畑シリーズ

青菜に塩:すっかり元気をなくしてしおれている様子



受付所が一番忙しいのは、夕時である。西側に位置する太陽が、とイルカを赤く染め、二人の影を長くする。いつもは、忍たちが忙しなく行き交い、人で溢れかえっている筈の受付所だが、先日からパタリと人気が無くなった。

コツ、コツ、コツ、コツコツコツ

辺りは、静まり返り、の爪先が机を叩く音だけが延々と響く。



、もう少し落ち着いたらどうだ?」

「木の葉の忍は、受付係を選ぶんですかぁ?、超心外っ。」



そう、が兎だとばれてからと言うもの、受付所に通う者が、ドッと減ったのだ。しかも、が休憩に入ったり、休日になると、皆こぞって書類を提出しに来るので、イルカの仕事が倍増した。

それでも、イルカは、を非難せず、疲れも見せずに仕事を手がけている。昔と態度を露ほどにも変えずに、だ。


そんなイルカを横目で見て、は申し訳なく感じる反面、情けなくもあった。暗部から送られてきた報告書と照らし合わせて、CランクをAランクに格上げする。報告書の記入漏れを埋める。他の里からの電報の確認。

そのような裏作業である資料の整理はできるが、忍との応接の方が余程しんどいことは分かりきっている。は、今しがた修正を入れた書類を握り締めて、唇を噛んだ。



「ちょっと、資料室に行ってくるから、ここよろしくな」



よろしくも何も、誰も来ねーよ、と、言いたいのを我慢して、にっこりと笑顔を向ける。


「はーい。行ってらっしゃいませ!ご主人様っ!」


イルカが苦笑しながら、「人の噂も七十五日って、いうから気にするな」と去り際に言い置いていった。この言葉に、の涙腺が緩んだのは致し方ないことなのだろう。



「あらら、優しいーんだね。イルカ先生」


すぐ後ろから声がし、涙が引っ込む。


「・・・カカシ」



地を這うような低い声が出た。


「あれ、俺には『お帰りなさい、ご主人様』って言ってくれないの」

「あれは、イルカ限定のプレイだ。」

「贔屓って、いけないと思う」


カカシの話を無視して、書類整理を続ける。廊下のほうから高い声が聞こえてきた。



「カカシ先生―!!!早いってばよ!」

「お前らが、遅いんでしょーよ」


息を切らしたナルトがカカシに詰め寄り、サクラが「うるさーい」と怒鳴る。そしてサスケが、興味深く周りを見回しながら、に報告書を出してきた。


「人がいないな」


「ホントだってばよ!皆どうしたんだ?」


サスケの言葉に敏感に反応を示すナルト。息はぴったりだ。彼らの話を聞き流しながら、記入漏れがないか、赤ペンでチェックを入れる。


「そんな日もあるでしょーよ」


カカシがすかさずフォローを入れてくれるが、イルカの時の様な感動を覚えない。これは、人柄の所為だろうか。



「夕時に、受付所が込まなくて、一体いつ込むんだ」


サスケが、もっともなことを言う。


「はいはいはいはーい!!俺っ、スッゲーこと気づいたんだってばよ。」


聞いて聞いてと、ナルトが目を輝かせて、得意げにしゃべりだした。


姉ちゃん、受付譲にしては、もう若くないんだってばよ。だから、人が来なくなったんだってばよ!」



ピシッと、赤ペンに、ひびが入る。



「ちょっと、ナルト失礼でしょ!」



それを見て、焦ったサクラが、ナルトを殴った。が、サスケが追い討ちをかけた。


「確かに、もう限界があるんじゃないのか。」


「え、サスケ君・・・。・・・え」


サクラが、の表情をチラチラと伺いながらも、恋の力に敵うものはなかったのだろう、小さい声で、私もそう思ってたのよ、と顔を赤らめてサスケに同意を示した。赤ペンのインクが、の手から滴り落ち、報告書を赤く染める。


「不備はないわ」


報告書を真っ赤に染めて言う台詞ではないが、にっこり笑顔を貼り付けて、ごくろうさま、と、いう。みあげたプロ根性だと、自分を褒めてあげたいとこの時、は思った。



「じゃ、また後でな。




カカシは不穏な空気を感じて、三人を外に出るよう促した。










パタンとドアが閉まり、辺りが静まり返る。窓から、外に出た4人の姿を確認すると、はAランクのファイルを、引き出しから取り出した。桃地ザブザについての暗部報告書を焼き捨て、Aランクの依頼書を、乱暴にCランクのファイルにいれる。



「くたばれ、七班」



不幸か幸いか、人気のない受付所。この悪魔の呟きを聞いたものは、いなかった。翌日、の推薦で
火影から渡されたCランク任務のため、カカシ班が波の国に行ったのは、言うまでもない。


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