畑シリーズ

草鞋を穿く ( わらじをはく ):旅に出ること


夜明け前の木の葉は、薄暗く少し冷気が漂っている。

男と女の逢引の時間には適していないが、忍びの活動開始時間としては正しい時刻。

里を一望できる火影岩の上、歌舞伎の化粧を施したような顔の男の姿があった。

枝の上で寝ている女を見つけ、男は眉を下げた。



「待たせたな、


「・・・自来也様。遅刻は孫弟子譲りですか?」


は目を開けると、そのままの姿勢で皮肉をいった。

ワザとらしい咳払いが夜の木の葉に響く。


「そういえば、わしが先日送った小説は読んでおるか?」


「まぁ、それなりに・・・」


「なかなかのものだろう?」


「感想は特にないんですが、強いて言えば、両面印刷はどうかと。メモ帳にもなりませんよ」


年上を敬うのは、秩序を守ることと同じことだと、思っているは、年寄りを邪険に扱うことはなかったが、丁寧語さえ使えば、何でも許されると思っている節があった。





梟の鳴き声が止み、
木々がざわめきだすと、同時に小さな声で自来也は用件を話し出した。


「一昨日の晩、暁に送った木の葉の間者が死んだ。」


「・・・彼は暗部の中でも優秀な人間でした、ね」


木の上から降りて、自来也と目を合わせると、彼は小さく顎をひいた。


「『卯月夕顔』は知っておるか?彼女が後任を任される予定じゃ」


「・・・僭越ながら、彼女は潜入忍に向いてないと思うのですが」


「だから、お前が、この任務引き受けてほしい」


が眉を顰めると、自来也はにやりと笑った。


「無職は辛いじゃろ?」


「受付の解雇、仕組みましたね?」


「口添えしただけじゃよ。優秀な暗部がまた殺されるかもしれないといってのう。」


「それは脅迫ですよ」


「だが、真実でもある。かわいい後輩を死なせたくはないだろう?」


「それも脅迫ですよ」


「彼女の恋人に恨まれたくはないだろ?」


ハヤテの青白い顔を思い浮かべた。夕顔を死に追いやったら、なるほど、呪われそうだった。
が小さく溜息をつくと、自来也が、いやー助かるのう、と笑った。


「・・・私の夫に恨まれても知りませんからね。」


その言葉をきいて、自来也が目を見開いてを凝視する。
その顔には、いつ誰と結婚したんだ?と書いてあった。

は、自来也から目を逸らし、上を向いて薄く笑った。

隣にいる自来也にではなく、

空に浮かぶ月に報告するように、瞳を月明かりに反射させ、ゆっくりと口を開いた。



「先日、カカシと夫婦になりました」


自来也は、冗談だろう、と短い悲鳴をあげ、口をあんぐり開けた。

風が吹き、木きが揺れささめきあって、大きな音を出す。朝日が昇り、月が霞む。





さて、カカシにはどう説明したら良いものだろうか。










月と太陽が地平線でその地位を争う。
今は一日の始まりの時刻、勝敗は決まっていた。

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