有為転変

42 /一進一退


トリップした人間には二つのタイプがある。 積極的に原作を変え、より良い未来を作るため奔走する者。原作キャラにかかわることを避け、安全なところで平和な人生を歩みたいと願う者。のタイプは、後者だった。




彼女は倫理観を持っていたし、世界をより良くしていこうと言う使命感に似たものも持っていた。

しかし、それに伴う感情が欠けていた。 何に関してもさほど執着しない性格で、彼女なりの「正義」があろうとも、それを押し付けることは決してなかった。人は「自分の意見を他人に押し付けてはいけない」という.しかし、本当に意見のある人は、自分の正義を信じる人は、この言葉を無視する筈だ。現に、世の中の思想は、押し付けあって今の形を作っている。



矛盾が出てきても、それが「法」だから、それが「常識」だからで、済ませる。
考え続けることをせず、誰かの知恵と思考に依存し、それを正しいと思い込む。

彼女もその大勢のうちの一人だった。彼女の「正義」は彼女自身が考え編み出したものではないがゆえに、そこに感情が組みいることが無かった。そして、彼女のもともとのドライな性格も相乗効果を生み、「偽善者」に限りなく近い人間になった。






本人も自覚はしていた。そうでなければ、ゾルディック家や臓器ディーラーであるニコラたちと付き合えるはずも無いのだ。

もし、彼女が本当に自分の正義を信じていたら彼らに嫌悪と憎悪を感じる筈だ。 笑って、同じ時を過ごせると言うことは、つまり、そういうことだ。


彼女は人のために、泣く事も無かったし、大好きな人たちと別れてしまった自分の不幸を感じることも特に無かった。

ニコラやヒソカの境遇を聞いても、悲しいなとか、泣きそうとか、辛いなとか感じても、次の日には忘れてしまう。流星街をよりよくしていこうと、IT事業で稼いだ資金で勝手にNGO法人も立てたが、 軌道に乗ったら他の人間を雇って、自分はノータッチだ。


勿論、それは新たな雇用を創出しているという意味で社会には貢献しているのだが、最後までやりきると言うことを知らないのがだった。



まあ、感情と行動が伴わないのは、よくある話しで、に限らずともたいていの人間はそんなものだろう。イラク戦争で何百人もの人が亡くなっても、私たちのほとんどは無関心だ。ニュースに取り上げられれば、感傷的になるが、だからといって、彼らを助けるため現地に赴くことはない。

それは悪いことではなく、普通のこと。そして、もまた普通の人間だった。








で、だ。


要するに、彼女にとって、これから起こるであろう「HUNTER×HUNTER」の事件はどうでも良いことだった。 キメラアント編は、恐怖感を抱くが、旅団編もGI編も私の見えないところで勝手にやっていてくれ、という感じだ。

先日パクノダに会った彼女だが、それでもその考えは変わらなかった。主人公組のレベルアップのためにも原作に関わるべきではないことも理由にはできるが、彼女が原作にかかわらないようにしようと思う一番の理由は、原作通りが一番良いと思うからだ。

パクノダもウボォーギンも、散々人を殺してきたんだし、まあ死ぬのは仕方ないだろ、他のメンバーもちっとは反省しろや、というのが彼女の考えだった。








「あ、ハンスさん。お帰りなさい」



はオークションで自分を買ってくれた青年とホテルで暮らしていた。ヒソカがとってくれたホテルの部屋の4分の1程の大きさの部屋で、二人はその部屋と備え付けのベッドを共同で使っていた。

ベッドについては、ヒソカがを一人の「女性」として扱っていたが、青年はを「子供」として扱っていたのの違いだろう。

「ベッドは一つで大丈夫か?」と男に聞かれた時、は思いっきり首を横に振りたかったが、そうすると、ホテルからベッドを一つ新たに借りなくてはならなくなるためお金がかかる。

断るのは憚られたので首に汗をたらしながらもゆっくり頷いた。 「ははは、大丈夫だよ。俺にそういう趣味は無い」と爽やかに笑う青年には喉を鳴らした。

外見こそ、20代半ばの青年と10歳前後の少女だが、少女の実年齢は40歳前後。






犯罪だろ、それ。



彼がロリコンでなくとも、は確実に彼に気があり、所謂ショタコンに成り下がっているのだから、全然大丈夫じゃない。




「夕飯はちゃんと済ませたか?」


「はい、頂ました。」



青年から上着を預かりハンガーにかけながら、は新婚夫婦みたいだと思い、気分が良くなる。 青年は話してみると意外と高圧的で多少ナルシストの気があった。

まあ、顔の良い男で驕っていない人間が、この世に存在するわけない、と、思っているは大して気に留めなかったし、自分に自信のある男は嫌いでなかった。




は彼のことを「ハンス」と呼んだ。青年は訂正しようとしたが、本名である「クロロ」という名前は知っているだけで、危険な目に合い易くなる。そう思って、彼はのその呼び名を訂正することは無かった。



