9月2日AM00:00
マフィアに捕らわれたウボォーギンを仲間が救出
結局、旅団のこの日の稼ぎはゼロ
9月2日AM05:00
ウボォーギンが単独でクラピカと接触して交戦状態に
しかしクラピカトの激闘の末に死亡
「何書いてるの?」
「明日の予定です」
私は、ヨークシンシティのサザンピースにある公園のベンチで、パソコンを打っていた。
自称誕生日の今日。ハンスは約束通り昼食を共にしてくれた。
小洒落たレストランで、エメラルド色の宝石が散りばめられているネックレスをくれた。
何でも、曰く品らしく、「小宇宙の扉」と呼ばれており、持っていると危険を回避してくれるらしい。胡散臭かったがもらったものだし、付けないわけにはいかない。石の種類はよく分からないが高そうだし、とりあえず、失くさないよう気を付けたい。
ここにレオリオかクラピカがいたら、もらい物にケチを付けるな、とを叱っただろう。
昼食後、はハンスの身を案じて後を付けてみたが、途中で集中力が途切れてはぐれてしまい、迷子になった。
そして、今に至る。
パソコンを閉じて、声をかけられた方を向くと、黒のタートルネックにジーパンをはいたショートカットの女性がいた。大きな黒ぶちメガネをかけているが、美人なため、それほどダサくは見えない。
「この辺でオークションあるらしいんだけど、場所知らない?」
「迷子ですか?」
「うん。迷子なの」
「奇遇ですね。私もです」
「あらら」
女性がベンチに腰掛けたので、は少し腰をずらして彼女が寛げるスペースを作った。
彼女がお礼を述べると、は首を振ってから、困ったように笑った。
「初潮が来ていない女の子と肉体関係を結ぶことって、ありだと思いますか?」
の突然のぶっとんだ質問に女性は一切動揺せずに返事を返した。
「有りか無しかと言ったら、有りじゃないかな。でも、私は男じゃないから分からない」
「・・・そうですか。ありがとうございます。あの、オークションでしたら、たぶんあっちの方で行われると思いますよ」
は西の方角を指差した。
「先ほどから富裕層の方たちが向かわれていますから」
「なるほどー」
「でも、本日は参加されないことをお勧めします」
オークションに参加する人全てを助け出すことはできない。けれども、偶然出会った人の運命を変えるくらいは許されるのではないかと思った。
不思議そうに首を傾げている女性には言葉を続けた。
「勘です。よく当たるんですよ?」
信じる信じないかは、彼女しだいだった。
そして、それによって彼女の人生は左右されるのだ。
だから、はできるだけ彼女に信じてもらえるよう声のトーンを低くして話した
が、彼女が発した次の言葉では自分が犯した大きな間違いに気づくことになる。
「すごいねー。マチと同じくらい当たるんじゃないかな」
「マチ?」
はベンチから立ち上がり、少し後ずさって彼女を下から上までじっくり観察した。そして、彼女の後ろにある大きな掃除機を見た瞬間、眩暈を覚えたはその場に倒れたのだった。
ハンスからもらったネックレスの効果はいまいちだったらしい。
次に目が覚めた時には、マンションのワンルームにいた。酒と鉄の匂いが混ざり合ってあたりに充満していて、吐き気を覚えた。最悪の目覚めだった。
「ん、起きたか?」
ふとんをはいで、ベッドの脇に座り前を向くと巨人がいて、驚いた。この時、私は、目を丸くし、口をぽかんと開けて、阿呆面を晒してしまったに違いない。
しかし、顎を持ち上げ口を閉じ、目を強く擦ってみても、目の前の巨人は消えなかった。
そこで私はようやく悲鳴をあげたのだった。
巨人は、大きな手で私の口というか顔を掴んで黙らせ、隣にいた小人・・・、いや、これが普通のサイズか。彼はパソコンを打ちながらビールを飲んでいる金髪の青年に声をかけた。
「シャル、シズクの客が起きたぞ。俺たちのこと怖がってるみたいだが、本当に勘が働くんだな」
「いや、だいたいの子供はウボーを見れば泣くと思うよ」
「なんだ。勘じゃなくて、ただの失礼な奴なのか」
は瞬時に目の前の二人が誰だか分かった。
