大都市には必ずスラム街がある。
煌びやかな世界から追放された人間。
自ら闇の街に飛び込む人間。
そこで生まれ育った人間。
様々な人間が生き鬩ぎあう。
この街は都市が大きければ大きいほど膨張し肥大化する。
流星街も例外ではなかった。
治安が悪いのは勿論のこと、人が増えても減っても誰も不思議に思わない。
それが日常で至極当たり前のことだからだ。
瓦礫の下でネズミたちは餌を分け合い、時に奪い合い、時に殺しあう。
子供たちはそんな風景を見ながら育つ。街は厳しい母であり、父であった。
人より多くのものを学び、武装し、そして戦わなければ、この街では生き延びられない。
だから、子供たちは切磋琢磨して己の能力を磨いた。環境に合わないものの多くは死を強いられた。
希望より失望の多い毎日で、満たされない欲望だけが胸に燻リ続ける。
一人また一人と同じ思いを抱く人間が現れて、やがて彼らは団結する。
彼らは都市の溢れ出た欲望が具現化されたものだった。
彼らは誰よりも努力した。そして強くなった。
彼らは人々を襲うようになった。
人々は彼らを非難し罵った。
泥棒、人殺し、と、糾弾し追放し殺そうとした。
しかし、最期に人々は命乞いをすることになる。
彼らの圧倒的な強さの前では誰しもがひれ伏した。
究極の下克上。一瞬にして立場が変わる。
戸籍のない、社会的に存在しない者たちがが人々を襲う。
人々は、恐れ慄き、嘆き悲しむけれど、決して気づくことは無い。
彼らが、自分たちが知らないうちに作り出してしまった悪魔だったことを。
無関心と無情が作り出したスラム街。
救いの手を差し伸べてさえいれば世の中は変わっていく筈。
少しの関心と慈悲をーーーーーー
「初潮が来ていない女の子と肉体関係を結ぶことって、ありだと思う?」
ほの暗い廃墟の中、珍しく本を読んでいるヒソカに声をかけると、ヒソカは表情を一切変えずに壊れ物を扱うように本をそっと閉じた。
題名はヒソカの手によって遮られて見えなかったが、著者はという有名なネットの創設者だ。
巨大なNPO法人を組織化したり、本を出したりしていて一部の人間には有名らしいが、
ヒソカとは全く関係のない人間のうように思える。
「ボクは構わないね、むしろ興奮するかも★」
「やっぱ、ヒソカは肯定派か。パクは『軽蔑するわね。人として恥ずべき行為だと思うわ』だって」
「女の感覚と男のそれを一緒にしないで欲しいな★シャルナーク。君だってボクと同じ考えだろう?」
「俺は小さい女の子に欲情したことないから、なんともいえないけど、そうだな、
肉つきの良い体をしていたら、初潮が来ていようといなかろうと関係ないと思う」
狭いアジトの中で、俺とヒソカの会話を否応なく聞いてしまったマチがすっごい嫌そうな顔をしていたけれど、そんなことは気にせず、俺たちはロリコンについての考察を開始していた。
許容範囲は何歳からか、という話をし始めた所で、今まで寝ていたシズクが急に起きて、側にいたマチに話しかけた。
「初潮が来ていない女の子と肉体関係を結ぶことって、ありだと思う?」
マチは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたが、それから眉を吊り上げ生真面目そうな顔をして返答した。
「軽蔑するね。人として恥ずべき行為だと思う」
明らかに、俺たちに対する敵意をむき出しにしていた。そんな彼女に対して、ヒソカは下卑た笑みを浮かべた。
「なんだいマチ、嫉妬しているのかい?安心してボクは意外と一途なんだ★」
「どうして、そうなるんだい?アンタの頭一度かっぽじって見てみたいよ」
「かっぽじるのはボクの方だと思うけど、君がそういうなら」
「アンタは普通に会話ができないのかい!?」
マチは顔を真っ赤にさせてヒソカを睨んだが、それはヒソカの笑みをより一層深くする仕草でしかなかった。
二人が不毛な会話を続けている中、俺はシズクに声をかけた。
「シズクも彼女にその質問されたの?」
「あれ、シャルも?」
「よく忘れずに覚えていたね」
「うん。インパクト大きかったから」
「確かに」
「彼女は?」
「ウボォーが現場を教えるって言って連れて行っちゃった」
「なーんだ。団長に報告したかったのに。でも、あの子戦闘に不向きだから、死んだかもね」
「ああ、ウボォーが誰かを守りながら戦うなんて器用なことができるとは思えないし、そうだね。 その可能性は高いね。でも、勘が鋭い人間ならマチがいるし、別に惜しくはないよね」
「そうかもしんない」
自分から入団を誘っておいて、シズクは案外冷酷な態度をとる。ノブナガだったら、こうは行かないだろう。
なんでウボォーに任せたんだとか、今どこにいるんだとか、探しにいくだとか喚く筈だ。ノブナガでなくて良かったと、
俺がほっと胸を撫で下ろしたとき、クロロが扉を開けて部屋の中に入ってきた。
そして、俺ら。
つまり、シズク、マチ、ヒソカ、そして俺を順に見渡すと、
ヒソカの方に向かって、カツカツと靴を鳴らしながら歩き出した。
この時、クロロの表情がいつになく暗く真剣み帯びていて、俺は固唾を呑んで見守っていたが、マチは怪訝そうな顔をしていたし、ヒソカは相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべていた。シズクに至っては、団長が来たことに対して、何の関心も抱いていないようだった。
そして、カツンと足音が止んだと同時に、クロロはワザとらしく咳払いをした。そして、目を泳がせて、とても言いづらそうに、けれどもはっきりとした口調で言葉をつむいだ。
「初潮が来ていない女の子と肉体関係を結ぶことって、ありだと思うか?」
「はあ?」
ヒソカは素っ頓狂な声を上げた。初めて彼が俺らに見せた素の表情だったかもしれない。それから、意味を把握したのか、ヒソカは真っ青な顔をしてクロロをじっと見た。
俺は何故、クロロがそのような質問をするのか分からなかった。だって、肯定するに決まっているじゃないか。相手は、あのヒソカだ。俺には肯定してもらいたいようにしか思えなかった。俺と同じことを思ったのか、マチも怪訝な顔をしている。
ヒソカは目を細めてクロロを下から上まで見て、眉間に皺を寄せた。
「軽蔑するね。人として恥ずべき行為だと思うよ」
それは地を這うような声だった。
絶句した俺たち。項垂れるクロロ。表情を露にするヒソカ。
それは、非常に珍しい光景だった。