並外れた「運」があった。風俗店で働いている時、シルバに会い見初められて試験免除で雇われたのだった。が、その顔がに似ていることから、キキョウには嫌われ、昇進できないで今日に至った。
「ヒソカ、メッチャ久しぶりっ!」
黒目、黒髪に、扁平な顔を持ち合わせたその女は、ヒソカのつきあっている女たちのうちの一人だった。
イルミに会うときは大体彼女を通して、やり取りを行う。ヒソカはが死んだ時以来、ゾルディック家に対して、特にシルバに対して憎悪と嫌悪感を抱いているから、
彼らに会わず、イルミのみに会える部屋をイルミに用意させた。その部屋にいたのが、彼女だった。
ヒソカが彼女を自分の女にするのは時間の問題だった。彼女はあまりにもに似ていたのだ。
象牙色の肌や髪型、そして老けない体。
スッピンになった時、に全く似ていない女になったから驚いた。彼女いわく尊敬する先輩の顔に似るようにメイクしているから、そうなってしまったらしい。
ヒソカが、自分の前では常に化粧しておいてくれと頼むと、彼女はヒソカに彼女の前では化粧をしないよう強要した。
彼は勿論快諾した。
ヒソカは、酷いマザコンだった。そして、女は酷い面食いだった。
「やあ★久しぶり、」
「いや、何度も言ってるけどアタシ美由紀だからねっ!恋人の名前間違えるなんて超失礼」
香水を首元と手首にかけてから、ヒソカの首に抱きつく。ヒソカは、その手を優しく払った。
「あれれ、今日はまた超不機嫌だね」
「イルミは?」
「イルミぼっちゃんは、もう少ししたらいらっしゃるんじゃないかな」
「9年もここにいて、敬語が板につかないのはある種才能だね★」
「棘棘だね。ヒソカ。せっかく、『』さんが蘇ったのに」
「・・・イルミから、聞いたの?」
「うん、用なしのアタシは今まで以上に殺されやすくなったから気をつけてね、だって」
「へえ」
「ヒソカの恋人はイルミぼっちゃんが知っている限りで8人。 『』さんが現れてから昨日までに、6人に超不幸な事故が訪れちゃってるんだよね。 だから、アタシのこと超心配してるみたい・・・。ウフ」
本当に心配しているのであれば、ヒソカと二人きりの場を設けないと思うが、ヒソカはあえて指摘しなかった。
どちらかというとヒソカは「ボケ」属性だ。彼にはツッコミの才能はない。
「ね、ね、これもイルミぼっちゃんから聞いたんだけど、私以外の彼女たちにも『』って呼んでいたって本当?」
「皆、どこかしら彼女に似ていたからね★」
「マジ?うわっ、超キモイね!ってか、マジ変態だねっ!」
「前々から思ってたけど、君、結構失礼だよね★」
「ごめん。アタシ、ヒソカと違って、バリ正直者だから。で、殺すの?」
ヒソカが首を傾げると、女は続けて言った。
「アタシよ。アタシ!『』が現れたから、女遊びが後ろめたくなっちゃったんだよね? で、ばれないうちに証拠処分したいんだよね?」
「さぁ、なんとなく殺しただけだよ★」
「えー、無意識?無意識なの?ヒソカっち、超かわいー!かわ」
ゴトと鈍い音と共に、女が真後ろに倒れると、その後ろからイルミが顔を出した。
「彼女、うるさくない?たまに無性に殺したくなるんだけど」
無表情でそんなことを言うイルミに、ヒソカは肩をすくめ、口を弧に描いた。しかし、イルミが掴んでいる紐に結ばれている小太りの男を見て、イルミと同じ表情を浮かべる。イルミが小太りの男の口に付けていたガムテープを無遠慮に外すと、男は目じりに涙を浮かべて痛みを訴えた。
「火災時、ホテル近くでボランティア団体を装って、迷子や身寄りのない子供を集めていた組織の幹部だよ」
イルミの話を聞いて、ヒソカは片眉をピクリと上げた。
「主催者は?」
「つい最近死んだらしいよ」
「ふーん。で、その子供たちは?」
イルミとヒソカに睨まれた男は首と額に大量の汗を流しながら、懸命に話し出した。質問に迅速かつ正確に答えなければ、殺されるのは目に見えていた。
「お、オークションで、お売りしましたが、 も、もし、ゾルディック家の方が気に入られたお子様がいらっしゃいましたら、 すぐに買い戻させて頂きます。あの、ジャケットの内ポケットを」
イルミが男の懐を探ると、縦20センチ横15センチ程のノートが出てきた。ページを開くと、何枚もの子供の写真が貼ってある。
「オークションに出した子供たちです。
お客様もゾルディック家の要望とお聞きになりましたら、子供を差し出される筈です」
イルミがノートのページを一枚破ってヒソカに見せると、ヒソカは目を細めた。
「・・・」
口元を引きつらせた黒髪黒目の少女が手と足を結ばれた姿で、そこにいた。ヒソカはそれを男に見せて、目を弧に描いた。
「この子は?」
「そそ、そ、その子は、む、無理です!お、お許し下さい!私供の主催者は彼に殺されたのです!」
「で?」
「は、はい?」
「を買った奴の名前だよ★君は、主催者のように殺されたくはないだろう?」
「ひっ!」
男はガクガクと震え涙を零しながらも、口を開いた。
男の口から出た予想外の人物に、イルミとヒソカは互いに視線を交わした。
「へえ、意外だね。でも良かったじゃん。これで居場所を探す必要はなくなった」
「全然良くない。むしろ、最悪だよ。こんな事になるんだったら、殺しておくべきだった」
「クロロを?」
「を、さ★」
「・・・ヒソカ、正気?」
「ボクはいつも真面目だよ★」
「を殺したら、親父は黙っていないよ。君は、ゾルディック家を敵に回すことになる」
「依頼もなく君たちが動くというのかい?」
「うん、そういうことになるね」
「・・・あの時は、を見殺しにしたくせに」
「だから、さ」
もう二度とあんな思いはしたくない。
「きゃーーーーーーーーーーーーなんか、死んでる!おっさん、バリ死んでる!」
しばらくして、起き上がった女は悲鳴を上げた。イルミは死体を片付けるように彼女に命じ、ヒソカは上着を着て窓に向かう。
「人でなし!人殺し!アタシの部屋でなんてことすんのよ!部屋は汚さない約束だったのに!嘘つき!」
女は頬を膨らませて、窓から外に出ようとしているヒソカの背中を睨んだ。
「今更だね、ボクは快楽のため嘘をつき人を殺す★イルミだって仕事のために嘘をつくし人も殺すさ★」
クスクス笑いながら、ヒソカがそう言うと女はきょとんとし、頭をかしげた。
「・・・でも、イルミぼっちゃんは『仕事』のためっていうより、『家族』のためみたいな感じだし、 ヒソカにしても『快楽』っていうより『』さんのためって感じだよねー?」
その言葉に、イルミはドアノブにかけた手を止め、ヒソカも窓にかけた足を止めた。
温かいそよ風が、窓から吹き込み、殺伐とした空気を浄化する。
ヒソカはこの時確かに感じたのだ。胸の痞えを取り除かれたような、気持ちが軽くなったような、そんな感覚を。イルミも、どこかくすぐったい違和感を抱いた。
が、次の女の言葉で払拭される。
「ま、どんな綺麗な言葉並べても、二人とも所詮人殺しだけどね!きゃはは!」
鈍器のような物で後頭部を何者かに殴られ気絶している彼女を、他の使用人が発見したのは翌日の朝のことだった。