いや、名前を言っているのだから、分からないはずは無いのだが、それでも彼らが原作の登場人物であり、しかも悪名高い幻影旅団のメンバーと知ってショックを受けていた。一体どうしてこんな事になってるんだ。
その思いを汲んでくれたのか、金髪の青年、シャルナークがこれまでの経緯を大雑把に説明してくれた。先程公園で会った女性、シズクがのことを気に入り、というか鋭い勘を買い、
旅団に有益な人間だと見込んで連れて帰ってきたらしい。
なんて傍迷惑な女なんだ。こっちの都合も考えろ。
と、怒鳴りたいところだが、怒鳴ったら最期、殺されるのは必至。深呼吸して落ち着いてみる。
シャルナーク曰く、私がここにいる理由は、シズクの忘れ癖で誤ってを殺さないためだとか。それでも、仲間にするかどうか最終的に判断するのは団長で、彼が首を横に振ったらは殺されるらしい。
・・・究極の自己中だ。
本当に大雑把な説明だったが、原作を知っていたため大体のことは把握できた。
時計はもう0時を過ぎていた。なるほど、ウボォーギンが死ぬ直前の場面らしい。
せいぜい最期の別れを惜しめよ。シャル。と、心の中で悪態づく。
理由もなく人を殺す人間の味方には到底なれなかった。いや、理由があってもやはり味方にはなれないだろうが。
が、物語の展開は常に私を裏切る。
「お前、俺たちの仲間になるんだったら、現場に慣れねーといけねーな」
いや、無理です!
「よし、俺に付いてこい。手本を見せてやる」
いや、結構です!
「大丈夫だ。今回の相手はただのガキだ。見物していれば良い」
君、そのガキに殺されるから!私を巻き込まないで!マジ、お願いだから!
恐怖に怯えて口を金魚のようにパクパクすることしかできない。この時、初めて私はピエロが、今まで私を怖がらせないように気を配っていたことを知った。普通に話していても、この人たちは威圧感がある。
好青年のようなシャルナークでさえも、口答えできないような雰囲気を醸し出していた。
ウボォーギンに俵担ぎされたは去り際にシャルナークに向かって叫んだ。
もう、やけだった。
「あの!」
「何?」
ようやく口を開いたに興味を抱いたのか、シャルナークは顔を二人がいる窓の方に向けた。は彼の目をじっと見て質問を投げかけた。
「初潮が来ていない女の子と肉体関係を結ぶことって、ありだと思いますか!?」
直後、ウボォーギンは足を滑らせ、シャルナークは口にしていたビールを噴出した。
ウボォーギンが窓から足を滑らせた為、二人は真逆さまに落ちた。そして、はまたもや気絶してしまっていたのだ。
気づいた時には、既にクラピカとウボォーギンは戦っていた。
人里はなれた周囲の人間に気を配った場所を選んでいると思うが、できれば私にも気を遣って欲しい。
「何故貴様は何も考えず、何も感じずにこんなマネができるんだ!!答えろ!!」
そして、は見学と言われていた筈なのに、何故か首に固定され担がれていた。しかもは布で包まれているため、外からはただの巾着袋にしか見えない。
なんだ、見学じゃなくて、体験入団か?
「最後のチャンスだ。貴様の心臓に戒めの楔を差し込んだ」
なんて、思ってみるが、事態は思ったよりも深刻だ。体中が痛い。
えっと、貫通しました。戒めの楔。私の体にも貫通しました。暗い袋の中でもわかる
細い管が背中を通って胸の辺りから出てきてる。
ちょ、クラピカさん!何やってんの!
「私の質問に偽りなく答えること。それさえ、守ればしばらく生かしておいても良い」
このまま行けば、間違いなくウボォーギンと心中することになる。命乞いをすれば、クラピカなら絶対助けてくれると言う確信があった。なんたって、主人公組だ。が、布は頑丈に縛られているようで、体が全く動かない。うわ、もう目頭熱くなってきた。
「他の仲間はどこにいる?」
涙がボロボロと出てきた頃、体をギシギシと布以外の感触のものが縛り付けてきた。
あー、そっか、これ、鉄の鎖だ。死ぬ。これ、確実に死ぬ。布の中からでもウボォーギンが笑うのが分かった。
「くたばれ、バカが」
漫画通りだったけれど、それでもぎょっとした。正気!?と、叫びたくなった。つーか、クラピカさんって、旅団じゃない私を殺したら制約で死ぬんじゃないかな!?