、君が会いたいと言っていた男だけど、一応調べてみたが何も分からなかった。せめて戸籍があれば・・・」


「・・・すみません。ハンスさんのお手を煩わせてしまって」



「いや、こっちこそ、役に立てなくて悪い」



眉をハの字にして口を強く結んでいるクロロの肩には小さな手を乗せた。



「私は、貴方に感謝しています。あの時、貴方に買って頂けなければ、どんな目にあっていたか。考えるだけで夜も眠れません」




この会話を第三者が聞けば、白々しいと思うのは必至だろう。 実際、クロロは『昔が世話になった人間、ヒソカ』について何も調べなかったし、調べようともしなかった。
にしても、彼に全く期待していなかった。普通の人間がヒソカを探せるとは全く思ってなかったのだ。

この二人の辞書に「誠実」という二字は載っていない。







ヒソカについては、イルミが一番詳しそうだが、彼が口を割らないのであれば、他の人間に聞くしかない。しかし、当てが全くない。ミルキもシルバもキキョウも、連絡を取っている訳ではないらしく、結局、イルミの連絡手段であるパソコンか携帯を直接ハッキングし、情報を得るしかないのだ。

それは難しそうで意外と簡単だった. 何故なら、ネットインフラを構築したのはだから、だ。裏道はちゃんと用意してある。



はパソコンの電源を切ると、本を読み始めたクロロに話しかけた。




「ハンスさん、ヨークシンにはビジネスで来たとおっしゃっていましたが、9月1日は私に付き合ってくださいませんか?」


「え?」


「貴方がその1日、仕事をしないことによって生じる損害金は私がお支払いします」


は、クロロがを買う為に払った同額よりも少し上乗せして、クロロにお金を返していた。
が勝手に銀行をハッキングして、クロロの銀行貯金に勝手に振り込んだため、クロロが断る時間もなかった。


クロロはこの時、が只者でないことを知るが、その時は追求はしなかった。 彼は、を手に入れたことに満足していたし、彼女に特殊な能力があろうとも、彼女が自分の身をそれで守れるのであればそれはそれで良いと思っていたからだ。それに、


クロロとしては、いずれを旅団メンバーに紹介する予定だった。『俺の周りで見かけても手を出すな』という意味を含めて、流星街時からの付き合いの仲間には知っておいてもらおうと考えていた。ヒソカや新参者には、弱みと考えられ人質に取られる可能性が高いから話すつもりはなかった。



「ヨークシンから、離れた、そうですね。なるべく静かな田舎にいきたいんです」


「なんで?」



しかし、9月1日という日を上げてきた彼女にクロロは不信感を抱いた。その日は、世界一大きなアンダーグラウンドオークションが開かれ、そして幻影旅団により史上最悪の強盗事件が起こる日だからだ。





「実はその日、私の誕生日なんです」




満面の笑みを浮かべたにクロロは脱力した。

因みにの誕生日は9月1日ではない。ただ、何もないのに、こんなことを要求して、ヨークシンシティで世紀の大事件が起きたら、彼に不審に思われるのではないかと考えたのだ。それをは避けたかった。好意を抱いている人間に疑われることは誰だって避けたいことだろう。

「そうか。今年でいくつになるんだ?」

ふっと笑ってを見る。は胸がきゅんと引き締まるのを感じ、顔を赤くした。


「四十歳です」

「は?」

「あ、間違えました。十四歳ですね。十四歳。ははは」

「へえ、意外と大きいんだな。十歳前後だと思っていた」


「そうなんですよ。私、よく実年齢より若く見られるんですよ」

ええ、30歳ほど若くね。と、は心の中で零した。



「9月1日の昼は一緒に過ごそう。でもヨークシンで、だ。金は必要ない」


「え、で、できれば、夜が良いんですけど」


「その日は大事な取引がある。ビジネスで一番大切なものは金じゃない。信用だ。信用が金を生む。  、君にはまだ難しいかもしれないが、分かって欲しい」



クロロに頭をなでられながら、は眉をハの字にさせて悲しそうな顔をしてみせたが、内心ため息を零していた。。


当日は気絶させて、手足を縛ってそのままホテルに監禁しておこうか、等と物騒な考えが頭をよぎるが、即座に首を横に振った。若い男とホテルに泊まっているだけで、もうギリギリのラインなのに、そんなことをしてしまったら本物の犯罪者になってしまう。





は、、クロロに好意を抱いていた。彼の身を案じるのは当然のことだったし、9月1日の夜、彼の後を追うのは必然だった。念能力者である自分は、例えば彼がオークション近くで取引をして巻き添えになったとしても、彼を守ることができるのではないかと、彼女は思っていた。

















それが、とんだ間違いであったことを彼女が知る時には、もう何もかもが遅かった。


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