有為転変

58 / 人事不省


、会いたかったよ」


ニコラに瓜二つのその顔に驚きはしたものの、私は満面の笑みを返した。

原作ヒソカに案内されたレストランの個室で、私は「ヒソカ」に会った。ややこしいな、もう。原作ヒソカは「それじゃ、ボクはここで」と途中で退出した。彼は意外と空気が読める人間だ。少なくとも、クロロや美由紀やゾルディック家の人間たちに比べれば、彼は普通以上に人の感情に敏感で気を配れる人間だ。因みに、この評価は後者を褒めているわけじゃない、前者を非難しているんだ。



「甦ったってイルミから聞いた時は驚いたけど、また会うことができて本当にうれしいよ。が死んだ時、ボクも一緒に死のうと思ってたくらいだからね。生きていると良いことがあるって本当だね」


「ヒソカ、あの」

「おっと、謝んないでね。今日は謝罪の言葉を聞きに来たわけじゃないんだから。シェフお勧めの赤ワインを飲みながら食事に舌鼓を打ち、僕の話に耳を貸すべきだ」



16年ぶりに会った彼はとても気さくで、饒舌で嫌な沈黙を落とすことなく、私の胸のうちにあった蟠りをとかしていくようだった。笑顔を絶やさずに、私が死んだ後から今までどのように人生を送ってきたのか語ってくれた。ユーモア溢れる彼の話に聞き入った。


彼は今普通のサラリーマンで、ヨークシン郊外のオフィスビルで働いているらしい。サラリーマンといっても色々あるのでちょっと控えめに職業を聞いてみたら、彼は照れたように笑って「銀行員」だと言ってくれた。未だかつて銀行が倒産したことのないこの世界では銀行員は非常に良い職業だ。金が動いている限り銀行は倒産しないと言われている。物々交換が主な経済活動であるクジラ島を除けば、貨幣経済が浸透しているこの世界で、銀行に勤めているとすれば、それはとても喜ばしいことだった。安定しているし、老後の年金の不安もないだろう。

私は目の前に用意された豪華な食事に手を付けながら、懸命に彼の話を聞いていた。彼が今までどんな思いで世の中を渡り、どんな夢を持っていて、これからどんな風に生きて生きたいか。それは、本当に素晴らしい模範的な回答で、私が心から望んでいたものだった。涙が溢れるのを止められなかった。



「お仕事、頑張ってね」

も病気や怪我に気を付けてね。困ったことがあったら相談に乗るよ」



ずっと聞き手に回っていた私だったが、デザートが出てきた頃、一つだけ彼に質問した。それからレストランの洒落た暖簾を潜り私たちは最後に抱擁を交わして別れた。











レストラン前の大通りを行く当てもなく歩いていると、後ろから声をかけられた。勿論、すぐに誰だか分かった。彼は、にっこり笑みを貼り付けたような胡散臭い顔を私に向けると、感想を聞きたいな、と言って、近くの個人経営店の小奇麗な喫茶店に連れて行った。私は断らなかった。

あまりに色々なことがあって、死の恐怖など、とうに麻痺していたし、この世界に残った意味もなんだか曖昧になってきていた。クラピカを殺人者にしたくない為にパクノダとウボォーギンを助け、旅団の繁栄に手を貸してしまったことは一生悔いるべき行いだと胸に刻みながら「この世界」で生きていこう。そんな消極的な考えがあった。

クラピカにヒソカを重ねていた。クラピカが殺人者にならなければ、ヒソカもそうでなくなって、ことのつまりは私に非がなくなると思っていた。結果、私は―




「感動の再会を迎えた気分はどうだい?食事は楽しめたかい?」

気分が良いとは言えなかった。

「彼はとても良い人だった」

むしろ、良い人過ぎた。不自然な程に。


「君もこれで安心だろう?」



散々不安を掻き立てておいて、いう言葉がそれ?一体何様のつもりだ。
強い憤りを感じた。八つ当たりにも近かった。


先程、あった青年はあの子じゃない。

これは推量や確信なんて曖昧なものではなく事実だ。だって、デザートが運ばれてきて彼がケーキを口に含んだと同時に私は質問したから、依頼者は誰かと。彼は嘘をつけないような本当に良い人だったようで、目の前にいる人物の名前を挙げた。本当にこの男はいつも最後の詰めが甘い。




、これからどうするの?」



でも、一体彼に何のメリットがあると言うのだろう。「ヒソカ」だろうが、偽ヒソカだろうが私に合わせることで、彼が得するようなことは何もない。目的を考える。止めていた思考をフル回転させて、問題を見つける必要があった。そうでなければ、いつまでも前に進めない。



「まず家を買って、それからシナモンをたっぷりふりかけたアップルパイを作って、それから、まあ今後のことを考える」



彼は困ったように笑って「そう」と息をついた。


その時、私はポケットに仕舞ってある彼の写真をふいに思い出した。フル回転させた脳みそは、ある一つの結論を導き出して、そしてそれは、逆説的に考えても何の不自然のないようなもので、私は、愕然とした。


全身から血の気が引いた。









「ねえ、。最後にゲームをしないかい?」




ポーカーで勝負しようと言って、ヒソカは具現化したトランプを机の上に置いた。私が頷く前に彼はトランプをきり始めた。混乱する頭を少しでも落ち着かせようと、トランプを手に取る。




最初に引いたカードの中にはワイルドカードがあった。
心臓が飛び跳ねそうになった。




ゲームが進むにつれて、ダイヤの4が、次にスペードの4が、それからクローバーの4が手元に集まってきた。額と米神から嫌な汗が流れてくる。ヒソカはゲームに集中しているのか一度もこちらの様子を見ることはなかった。心臓の鼓動がどんどん早く、どんどん大きくなっていく。 私はアイスティーをシロップもミルクも入れずに口に含んだ。氷の小気味良い音がなるが、喉が潤うことはなかった。











「ボクの負けだね」

私は最後にハートの4を手にして、彼に勝った。













誰が誰に嘘をついたかではなく、誰が誰に嘘をつかせたか。
それが問題だ。視点を変えれば、被害者と加害者は容易に逆転する。



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