買い物と掃除、近所の地理の把握等で、1週間はあっという間に過ぎた。
しかし、私は未だにヒソカから本当の名前を教えてもらっていなかった。
目の前で、クロワッサンを頬張っているヒソカを見て、口を緩める。今日の朝ご飯は、目玉焼きを作ろうとしたのだが、卵が崩れて結局スクランブルエッグになった。
この世界に来てから、異常に力が付いた私は力加減がよく分かっていなかった。
卵だけならまだしも、昨日はドアノブを壊したし、その前は壁を壊した。この家の壁がもろかったのだろうと一人納得してみたりもしたが、ニコラに自分が念能力者であると
言われたことを思い出して、溜息をつく。
念ってなんですか?っていうのは今更だろうか?
例えば、ニコラが言った念がHUNTER×HUNTERの念と同じものだとして、自分が扱えるものだとは到底思えない。
真っ黒いコーヒーを睨みながら、深い溜息をもう一度付いた。
「どうしたの?」
口元にパンくずをつけ、怪訝そうにこちらを見るヒソカは、うん、とってもかわいかった。
「なんでもないよ。それよりも、ヒソカって、8歳って言ってたけどさ。学校とかってどうするの?今、休み?」
「学校?」
こっちの世界に学校があるかどうかすら知らない私は、ちょっと不安げに聞いてみた。
ヒソカがきょとんとした顔で首を傾げた。
「ボクは学校に通わないよ?」
「え、・・・その年で不登校?」
ヒソカは見たところ、健康で学校に行けない理由なんて一つもありそうに無かった。
養育費だって、100万ジェニーをぽんと出してしまうような親御さんだ、簡単に出せるだろう。
念能力だって彼は私と違って上手く扱えているようだった。よくは知らないが、彼がドアノブを壊したり、壁を壊したりしてしまうことは無かった。
「ヒソカ、あのね。学校にいくことは大切なことなのよ。机上の勉強だけじゃなくて、 友達を作ったり、遊んだりして、協調性とかは育んでいくし」
「は学校まで行ったの?」
「勿論、義務教育は済ませたわ」
「なのに、どうして字が読めないの?」
「・・・」
どうしてですか?それは異世界から来たからです。
そう言っても、私は別段気にしないのだけれど、彼の親御さんは気にするだろう。頭がいかれてる世話係なんかすぐにクビだ。
「私の住んでいる所と、ここの文字は違うのよ」
「世界共通言語だよ」
でも、異世界だから!
と、言いたいのを我慢する私。
気持ちを落ち着かせるために、冷めたコーヒーを喉に流し込み、食パンを少しかじる。
「文字なんてすぐ覚えるわよ。話せるし、聞けるんだから、それに記号を当てはめるだけの作業なんてことないわ」
「ふーん。ねえ、って、あの金髪の男に僕のことどこまで聞いたの?」
「ニコラのこと、男だって知ってるんだ?」
「人の性別くらい分かるよ」
「・・・そ、そう。あー、世話係が必要な男の子って聞いてたけど?」
「それだけ?」
「え、うん。なんで?」
何か知っておかなければならないことでもあったのだろうか。眉をたらしてヒソカの顔を覗くが、彼は立ち上がると食器を流し台にそのまま持っていった。
ポケットにしまってある携帯で確認した方が良いかと思案していると、ヒソカに腕を握られた。
「、今日はトランプやろうよ。」
彼のあどけない笑顔に、自然と笑みが浮かんだ。
「いいよ」
この時
彼について、私は何も理解していなかった。
彼が何故、あんな質問をしたのかも、彼が何故笑ったのかも、理解していなかった。