ズキュンという音と共にウボォーギンは倒れた。私はというと、意識はあるものの鎖に縛られていた所為で体が痺れて動けない状態だった。恐怖もあいまって口も開かない。何をするまでもなく汗をただ流していると、土を掘る音が聞こえてきた。
そして案の定、ウボォーギンとともに土の中に入れられた。生き地獄だ。
体の自由が効くようになった頃、は土を盛り返して地上に這い上がった。
誕生日だからと言ってハンスが用意してくれたフリルがいっぱいあしらわれたワンピースは見るも無残な姿になって泥だらけの体で、肩で息をする少女はまるで妖怪のようだったが、幸い目撃者はいなかった
は大きくため息をつくと、ワンピースに付いた泥を払い、ぐしゃぐしゃになった髪を整えた。
何故、自分が生きているのか分からないが、これまでいくども超常現象を目の当たりにし、体験しているは
深く考えないよう勤めた。もう、何もかもが面倒だった。
早く帰ってシャワー浴びたい。の頭の中は、その事しかなかった。
どこぞの名探偵のようにウボォーギンの首に手を添えて脈をはかるが、
学校の保健で自分が脈を取るのが苦手だったことを思い出し、すぐに手を引っこめる。
どうせ、死んでいるだろうし、このまま放置してタクシーを拾おう。ハンスと泊まったホテルの名前を思い出し、ポケットに入ってる紙幣を取り出して枚数を数える。
何とか帰れそうだ。は周りを見て死体に土をかける為のシャベルを探す為立ち上がった。
しかし、死体に背を向けた瞬間、足を引っ張られたは小さく悲鳴を上げて転んだ。足元を見て彼女は自分の目を疑った。
「何、驚いた顔してやがる」
死んだはずのウボォーギンが喋リ出したのだ。
いやいや、驚くよ。貴方、なんで生きてるんですか。
「お前の念だろ?」
「え?いや」
まさか、例え私にそんな便利な念能力があったとしても、貴方を生かす為には使いませんよ。
と、言ってしまう勇気はさすがになかったので、首を傾げるだけに留めた。
「今回は助かった。感謝する」
ウボォーギンは確かに生きていた。しかし、口と指を僅かに動かせるだけのようで、他は微動だにもしなかった。
「靴底に携帯が入っている。それで連絡をとってくれ」
彼に言われたとおりに、は彼のブーツの底に付けられていた携帯を取り外し、
ウボォーギンの顔の前に持っていき、ぶらさげて見せた。
「これですか?」
「ああ」
彼が小さく肯定の意を示すのを見て、はその携帯を素手で粉々にした。
驚きで目を大きくする彼に理解しがたい理由を話す。
「あと、3日間だけで良いんです。ちょっと眠っていて頂けませんか? 貴方が生きていると、クラピカさんは自分の能力に自信を失くすでしょうし、それは物語の進行を避けてしまいそうだし、
それで主人公組のレベルが上がらなくなって、キメラアントを倒せなくなると困りるんですよね。 最終的にあの子にも被害が及ぶことになりかねませんから、ね」
「お前、あの鎖野郎の仲間だったのか?」
「だったら、私は貴方をこの場で殺しています」
は、ハンスに危険が迫った時、敵と戦えるだけの道具を用意していた。
といっても、強力な睡眠薬だけだが。は睡眠薬のビンをポケットから取り出すと、疲弊しているウボォーギンに話しかけた。
「これから3日間飲まず食わずになると思いますが、貴方なら大丈夫です。ゆっくり眠ってください」
額に汗を流しながらも、どろりとした液体型の睡眠薬を傷口に塗り込んでいく。恐怖感よりも使命感のほうが勝っていた。
「一つだけ聞いていいか?」
額の汗を服で拭ってから、小さく頷いた。
「お前は俺たちの味方か?敵か?」
「他の一般人と同じです。貴方たちは私の敵に成り得るかもしれませんが、私は貴方たちの敵にはなりえません。」
「・・・そうか」
「私も一つ聞いていいですか?」
ウボォーギンは目で先を促した。
「初潮が来ていない女の子と肉体関係を結ぶことって、ありだと思いますか」
ゆっくり目を閉じながら、彼は口をゆがませて小さく笑った。
「趣味の問題だろ」